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第26話 異世界少女といっしょ

 ガタゴトと、腰の辺りに振動が響いてくる。

 その振動が背中や腰へ伝わってくるけど、中にわらが入ってるらしいクッションのおかげでそこまではキツくなかった。


「お嬢様方、酔ったりしてませんか?」

「はいっ、あたしは全然へーきです!」

「私もです。きっと、御者のお兄さんとお馬さんが優しいからでしょう」

「そう言ってくれると幸いです。あと少しですが、快適な乗り心地を保証しましょう」


 向かいに座っている有楽と中瀬が元気に返事をすると、端っこ――御者席とやらにいたお兄さんが振り返ってにこっと笑ってみせる。こっちが日陰でお兄さんのほうが陽にあたってる分、歯と肌の白さに輝く金髪が際だって見えた。


「馬車ってもっと揺れると思ってましたけど、そうでもないんですね」

「警備隊の人たちが、物見櫓の警備についたり街へ戻るときに整備してくれるんですよ。もちろん、僕たちも馬車の整備を欠かしてはいませんよ」

「なるほど、納得です」


 俺の質問にも、お兄さんは手綱を緩くにぎりながら笑顔で答えてくれた。


 狂乱の撮影会が終わって、昼飯も食べた後の昼下がり。俺たちは馬車に揺られて、目指す場所へと向かっていた。

 誰もが馬車未経験だった俺たち日本組はびびっていたけど、いざ乗ってみたら温厚そうな御者さんの性格そのままののんびりさで、ゆったりと馬車を乗り心地を楽しんでいる真っ最中。

 さっきまで幌の外には田園地域が広がっていたのに、今じゃ多くの木々が立ち並んでいる。よく見ると、ごつい木製のはしごを立てかけて木へ昇っている人がちらほらといた。


「このあたりって、果樹園かなにかなんですか?」

「市場のみんなで管理しているミラップの果樹園ですよ。このあいだ盗賊が襲撃してきたときに狙われそうになりましたけど、警備隊が撃退してくれたおかげで枝が少し折れたりするぐらいで済んだようです」

「あー、あの時の……」

 このあいだルティを狙ったときに、いっしょにここも標的にしたってことか……というか、


「どうしたのだ?」

「いや……大丈夫なのかな、って思って」

「?」


 当事者で被害者なルティが隣にいるのに、その話をしてもよかったのかな。


「ああ、賊に襲われたときのことか」


 わからなさそうに首をかしげてみせたルティが、思い当たったようにはっとする。


「案ずるな。今日は街道からは外れておらぬし、皆もいるのだから心強い」

「本当か?」

「本当だとも。なにより、このあいだのリリナの騒動でも行ったであろう? 怖い思いは、あのときの慌ただしさで全て上書きされてしまったわ」


 俺を見上げながら、ルティがくすくすと笑う。面白そうに言ってるあたり、本当に大丈夫らしい。


「なら、いいんだけどさ」

「さすけはほんとーにしんぱいしょーですねー」

「お前は人のことを言えるのかっ」

「あうっ、それをいわれると」


 妖精さんモードのピピナがしょうがないなぁって感じで言ってくるけど、こいつだって姿を隠して数日間俺たちの様子を観察してたぐらいの心配性だ。


「ふふっ。そういうことだから、今日はピピナもサスケも何も心配することはない。これから向かう場であれば、何の心配もなかろう」

「せんぱいせんぱいっ、あたしもいるから大丈夫ですよ!」

「私もいればさらに百人力です」

「自分で言うほどアテにならないものってねーよな」


 自分で自分を指さす有楽と、メガネのブリッジを指でくいっと上げて有能アピールをしてくる中瀬は放っておこう。つーか、いつもフリーダムなこのコンビのほうが心配の種なのかもしれない。


「皆さん、そろそろ着きますよ」


 ため息をつこうとしたところで、御者さんから声がかかる。のんびりとしていた馬車の進みがさらに遅くなって、しばらくすると完全に動きが止まった。


「お疲れさん」

「ありがとうございます。いよっと」


 外から声がしたかと思うと、馬車から降りた御者さんが俺たちの視界から姿を消した。代わりに姿を見せたのは体もヒゲも結構太いおじさんで、さっきまで御者さんが握っていた手綱を手にして馬をあやしていた。


「ありがとうごさいます、ゴセック殿」

「いえいえ。うちの若輩者の操車は大丈夫かと冷や冷やものでしたよ」


 面識があるのか、ルティのあいさつにおじさんも笑って応じる。


「とんでもない。サテル殿の操車はなかなかのものだと思われます」

「へへっ、世辞でもそいつぁうれしいもんです。馬鹿息子、もっともっと精進しろよ!」

「わかってますよーっと……はいっ、降りても大丈夫ですよ」

「ああ、ありがとうございます」


 その会話にぼやきながら、御者さん――サテルさんが馬車の後ろに階段をかけてくれた。体育館のステージに架けるような簡単なものではあるけど、


「よっと」


 しっかり踏みしめてもきしまないし、なかなかがっしりした造りになっているみたいだ。


「んしょっと」


 幌の影から身を乗り出した有楽も、探るように一段一段しっかりと降りていく。続く中瀬も大丈夫そうに見えていたと思ったら、地面に降りたとたんにるとほんの少しふらついた。


「なんだ、酔ったのか?」

「へ、平気です」


 一瞬うろたえた中瀬が、すぐにいつものように無表情へと戻そうとする。でも、ちょっと体がゆらゆらしているあたりやっぱり少しは酔いが来ているらしい。


「ふうっ……ありがとうございました、サテル殿」

「いえいえ。また次のご利用をお待ちしております」


 堂々と地面へ降り立ったルティの言葉に、にこやかな表情を浮かべて軽く頭を下げるサテルさん。ふたりとも大げさ過ぎないやりとりなのが、レンディアールの王族と国民の近い距離感を表しているように見えた。


「久しぶりですね、ここへ来るのも」

「そうだな」


 有楽に続いて、俺も目の前にそびえ立つ建物を見上げる。

 タワー状になっているそれは石垣の土台とがっしりとした材質の木で作られていて、深い色合いが威圧感を漂わせていた。


「ここが『物見やぐら』ですか」

「うむ。そして、レンディアールの最北端であり、イロウナとの国境を守る場所だ」


 ゆらゆらとふらつきながらも見上げている中瀬に、ルティが大きくうなずいてみせた。

 ヴィエルから見えた山並みが目の前にあって、街道から続く登山道には警備隊の人たちが詰めている関所のような建物もある。

 他にあるものといえば馬小屋ぐらいで、あとは一面の緑。さっき通り過ぎた果樹園なんて比にならないほどに生い茂った森が、風でさらさらとさざめいていた。


「いらっしゃいましたか、エルティシア様」


 と、物見やぐらを見上げている俺たちに野太い声がかけられた。


「ラガルス殿、世話になります」


 視線を落とすと、黒服姿でずいぶんガタイのいいおじさんが物見やぐらの入口から出てくるところだった。って、警備隊長のラガルスさんじゃないか。


「なんだ、ラガルスさんに話してあったのか」

「もちろん。こちらで実験させていただくのに、責任者であるラガルス殿に話を通さなくてどうする」

「へへっ。〈らじお〉で何かあったら声をかけてほしいって、俺もお願いしていたんだ」

「そういうことだったんですね」


 日焼けした浅黒い肌で、ラガルスさんがニヤリと笑ってみせる。街中でパワーアップした送信キットの送信試験をしていた時に、俺たちに何か言いたそうにしていたのはそういうことだったのか。


「フィルミア様とリリナ嬢は来られなかったのですね」

「ふたりとも、今日は時計塔のほうで用事があるので。その代わりに、いつもの皆に加えてミハルが来ております」

「こんにちは、ナイス筋肉なおじさま」

「おおっ、ミハル嬢ちゃんが来たのか! いつも褒めてくれてありがとよ!」


 まだふらふらな中瀬がぐっと親指を立てると、ラガルスさんも親指をぐっと立てて応えてみせた。って、筋肉おじさま呼ばわりでいいんですか。本当に。


「すっかり意気投合しやがって」

「仕方がないじゃないですか。この太陽の下で(なま)めかしく照る筋肉は本当に素晴らしいんですよ。褒めずにいるなんて、失礼以外の何ものでもありませんっ」

「みはるんせんぱい、筋肉フェチでもあったんですねー」

「知ってるか。こいつ、うちの学年じゃクールビューティーで通ってるんだぜ」

「えー……」


 顔を見合わせながら、有楽とふたりして困惑する。

 かわいいモノ好きはともかくとして、お姉様フェチ、効果音フェチ、撮影フェチに筋肉フェチとまで揃いも揃ったらロイヤルストレートフラッシュとしか言い様がない。


「それではラガルス殿、やぐらに上がらせていただきますね」

「人払いのほうはどうしましょうか」

「せずともよいでしょう。これから広めていくものですし、見られて困るものでもありません」

「わかりました。では、こちらへ」


 ラガルスさんの先導で物見やぐらへと入っていくルティに、つるんでいた俺たちも続く。

 倉庫と休憩所になっている薄暗い1階から階段を上がって、四方に大きな窓が開いて森の中を見渡せる2階へ。その上の3階も同じように窓が開いていて、4階と5階も同じように四方が見渡せるようになっていた。

 それは、最上階になる6階も同じだったけど、


「うわぁ、ここからヴィエルの時計塔がうっすら見えますよ!」

「ほほう……山並みといい広がる森といい、なかなかの絶景ですね」


 有楽と中瀬がはしゃぐぐらいきれいな景色が、目の前に広がっていた。

 まだらに浮かんでいる白い雲に、空の青と森の緑。その緑が関所を越えると、なだらかにせり上がるような傾斜になって東西方向へと長い山並みを形作っている。その全部が合わされば、まさに自然の芸術って感じだ。


「この山並みが、レンディアールをぐるーっと囲ってる『円環山脈』ってわけか」

「ですです。ここからだと、ただのやまってかんじですけどねー」

「我は前にピピナと空を飛んで見たことがあるが、山並みが囲む地形はなかなか壮観だぞ」

「ほほう、ぴぃちゃんといっしょに空を飛べるのですねっ」

「初めてここに来たときに、あたしと松浜せんぱいがいっしょに飛びました!」

「よかったら、こんどみはるんもいっしょにとんでみるです?」

「もちろんっ」


 ピピナからの申し出に、ふんすと鼻息を荒くして何度も中瀬がうなずく。初めて飛んだ頃は怖かったけど、ピピナとリリナさんにずいぶん慣らされてきたよなぁ、俺も。


「俺たちゃずーっと眺めて飽きちまったが、別の国から来たお前さんたちには珍しいかもな」

「ずーっと決まった方向を向いて立ってるんですか?」

「いいや。1日8時間の3交代で、2時間ずつ東西南北を見渡すのさ。2階と4階が南北で、3階と5階は東西って感じにな」

「じゃあ、結構人員も多いんでしょうね」

「関所が4人に、やぐらが2階から5階まで2人ずつだから全部で12人か。総員体制だと6階も使って24人体制だが、それも2~3年に一度あるかないかだから多いってわけじゃない」

「総員体制なんてあるんですか」

「嵐とか雪の中でも国境を越えてくる人はいるし、姿形を偽った賊が紛れ込む可能性も考えられる。それに、収穫祭の時は人の行き来も多いから総員体制で人命と安全を守るってわけさ」


 そう言いながら、ラガルスさんが北側の窓の縁に手を掛けた。6階なだけあって登山口から緩い傾斜の登山道までは見渡せるけど、標高が高くなっていくにつれて霞むように見えるあたりは相当視力が良くないと厳しそうだ。


「そうなると、警備隊の皆は相当退屈でしょう」

「あっはっはっ……王女様に言うのも何ですが、かなり退屈ですな。雑談をするのにも、ここにはあまりに娯楽が無さ過ぎますから」

「やはり。それでは、この〈らじお〉が退屈しのぎのひとつにでもなればいいのですが」


 ブレザーと同じ紅いトートバッグに手を入れて、ルティが無電源ラジオとコードで繋がったメガホン製スピーカーを取り出す。


「南側、南側と……」


 続いて、ラジオ本体に取り付けたロッドアンテナを伸ばしてから南側の窓へと向けてみせた。


「サスケ、このあたりでよいのだろうか」

「時計塔に向ければ大丈夫だろ。ラガルスさん、この机を借りてもいいですか?」

「おう、好きなように使ってくれ」


 ラガルスさんがうなずいたのを確認してから、壁際に置かれていた小さな机を窓の前へと引き寄せる。


「ここに置けばいいのだな」

「大丈夫だ。そのままチューニングしてみてくれ」

「うむ」


 こくんとうなずいてから、ルティが無電源ラジオのダイヤルに手を掛ける。

 10センチ四方ぐらいしかない木製の土台に取り付けられたのは、手巻きのコイルを含めた配線とコンデンサに、ロッドアンテナとダイヤルがついたパネルだけ。電池はもちろんないし、電源コードや太陽光パネルなんかも存在しない。

 それでも、右側へダイヤルをぐいっと回せば――


「おおっ、本当に鳴りやがった!」


 スピーカーから、ほんの少しだけざらざらとノイズが混じった歌声が流れ始めた。このあいだ、フィルミアさんが先輩のラジオで歌ってみせた曲だ。


「ちょっと雑音が乗ってるな」

「その場合は、この〈こいる〉を縮めるか伸ばせばいいのだったな」


 ルティの白くて細い指が、バネのようなスズメッキ製のコイルにかかる。

 まずは両側からつぶすように縮めてみたけど、少しばかり雑音が増えただけ。逆に両側を引っ張ってコイルの間隔を少し空けると、ざらついたノイズは始めよりもずっと減って鮮明な歌声になっていた。


「あとはダイヤルを微調節すれば……ああ、これで大丈夫だ」

「国境においても、受信は良好のようだな」


 顔を見合わせて、満足しながらルティとうなずき合う。

 このために国境に来たのに結局ダメとかだったらガックリ来てただろうけど、ちゃんと聴けて一安心だ。


「こんな筒のようなものから、はっきりと歌声が聴こえるとはなぁ。もしかして、今聴こえてるのはフィルミア様の歌声なのか?」

「よくわかりましたね」

「去年の収穫祭、市役所広場で堂々と歌っていただいたときの声を忘れるはずがねえよ。いったいどういう仕組みで鳴ってるんだ?」

「簡単に言うと『電波』っていう見えない音の塊を時計塔から飛ばして、この『ラジオ』で聴こえるようにしているんです」

「なんかよくわからんが、それをお前さんたちが〈ニホン〉って国から持ち込んできたってわけか」

「ええ。でも、これを作ったのはルティなんですよ」

「エルティシア様が?」

「まだ、手つきがおぼつかないところではありますが――」


 恥ずかしそうにルティが言うとおり、この無電源ラジオには配線がちょっと雑だったり、コイルに少し折れ曲がったりといった痕が残っている。はんだがこんもりと山になってるあたりははんだゴテの代わりに鉄箸でやったから仕方ないとしても、お世辞にもきれいとは言えないつくりになっていた。


「どうしても、自分の手で作ってこうして音を聴きたかったのです」

「なるほど。始めは何をしているのかと思っていましたが、こうして実際に聴いてみるとエルティシア様とフィルミア様が熱を上げるのがよくわかります」


 それでも堂々と言い張ったルティに、ラガルスさんがうんうんとうれしそうにうなずいてみせる。

 ラガルスさんには、俺とフィルミアさんが同席した上でルティから日本のことを全部明かしてある。警備の都合もあるし、信頼出来る人にはちゃんと話しておきたいっていう考えをくんだもので、ラガルスさんも全部は理解しきれてないけど姉妹でどこかへ行ってるっていうことは理解してくれていた。


「で、この〈らじお〉から流れてくるのは歌だけなんですかい?」

「歌だけではありません。カナ、ピピナ、準備のほうはいいだろうか」

「あいあいまむっ!」

「こっちもだいじょーぶですよー!」


 ルティが声をかけると、マイク専用の送信キットを手にした有楽が俺たちのそばへとやってきた。いっしょに元気な返事をしたピピナの手にもロッドアンテナが釣り竿みたいににぎられていて、しっかりと大窓から南の方へと向けている。


「ありがとう。ミア姉様、聴こえておりましたら次の手はずを願います」


 送信キットへ声をかけてからしばらくして、不意にスピーカーからの音楽が途切れた。続いて、ゴソゴソと何かを探るような音が聴こえたかと思うと、


『お騒がせしてもうしわけありません~。こちらは『ヴィエル市時計塔放送局』の副局長、フィルミア・リオラ=ディ・レンディアールと~』

『フィルミア様のお付きで、助手のリリナ・リーナです』

「聴こえたっ!」


 聴き慣れた、ほんわかとした声と涼やかな声がやぐらへと鳴り響いて、ルティがうれしそうに声を上げる。その横顔は、わかばシティエフエムで初めて見かけたときみたいに輝いて見えた。


「ん? フィルミア様とリリナ嬢の声……? って、ここには来ていないんですよね?」

「はいっ。ふたりとも、今なお時計塔におります」

「では、この声は時計塔から? まさか、そんなことが……」

『ただいま、時刻は午後2時38分~。ヴィエル市の時計塔から、わたしとリリナちゃんがこの声をお届けします~』

『今回は、私たちが作っている最中の〈らじお〉というものを市井の皆様にも知っていただくために、時計塔からヴィエル市内の6カ所へお預けした〈らじお〉の機械へと私とフィルミア様の声を届けております』


 のんびりと楽しそうにしゃべるフィルミアさんの声に、冷静だけど柔らかいリリナさんの声が続く。ノイズはほとんど乗っていないし、音割れもないってことは調整も上手く行ったかな。


『あとで聴こえたかどうかをうかがいに行きますから~、聴こえたらちゃ~んとお返事してくださいね~』

『イロウナとの国境にはエルティシア様の御一行が尋ねていると思いますので、警備隊の皆様は聴こえたかどうかの旨をお伝え下さい』

『さっきちょこ~っと聴こえた声ですと~、たぶん国境には警備隊長のラガルスさんがいらっしゃいますよね~?』

「俺の声が聴こえていただと!?」

「そうですよー。今フィルミアさんたちが使ってるのと同じ、これでわたしたちの声を時計塔へ届けたんです」


 手にしていた送信キットをひょいっと持ち上げて、にっこり笑う有楽。それでもラガルスさんは信じられないように首を振ってから、深くためいきをついてつんつんと送信キットをつつき始めた。


『これが聴こえたとしても、幻聴でもなんでもありません。ただの現実ですのでご安心下さい』

『でも、これだけだとどうして〈らじお〉なんて始めるのかとか、疑問に思う人もいるでしょうね~』

『ということで、まずは私たちがなぜ〈らじお〉というものを始めるかを説明いたしましょう。この〈らじお〉は異国から渡ってきた技術で、しゃべった者の声を見えない塊にして飛ばすというものです』

「な、なあ、サスケよ。この声は本当にあのリリナ嬢の声なのか?」

「ええ、そうですけど」

「はぁ……こいつは驚いた」


 俺が二つ返事で答えると、ラガルスさんがため息をつくように声を絞り出した。


「あの『氷の刃』と呼ばれたリリナ嬢の声が、こんなに柔らかいたぁなあ」

「あれっ、ラガルスさんってリリナさんとしゃべったことはないんですか?」

「いやいや、もちろんあるぞ? あるけど、いつもつっけんどんな受け答えしかしてもらえないからさ」

「あー……ちょっとまえまでのねーさまはそんなかんじでしたからねー」

「確かにそうかも」


 ピピナと有楽だけじゃなく、心当たりのある俺とルティもラガルスさんの言葉には苦笑いを浮かべるしかなかった。仕方ない面があったとしても、ついこの間までは『守るのは身内だけ』って態度だったわけだし。


『――で、ルティが〈らじお〉を始めたいって言ったんですよね~』

『はい。私は始め〈どうしてこんなものを……〉と思ったのですが、いざ聴いてみるとなかなか面白いものでして』

『わたしも面白いって思ったから、ルティといっしょに〈らじお〉を始めることにしたんです~』

『というわけで、この〈らじお〉では先ほどまでのように音楽を流したり、こうしておしゃべりしながらヴィエルの街で起きた出来事を伝えたりしていきたいと考えています』

『これから午後5時ぐらいまでは〈おためしらじお〉ということで、さっき音楽学校でみんなが演奏したり歌ったりした音楽を聴けるようにしていきますよ~。学校で〈らじお〉を聴いてるみんなも~、聴こえたら明日感想を聴かせてくださいね~』

「へえ、リリナ嬢だけじゃなく、フィルミア様もずいぶん楽しそうじゃないか」

「フィルミアさんも、みんなでいっしょに作るのが楽しいみたいで」

「そういうことか。さっきみたいにフィルミア様のしゃべりや歌声が聴こえてくるんなら、面白いモノができたってもんだ」


 言葉通り、面白そうにくっくっと笑うラガルスさん。この人、ずいぶんフィルミアさんの歌が好きなんだな。まあ、俺も気持ちはよくわかるけどさ。

 リリナさんの涼やかな声にフィルミアさんのほんわかとした語り口はとても合っているし、ラジオから聴こえてくる歌声だってわかばシティエフエムで評判になるぐらいだった。ルティが試験放送の担当をフィルミアさんにお願いするのも、当然と言えば当然か。


「やったぞ、サスケっ!」

「おうっ」


 俺とルティがこの世界へ持ち込んだラジオが、みんなの手で形になっていく。

 流れてくる声とルティの太陽のような笑顔で、俺の中に強く実感が湧き始めていた。


 ……のは、いいんだけど。

 それでも、まだまだ課題は山積みなわけで。


 *   *   *


「物見やぐらは、このあたりでいいんだよな」

「うむ、だいたいこの範囲だろう」


 ルティといっしょに喜んで、ふたりで笑い合ってから小一時間後。

 さっきまで無電源ラジオが置いてあったテーブルで、俺は広げたノートの真ん中にコンパスの針を突き刺していた。

 真向かいに座るルティが描いた時計塔に中心を置いて、鉛筆を合わせるのは今俺たちがいる物見やぐら。そこから地図にぐるりと円を描いていけば、聴くことができる範囲の地図のできあがりと。


「となると、ヴィエルの街は全域がカバーできてるわけか」

「うむ。石造りの家でも、細長い鉄を屋根に置いて銅製の線と〈むでんげんらじお〉を結べばよく聴こえるそうだ」

「そのあたりは、流味亭のふたりに感謝しとかないとな」

「ぬかりはない。先日、レナト殿とユウラ嬢に〈しーえむ〉の話をしておいた」

「ナイスだ。お世話になったお店は、CMでバンバン宣伝していくぞ」


 ルティからの報告をノートに書き込むと、ルティもメモ帳に何かを書き込んでいく。

 ノートに書かれているのは日本語で、メモ帳に書かれているのはこっちの現地語。何が書いてあるのかはよくわからないけど、ルティが言うにはメモ帳の後ろ側に俺のノートと揃えた内容を書いているらしい。


『うわっ、本当にフィルミア様の声じゃないですか!?』

『わっはっはっ、やっぱり驚いたか!』

『ラガルスさん、これって驚かせるために使うんじゃないですよ?』

『すまんすまん。俺の驚きを、他の奴らにも味わってほしくてな』

「なーにやってるんだか」

「よいではないか。街のほうでも、きっとハンザ殿のように驚いている者はいるだろう」


 階段の下から響いてくる声に呆れる俺を、ルティが苦笑いでたしなめる。おもちゃ感覚で何をしてるのかって思っていたけど、たくさんの人が初めてラジオを聴くんだから驚かれて当然か。


「では、次の事項へと参ろうか」

「おうよ」


 ルティがメモ帳のページをめくったのを続いて、俺もノートのページをめくった。

 俺たちが机をはさんで向かい合っているのは、さっきと同じ物見やぐらの6階。受信結果のチェックや今後の打ち合わせのために外へ出ようとしたら、ここは総員体制の時以外はあまり使わないってことでラガルスさんがそのまま貸してくれた。

 代わりに他の警備隊員にも無電源ラジオを聴かせたいってことで、有楽とピピナが説明役としてついていったってわけだ。

 筋肉につられた中瀬がホイホイとついていったのは……まあ、仕方ない。


「次は……そうだな、〈ばんぐみ〉の内容がいいか」

「このあいだずいぶん迷ってたけど、いい案でも出たのか?」

「うむ、少しではあるが。こちらがその案だ」


 そう言いながら、ルティがメモ帳をひっくり返してまたぱらぱらとページをめくっていく。すると、さっきとは違って日本語――数字にひらがなとカタカナで書かれた項目が現れた。


〈いちのようびから、ごのようびまで〉

 06:00 あさのかね

 06:05 あさのおんがく・1かいめ

 06:50 らじおたいそう(リリナのかけごえでろくおんする)

 07:00 あさのおんがく・2かいめ

 07:55 しやくしょからのこくち(みんなでこうたい)

 08:00 あさのおんがく・3かいめ

 08:55 しやくしょからのこくち(さいほうそう)

 09:00 ほうそうちゅうだん


 12:00 ひるのかね

 12:05 ひるのおんがく・1かいめ

 12:55 しやくしょからのこくち(さいほうそう)

 13:00 ひるのおんがく・2かいめ

 13:55 しやくしょからのこくち(さいほうそう)

 14:00 ほうそうちゅうだん


 17:00 ゆうがたのおんがく

 18:00 ゆうがたのかね

 18:05 きょうのヴィエル

 (きすうび・われとピピナ ぐうすうび・ミアねえさまとリリナ)

 19:00 しやくしょからのこくち(さいほうそう)

 19:05 よるのおんがく

 20:00 しやくしょからのこくち(さいほうそう)

 20:05 きょうのヴィエル(さいほうそう)

 21:00 ほうそうしゅうりょう


「お前、わざわざ日本語で書いたのか!?」

「口で説明するより、こうして書いた方が早かろう?」


 まるでいたずらが成功したみたいに、ルティが楽しそうに笑ってみせた。

 決してきれいな文字ってわけじゃないけど、それでも読みやすいようにひと文字ひと文字がていねいに書かれている。ちゃんと、俺がわかるようにしてくれたってのか。


「で、どうだ? ちゃんとニホン語になっているか?」

「全く問題ないよ。赤坂先輩との練習の成果だな」

「ああ、先日泊まったときにお墨付きを頂いてきた」


 小さくうなずいて、ルティが得意げな顔を見せる。先輩からずいぶんがんばってるとは聞いてたけど、ここまで上達したなんてな……


「あとは、〈ばんぐみ〉の中身のほうだが」

「平日は音楽をメインにして、あとは告知とリピート放送で固めたのか」

「最初から多くの〈ばんぐみ〉があったとしても、どれがどれなのかとわからなくなってしまう者もいると思ったのだ。こうして並べてみたのだが、いかがだろうか」

「悪くないと思うぞ。最初はどうしてもバタバタしちまうし、慣れるまではこういうタイムテーブルでいいと思う」

「そうか」

「んで、夕飯時にみんなでしゃべる番組を入れたと」

「〈わかばしてぃえふえむ〉では昼時だったが、ヴィエルでは仕事が多い時間になってしまうのでこの時間へ配置してみた」

「そこらへんは、日本とレンディアールで違うからいいんじゃないか。ここらへんも試行錯誤していこう」

「わかった」


 話していきながら、ルティが時間の左横に丸印を入れていく。これで大丈夫ってことでつけているんだろうけど、


「なあ、ルティ。その時間でキッチリやるつもりなのか?」

「まさか。今の我らにそのような技術はないのだから、およその時間として書いておいただけだ。『今日のヴィエル』の〈さいほうそう〉も、そのために最後へ置いてみた」

「そいつはいい判断だ。それにしても、ずいぶんしっかり考えたんだな」

「それは……その、なんというか、な」


 褒めたつもりなのに、ルティがちょっと恥ずかしそうに口ごもって俺から視線をそらした。


「これを、参考にしてみたのだ」


 そう言ってメモ帳の間から取り出したのは、小さく折りたたまれた緑色の紙。いつも出入りした俺にとって、見慣れたそれは――


「わかばシティエフエムの番組表?」

「このあいだ、ニホンへ行ったときにもらったそれをまねてみたのだ」

「だから、ここまで細々と書かれてるわけだ」


 何度も読み込んだらしく、しっかりついた折り目の部分はインクが薄くなっていて、紙の端もボロボロになっていた。空いているところにはこっちの言語で書き込みがされているあたり、大いに参考にしたことがよくわかる。

 別に恥ずかしがることなんてないのに……それどころか、堂々と胸を張っていいぐらいだと思うんだけどな。


「うん、いいじゃん。これをもとにして、わかばシティエフエムみたいな番組表を作るってのもよさそうだな」

「こ、これで〈ばんぐみひょう〉をだと?」

「だって、街の人たちにも『このくらいの時間からこの番組をやる』って知ってもらうには番組表が必要だろ。こっちの言葉で書き直して、屋台街とか警備隊の詰め所とかに貼りだしてもらってさ」

「ふむ……確かによさそうだが、枚数が問題ではないか?」

「ルティが大元になるものを書いてくれれば、俺が日本でコピーしてくるよ。そうすりゃ、元は1枚で済むし」

「その手があったか。ならば、あとで書いてみるとしよう」


 さっきまで恥ずかしそうだったルティの表情が、一転して楽しそうに輝いた。やっぱり、ルティはこっちのほうがずっとかわいい。


「あとは、フミカズ殿が仰っていたとおり〈でんち〉用の中断時間も設けてみたのだが、時間帯はこれでいいだろうか」

「9時から12時と、14時から17時か。3時間ずつあれば、音楽プレーヤーもICレコーダーも十分もつだろ。電池の残量を見て少しずつ中断時間を短くしていけばいいって言ってたから、残量も中断するときに確認していこう」

「わかった」


 俺が言ったことを書き留めるためか、ルティがまた精霊大陸の言語でメモ帳へ書き込み始める。充電池と純正のソーラーパネルが生命線なんだから、そのあたりの運用はしっかりしなくちゃいけない。

 それしても……こうして紅いブレザー姿で真剣にメモを取っていると、まるで外国から来た学生そのものだな。なんとなく、有楽と中瀬が撮影魔になる理由がわかりそうになったのは気のせいということにしておこう。

 うん、きっと気のせいだ。


「よしっ、一の曜日から五の曜日まではこれでだいたい決まりだな」


 メモ帳を閉じて満足そうに上げた顔も、テスト終わりの中学生に見えたのは俺の心にしまっておくということで。


「六と零の曜日も、どうするかは決めてるのか?」

「だいたいではあるがな。ルイコ嬢やアヴィエラ嬢の〈ばんぐみ〉もあるし……まあ、そのあたりはサスケたちの試験が終わるまでにまとめておくとしよう」

「あー……それがあるんだよなぁ」

「だ、大丈夫か?」


 寄りかかっていたイスの背もたれで脱力すると、心配そうにルティが声をかけてきた。


「なんつーか、しんどい」

「そんなに厳しい試験なのか」

「厳しいっつーか、めんどくさいんだよ」


 そのまま背筋を使って跳ね起きて、今度は机に突っ伏してぐでーっと脱力する。


「月曜日から来週の火曜日、試験が終わるまではずっと部活が禁止だしさー。放課後の練習とか編集とかないってのが落ち着かなくて」

「その習慣が身についているのであれば、仕方あるまい」

「1年以上もやってるとな。ルティのほうこそ、リリナさんが試験を出したりはしないのか?」

「もちろん出してくるとも。いつも不意に出してくるものだから、日頃から備えておかなければならぬ」

「うわ、不意打ちか」

「幸い今まで悪い点を取ったことはないが、いつも『日頃からきちんと予習や復習をしておけば大丈夫なはずです』と言っているから油断は禁物だ。サスケとともに連れ戻されてきた次の日など、突然ここまでのおさらいと言われて試験をさせられたのだぞ」

「それは……ほら、俺らとリリナさんの仲があんまりよくなかった頃だし」

「うむ……言ってるうちに、我も思い当たった」


 ふたりして苦笑いすると、ルティはため息をつきながらイスの背もたれに寄りかかった。


「前よりは人当たりがよくなったとは言っても、笑顔で『今日はとびっきりの試験を用意いたしました』と言われると心臓に悪い」

「リリナさん、案外お茶目なところがあるよな」

「ここでの一件があってから、ずいぶんさらけ出すようになったな。まさか、ルイコ嬢とともに謀って〈すたじお〉を作るなど思いもしなかったぞ」

「本当に。今だって、そのスタジオでフィルミアさんとパーソナリティをやってるし」

「リリナに頼んだときのうれしそうな顔は、なかなか見物だったぞ。思わず、我までつられてしまうぐらいだった」


 その時のことを思い出したのか、ルティが楽しそうに笑う。


「第一声をフィルミアさんとリリナさんに任せたってのも、俺は驚いたけど」

「〈わかばしてぃえふえむ〉での初めての感動を、もう一度味わいたかったのだ。ミア姉様とリリナの声が聴こえてきたときは、感動もひとしおであった」

「隣で見てて、すっごく伝わってきた。『聴こえた』って言ってたろ」

「うむ、うれしくてたまらなかったからな。正式に開局する日には、今度は姉様とリリナにその感動を味わって頂きたい」

「そのためにも、夏の終わりに無電源ラジオが行き渡るようにしたいところだけど」

「うむ、秋の始め頃には開局といきたいところだが……」


 そう言いながら、手元のノートとメモ帳に視線を落とす。

 表紙にあるのは『ヴィエル市時計塔放送局 9月開局予定!!』の文字。今の俺たちが目指している時期が、太く黒いマジックと赤いペンでデカデカと書かれていた。


「今、いちばんの懸案事項が〈むでんげんらじお〉であろうな」

「生産、追いつくのかねぇ……」


 いっしょにため息をつくぐらい、今となってはその目標が不透明になっている。


「こっちへ来る前、土曜の午前中にみんなで馬場のじいさんのところに行ってきたんだって?」

「ああ。そこで2000台欲しいと言ったら、マモル殿が固まってしまわれてな」

「そりゃあ固まるわ」

「ちゃんと、2000台分の金額は用意していったのだが」

「500万持っていったのかよ!」


 いきなり2000台欲しいって言われて500万を即金でぽーんと出されたら、そりゃあ固まらないわけがないわ!


「結局、着手金として50万円を支払って200台ずつ揃い次第サスケのところへ送ってもらうことになった」

「だから、母さんが楽しそうに物置を空けてたのか」

「休日のフミカズ殿にも付き添って頂いたし、マツハマ家の方々に世話になりっぱなしだ」

「『娘が一気に4人できたみたいだ』とか言ってたあたり、父さんも満更じゃなかったんだろうなぁ……」

「ならば、さしずめ我はサスケの妹といったところか」

「妹、ね」


 ルティは俺より年下だし、背もずっと小さいから妹のようなポジションと言われればそうなのかもしれない。

 それは確かなんだけど……なんだろう、このちょいとばかり引っかかる感覚は。


「あとは組み立てのほうだが、機材を揃えているのが我らレンディアールの4人にサスケとして、1日5台で計25台。2000台作るとなると、およそ80日か……ん? どうした、サスケ」

「えっ? あ、ああ。いや、俺のほうは夏休みとかで空くこともあるし、逆にルティたちのほうがこっちの時間を凍らせて日本に来ればいいんじゃないかって思ってさ」

「ふむ……いざとなったらそうするか。少々ずるい気もするが」


 ぼーっとしていたのをごまかすように言うと、ルティが腕を組んで仕方ないとばかりにうなった。


「使える時間は有効に使っていこうぜ。日本からこっちへ持ってくるにしても、キットでも完成品でも重さ的にはそんな変わらないだろうし」

「なるほど……では、一度検討してみよう。姉様と、ピピナにリリナとも話しておきたい」

「おう、そうしろそうしろ」


 ほっと安心するように、ルティが表情を緩める。やっぱり、難しい顔をしてるよりこっちのほうがずっといい。キットの組み立てにあきたら、うちの店へごはんを食べに来たり、いっしょにわかばシティエフエムへ見学に行ったりすればいいんだし――


「じー」

「じー」

「じー」

「おわっ!?」

「な、なにをしているのだ? 3人とも」


 変な声がしたほうを見てみたら、有楽と中瀬が階段から顔を出して、ついでにピピナが有楽のポニーテールに乗っかってこっちをじーっと見ていた。


「おじゃまをしたら悪いかなーって思って、ここで見てただけだよ?」

「筋肉のおじさまにラジオを任せて来てみれば、ふたりきりで話とは……松浜くんがにくたらしい。いや、うらやましい」

「中瀬、本音がダダ漏れだぞ」


 目が笑ってないあたり、本音も本音だ。


「ルティさまっ、こんどはちょーきのおとまりですか?」

「なんだ、そこも聞いていたのか。ピピナには負担をかけてしまうが、頼めるだろうか」

「もちろんいーですよっ。ルティさまのおてつだいもたくさんしますし、かなのいもーとたちともまたいっぱいあそべるですからっ!」

「なんと、ぴぃちゃんだけではなく神奈っちの妹までも」

「ふっふーん。有楽4姉妹、うぃずピピナちゃんはあたしの専売特許ですよっ!」

「めーですよっ。あそぶときは、みんなでいっしょにあそぶですっ」

「おお……なんという女神様」

「めがみじゃないです。よーせーです」


 笑ってない目で両手を組む中瀬を、ピピナがジト目で切って捨てる。まあ、助けてもらったことがある俺としては中瀬の気持ちもわからなくはない。ちょっぴりだけ。ほんのちょっぴりだけ。


『おーい。なんか〈らじお〉から音が聴こえなくなっちまったぞー』


 そんなわいわいとじゃれあってる有楽たちの後ろから、ラガルスさんの野太い声が響いてきた。って、多分どこかいじったんだろう。


「こういうときは……〈こいる〉か〈だいやる〉の位置の調整だったな」

「ああ。んじゃ、行って確認してみるか」

「うむっ」


 大きくうなずくルティを見て、いっしょに席を立つ。

 窓の向こう、円環山脈の山並みを背にして乱れた銀髪を直すルティはやっぱり凛々しくて。


「皆も、いっしょに行くか?」

「もちろんっ!」

「共に行きましょう」

「いっしょにいくですよー!」


 みんなへ向ける笑顔は、年相応にかわいらしくて。


「サスケ、行くぞっ」

「お、おうっ」


 なんとなく見とれたのは、きっとルティが「妹」だなんて言い出したからだって。

 そう、思いたかった。


 つい先日、近所で開局したコミュニティFM局でも開局前の試験放送が繰り返されていました。時には音楽が流れたり、時には謎の信号音が鳴ったりして。そうやって各地で受信テストなどをして、開局の準備をしていくのでしょうね。


 近頃でも全国各地で開局に向けて準備を進めたり、開局を目指して計画したり、インターネット放送から始めて地盤を固めている団体が存在します。「コミュニティFM 開局準備」あたりのワードで検索すると、もしかしたら読んでいる方々の街でもコミュニティFM局が芽吹いていたりするかもしれません。



 おや、佐助くんの様子が……?

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