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第3話 リスナーさんとの出会いは貴重です

 俺の目の前に積み上げられる、皿にカップにサラダボウル。


「おかわり!」


 それを築いた主は、片手を挙げておかわりを要求し、


「はーいっ、今すぐお持ちしますね」


 日頃聞き慣れている元気な声が、真横のカウンターから響き渡った。


「あむっ、んむんむんむ……あむっ、んぐっ」


 で、おかわりの主はそれに応えることなく3つ目のサラダに手を出して、


「……とんでもねえな」

「……はらぺこだったんですねー」


 俺と有楽は、向かいの席に座る「エルティシア」という名前のフードファイターをただただ眺めていた。


「というか、俺とお前で500円ずつ出してはみたけど」

「ええ」

「これ、さ」

「越えてますよ、ね?」


 エルティシアさんが一心不乱に食べているのは、トーストにスープ、サラダといった喫茶店でも安め中の安めなメニュー。それでも、数が増えれば当然その分積み重なるわけで。


「はいっ、おかわりのトーストとサラダをお持ちしました」

「うむ、かたじけない!」


 トーストが4皿に、スープが2皿とサラダが3皿。それぞれ250円と200円ずつって単価だけど、計算してみれば……うん、完全にぶっちぎってるな。


「でもさぁ」

「はい」

「あむっ、あむあむ……んくっ、あむあむ」

「言えないだろ」

「言えませんよね」

「んくっ、んくっ……ふうっ」

「「『勘弁してください』なんて」」


 実は彼女、俺たちが提供したお金で飲み食いしている。

 理由はといえば、実に単純明快。


『お金が無い』


 この5文字に尽きる。

 お腹が空きすぎて目を回して「大丈夫、大丈夫だ」と言い張るエルティシアさんを問い詰めたら明かしてくれたけど、だからといってそのまま「はいサヨナラ」なんて出来るわけがない。

 とはいえ、1000円でたくさん飲み食い出来るところなんて限られているわけで。


「ふふっ。佐助が連れてきた子、いい食べっぷりねえ」

「あの、母さん? それ、誰も頼んでないよな?」

「心配御無用、たくさん食べてくれたサービスよ。あの、よかったらこのミルクセーキも飲んでくださいね」


 わかばシティFMの近くにある俺の家――喫茶「はまかぜ」で、手頃にエルティシアさんのお腹を満たそうと連れてきたわけだ。


「よろしいのですか?」

「ええ、美味しそうに食べて頂けましたから」

「行き倒れ寸前になっていたところを助けて頂いただけでなく、飲み物まで……まことに申しわけありません。ありがたく、ちょうだいいたします」


 エルティシアさんは母さんからミルクセーキのグラスを受け取って一礼すると、そのままぐいっと煽った。


「んくっ、んくっ、んくっ」

「あらあら」

「か、かわいい……っ!」


 微笑ましそうに頬に手を当てる母さんに、何故か両手を口に当てて興奮する有楽。確かに両手でグラスを持って飲む姿は可愛いらしいけど、そこまでハァハァするか。


「ぷはっ……ふうっ。ありがとうございました、御母堂殿」

「こちらこそ、美味しそうに食べて下さってありがとうございます。おかわりは、どうしますか?」

「十分に、堪能いたしました。あと、重ね重ね申しわけないのですが」


 と、エルティシアさんが皿に残った半切りのトーストに視線を落とす。


「お腹を空かせて待っている友がおりますので、この半切れは持ち帰っても宜しいでしょうか」

「ええ、構いませんよ。もしよかったら、もう一枚焼きましょうか?」

「いえ。友は少食ですので、この量で十分かと思われます」

「わかりました。では、包みに入れてお持ちしますね」


 母さんはにっこり笑うと、空いた皿とトーストの皿をトレイに載せてカウンターの中へ戻っていった。


「サスケとカナにも、大変馳走になった。まことにかたじけない」

「いえ。顔色も良くなったようで、よかったです」

「大丈夫ですかっ? ケーキとか、フルーツとか食べたくないですかっ?」

「だ、大丈夫。大丈夫だ」

「有楽、いい加減落ち着け」


 ハァハァ継続中の有楽が財布を取り出したのを、エルティシアさんは慌てて両手を出して、俺は手にした財布を押さえつけてなんとか制した。こいつ、さらに自腹を切る気か。


「〈らじお〉に導いてくれただけではなく、空腹であった我を助けてくれたことに感謝が絶えない。今は何も無いが、何らかの形で埋め合わせをさせてはくれないだろうか」

「気にしないで下さい。こちらこそ、いいラジオの素材を頂きました」

「だが」

「いいんですって」

「むぅ……」


 納得いかないように、エルティシアさんがちょっぴり頬をふくらませる。そんな姿も、なかなか愛らしい。


「ならば、我と普通に話してはくれまいか」

「普通に、ですか」

「恩人達に、敬うように応じられるのは忍びない。歳もさほど変わらないのだろうし、それくらいはよかろう?」

「あの、エルティシアさんは何歳で?」

「14だ。来月で15歳になるがな」

「ということは、あたしのいっこ下かぁ」


 有楽の一つ下、か……もうちょっと下にも見えるけど、言わぬが花だろうな。


「じゃあ、エルティシアちゃんって呼んでいいのかな?」

「『ルティ』でよい。姉上たちにはそう呼ばれている」

「なるほど。じゃあ、ルティちゃんで」

「うむ」

「よろしく、ルティ」

「サスケも、よろしく」


 満足いったように、エルティシアさん――ルティが、にっこりと笑顔を浮かべた。さっきまでの空腹でヘロヘロだった姿はどこへやら、スタジオの前で会ったときのように元気な笑顔を見せてくれていた。


「しかし、やはり何もせぬのは忍びない」

「いいんだってば。瑠依子せんぱいもとっても喜んでたし、あたしも参考になったもん」

「参考になった、とな?」

「あたし、声優をやってるんだ。まだまだ駆け出しだけど」

「セイユウ……?」

「あ、えーっと……『声優』っていうのは声だけで演技をするお仕事のことで、いろんな物語の登場人物になりきってしゃべったりするの」

「なるほど、声だけで行う演劇のようなものか。そういえば、ルイコ嬢の〈らじお〉の少し前にもそのような劇を聴いたな」

「えっ」


 もしかして……


「あのー、それってもしかして、こんな感じかな?」


 有楽も気付いたのか、嬉しそうに言ってからすうっと細く息を吸った。


「『お姉ちゃん……どうして、この棺は開かないの?』」

「っ!?」

「『お兄ちゃんに最後のあいさつをしたいのに、どうして? どうして、わたしだけ見せてくれないの?』」


 役に引き寄せられているのか、笑顔から無表情へと変わった有楽を見てルティが怯えだした。


「『取らないで……わたしから、お兄ちゃんを取り上げないで』」

「そ、そうだ! 確かにそのような演技だった!」

「じゃあ、あたしたちの番組を聴いてくれてたんだね!」

「な、なんという変わり身の早さなのだ……もしや、劇の後に怯えていたのは」

「……うん、俺」


 うっわー、アレも聴かれてたとは……でも、目の当たりにした俺やルティが本気で震え上がるあたり、有楽の演技が真に迫っているってことなんだろう。


「せんぱい、せんぱいっ」

「ん、どした?」

「リスナーさんですよ! リスナーさん! ルティちゃん、あたしたちの番組を聴いてくれてたってことですよね!」

「リスナー……おおっ、言われてみれば確かに!」

「なんだ? その〈りすなぁ〉というのは」

「ああ、『リスナー』っていうのは、ラジオを聴いてくれた人の呼び名みたいなものだよ」

「あたしたちのラジオを聴いてくれて、ありがとう。えへへっ、まさか聴いてくれた人に会えるなんて」

「我こそ、面白きやりとりを聴かせてもらった。空腹をすっかり忘れてしまって、あのざまではあったがな」

「いや、楽しんでもらえてなによりだよ」


 おどけるルティに、俺も笑って応える。身内以外で聴いてくれた人に直接会えて、しかも番組のことまで話してくれたんだから。


 芸能人がパーソナリティを担当するAMやFMのラジオ番組と違って、放送地域が狭くアマチュアがパーソナリティを担当することが多いコミュニティFMは、どうしても聴かれる機会が限られる。


 ましてや、俺らのような学生パーソナリティになると聴いてくれるのは学校の友達や部の人間、他校の放送部員に卒業した先輩ぐらい。先代の先輩にもメールはたくさん来てたけど、純粋なリスナーさんからのメールは週に数通くればいいぐらいだったのを考えると、偶然とはいえこうして話せるのは本当にうれしい。


「ルティはどうだった? 自分の声が、ラジオから聴こえてきて」

「我の声が、か」


 俺の問いかけに、ルティはしばらく緑色の瞳を宙に向けてから、


「実に、不思議と好奇のかたまりであった」


 右手を胸元に置いて、先輩に名前を呼ばれたときと同じめいっぱいの笑顔でうれしそうに応えた。


 *  *  *


 スタジオ前での空腹騒動から、数十分後。


『〈赤坂瑠依子の「若葉の街で会いましょう」〉。通りすがりの身ではあるが、我、エルティシアが可憐な声に祝福を捧げよう』

「おお……」


 エルティシアさんはスタジオ前のベンチで、スピーカーから流れる出来たてのジングルに聴き入っていた。

 何か食べましょうと言う俺たちに「どうしても聴きたい」と言い張って、ついさっきまで(うつ)ろだったはずの緑色の目が、スタジオ上のライトに照らされてきらきら輝く。


『本日最後を彩るジングルは、とても可愛らしい外国人の女の子・エルティシアさんから頂きました。今もスタジオの前で聴いてくれているエルティシアさん、わたしの声を祝福してくださって、本当にありがとうございます。この祝福、大事にしますね』

「っ!?」


 続くエンディングトークの中で、スタジオにいる先輩が窓の外に軽くお辞儀をしてみせると、その輝いた目をいっそう見開かせた。


『それでは、今週もそろそろお別れの時間が近づいてきました。来週訪れるのは――』

「き、聴いたか!? 我の声が聴こえただけではなく、ルイコ嬢から礼を言われたぞ!」

「よかったですね。赤坂せんぱ……えっと、赤坂さんも喜んでましたよ」

「エルティシアさんの声、とてもあたたかかったですからねー」

「本当か? 本当か!?」

「ええ」

「はいっ」


 ふたりして、ベンチの両隣にいる俺たちの手を握ったエルティシアさんに大きくうなずいてみせる。俺も有楽も直接耳にしてそう思ったんだから、間違いない。


「そうか、我の声はあたたかかったか……」


 よっぽど嬉しかったのか、両手を胸元に置いたエルティシアさんは噛みしめるように何度も、何度もうなずいた。


 *  *  *


 その時のエルティシアさんの仕草と、今ここにいるルティの仕草が重なって見える。


「まず、我の声が他の者にどう聴こえるかを知ることが出来た。その声で紡いだ言葉が、誰かに喜んでもらえたのも初めてであったな」


 見た目や仕草は俺や有楽よりも子供っぽい彼女だけど、ジングルを録ったときの凛とした姿や、こうして俺たちと向かい合って話しているときの物言いはとても真っ直ぐで、しっかりとした言葉が心地よかった。


「ルイコ嬢の言葉、今も温もりとなって我の心に残っているぞ」

「そう言っていただけると、わたしもうれしいです」


 それは、さっきからルティの後ろに立っていた赤坂先輩も同じようで、


「る、ルイコ嬢!?」

「驚かせてごめんなさい。お話し中に割り込んじゃ悪いかなって思ったんですけど、エルティシアさんの言葉がうれしくて」


 顔を真っ赤にしてあわあわしているルティに、赤坂先輩も少し顔を赤くしながら微笑みかけた。


「松浜せんぱい、そっち寄ってもらえます?」

「おう。赤坂先輩、座って下さい」

「ありがとう、松浜くん、神奈ちゃん。おばさま、ミルクティーを頂けますか?」

「はーいっ」


 俺と有楽が寄って空いたスペースに、カーディガンを脱いだ赤坂先輩が座る。その向かいで、ルティは先輩をまじまじと見ながら何か言いたげに口をぱくぱくさせていた。


「改めて、はじめまして。『わかばシティFM』で放送局員のアルバイトをしています、赤坂瑠依子です」

「わ、わっ、我は……んんっ……いえ、(わたくし)の名は、エルティシア。エルティシア・ライナ=ディ・レンドと申します。ぜひ、ルティと呼んでください」

「ルティさん、ですね」


 息を整えたその口からは、母さんに接したときと同じていねいな言葉。大人に対しては、こうやって敬意を持って接しているようだ。


「先程は、わたしのラジオを聴いて下さってありがとうございました」

「私こそ、拙き言葉だったにも関わらず、受け取って頂いてまことにありがとうございました」

「ルティさんのあたたかい祝福、とてもうれしかったです。突然のことで、驚かれませんでした?」

「驚いたというよりも、不思議なことを頼むものだなと。ですが、流れてくる声のひとつひとつに優しく語りかけるルイコ嬢の声に、私の言葉を預けてよかったと今は思います」

「わたしも、ルティさんの声を聴くことが出来てうれしかったです。でも、不思議ですか……そう言われたのは、初めてですね」

「何故、ルイコ嬢はそのようなことをなさるのかと思いまして」


 そのルティの疑問に、赤坂先輩がにっこりと笑ってみせる。


「出会った人たちの言葉を、多くの人に聴いてほしいからです」

「言葉を、聴いてほしくて?」

「さっき聴いてもらったとおり、わたしの番組は街でいろんな人たちとお話しして、それを放送するものです。毎回4、5人の方とお話ししたものを流していますけど、まだ番組を始めたての頃に『ちょっとだけでも宣伝したい』『なにかひとこと言いたい』って、高齢の方や小さなお子さんたちに言われたことがあって……どうにか出来ないかと局のみなさんと考えたのが、ルティさんにも録っていただいた『11秒のメッセージ』でした」

「『なにかひとこと』……とは」

「例えば、ご年配の方が昔の同級生の方々に対して『今度将棋の大会するから鍛えとけよ』と伝えたり、会社員の旦那さんがお嫁さんにこっそり『いつもありがとう、大好きです』って言ったり」

「その一週間後に、その夫婦がスタジオ前に来てラブラブなメッセージを残していったこともありましたよね」

「あったわねー」


 先輩はほのぼのと笑っているけど、「大好きです」「私も大好きです」って言い合うラブラブっぷりを真正面で収録させられた俺としては、参ったなんてもんじゃなかった。来る者拒まずだから仕方ないけど。来る者拒まずだから仕方ないけど。


「まるで、伝言板のようなものですね」

「あっ、ぴったりですね。声の伝言板って言っていいかもしれません」


 ルティの言葉がうれしいのか、先輩が両手をぽんと合わせた。


「言いたいことがある人って、少なくないと思うんです。でも、面と向かって言うのは恥ずかしい人や、たくさんの人に伝えたいっていう人もいるわけで、そういう人たちにとっての受け皿になれたらいいなって」

「あたしも、すっごく受け皿になってもらったんだ」

「カナもなのか?」

「うんっ」

「神奈ちゃん、3年前に番組で『声優になる』って宣言して本当に叶えちゃったんですよ」

「叶えたというか、まだまだ真っ最中というか。『声優になる』って宣言してたくさんの人に聴いてもらったら、もう後には引けないかなって」

「な、なんと豪毅な……」

「今から思うと、大胆だよねぇ」


 たははーと笑ってから、有楽があっけらかんと言い放った。

 去年の夏休み、高校の体験入学の日に放送部にやってきて「来年からよろしくお願いします!」って、まだ何にも決まってもいないのにあいさつに来たりもしたあたり、本当にコイツはキモが据わっていると思う。


「確かに大胆だが……そうか、声の伝言板とは上手いことを言うな」

「ただ、今日のはわたしのわがままだったんですけどね」

「と、申しますと」


 話し中ということもあってか、静かにやってきた母さんからソーサーごとティーカップを受け取った先輩は、ミルクティーをひとくち飲んでから口をまた開いた。


「窓の向こうの女の子に手を振ったら手を振り返してくれて、とても可愛いらしくて。この子の声はどんな声なんだろうって思ったら、いてもたってもいられなくなっちゃったんです」

「なるほど。だから、サスケとカナに頼んだわけですか」

「そういうことになりますね」

「だとすれば、光栄の至り」


 少し恥ずかしそうに笑う先輩に、ルティが深々と礼をして返す。


「ルイコ嬢に呼ばれて、とてもうれしく思います」

「わたしも、ルティさんに祝福して頂けてとてもうれしかったです」


 そして、ふたりして笑い合う。

 見た目が小学生高学年か中学生ぐらいのルティと、少し背が高くて落ち着いた雰囲気の赤坂先輩。どう見ても歳が離れているふたりだけど、ルティの堂々とした振る舞いと先輩のほんわかとした受け答えが、ふたりの距離を近づけているみたいだった。


「楽しきものですね、〈らじお〉というのは」

「ええ。ルティさんは、あまりラジオを聴かれないんですか?」

「いえ」


 先輩の問いに首を振ったルティは、コップに残った水で口を潤すと、


「私の国には、〈らじお〉というものがないのです」

「えっ?」

「ら……ラジオが、ないんですか?」

「あー……やっぱり」


 俺にとっては、なんとなく予想出来た答えを告げた。


「や、やっぱりってどういうこと?」

「ルティに初めて話しかけたとき、まったくラジオのことを知らない様子だったんですよ」

「えっ、そ、そうでしたっけ?」

「お前、ずっとハァハァしてたろ」

「いかにも、我に〈らじお〉が何たるかを教えてくれたのはサスケであった」

「じゃあ、ルティさんはどちらの国から?」

「おそらく、ルイコ嬢もサスケもカナも知らぬとは思いますが……『レンディアール』という国から参りました」

「「「レンディアール?」」」

「なんと言えばいいのか」


 そんな国、聞いたこともない。

 でも、ルティはいたって大まじめで――


「……ああ、カナが演じていた声の劇の言葉を借りるならば」

「あたしの、ラジオドラマ?」

「うむ」


 その真剣な表情を崩さないまま、


「あの中のような、異なる世から来たと言えよう」


 堂々と、ありえないことを言い放った。


「えっと」

「異なる、世……異世界、ってこと?」

「ま、またまたご冗談を」

「冗談などではない」


 いや、確かに緑色の目や銀色の髪、それに透き通るように白い肌っていう姿から海外の人ではありそうだけど、そんな異世界から来ただなんて、ファンタジーじゃないんだから。


「恥ずかしい話ではあるが……賊に追われている最中に、この世へと逃げて来たのだ」

「賊に追われた、って」

「う、うむ」


 有楽の問いに、ばつが悪そうにして目をそらすルティ。その仕草からは、ウソやデタラメなんてカケラも無さそうには見えるんだけど……


「銀貨や金貨を全て奴らに投げ打って、それでも追ってこようとするから……結果的に、そなたらにこのような迷惑をかけてしまってはいるが。だが、まことのことなのだ」


 空のコップに視線を落として悔しがる姿に、一瞬納得しそうになる。

 でも、異世界だなんて言われても……信じられるわけがない。


「それが本当だとして、ひとりでここに来たんですか?」

「いいえ、私だけではありません。友が、この世へと逃してくれたのです」

「そういえば、そのパンって」

「友への土産だ」


 さっき母さんが先輩のミルクティーといっしょに持って来た包みを見て、そんなことを言っていたのを思い出した。


「じゃあ、その友達って今はどこにいるんだよ」

「近くにある、高き塔の上で身を休めておる」

「塔?」

「あったっけ?」

「あの〈らじお〉の近くにあるではないか」

「えー」


 局の近くに、そんなファンタジーなモノは無いだろうに。


「あのー、せんぱい」

「どったよ」

「なんとなくですけど、心当たりが」

「マジか」


 流石、放送部一のサブカルクイーン(マニア)。でも、そう言った当の有楽は難しそうな顔でうーんと唸っている。


「ねえ、ルティちゃん。あたしたちも行っていいかな」

「無論だ。そなたらに我の友と会ってほしいし……それに、助けを借りたい」

「どういうことです?」

「塔の中へ入れなくなってしまったのだ」

「なにさ、それ」

「あ~~~~~~」

「っ!?」


 意味不明な内容に呆れようとしたところで、有楽が奇声を上げた。


「やっぱりね、あー……『塔』だね、確かに」

「神奈ちゃん、どうしたの?」

「瑠依子せんぱい」


 そして、顔を上げたかと思うとそのままの勢いで赤坂先輩へ向き直る。


「もしかしたら、瑠依子せんぱいの助けが必要かもしれません」

「わ、わたしの?」

「どういうことだよ」

「たぶん、行けばわかります。ルティちゃん、案内してくれる?」

「ああ、もちろんだとも」


 ルティがうなずいて席を立つと、有楽も続いて席を立つ。

 いや、まだ夜も早いからいっしょに行くのは別にいいんだけど……


 塔って、どこだ?


 過去にはリスナーを集めて忘年会をしたコミュニティFM局もあったそうです。

 なんと豪快な。

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