RolePlaying 005 エルフ少女:あなたは私、わたしは貴方
投稿遅くてすみません
【ただ今ストーリーを構築しています。しばらくお待ちください……】
5分ほど待たされてメッセージダイアログが消えると同時に、目の前に映画館の大型スクリーンが現れ、そこに映像が写される。
目の前に広がる光景は僕の想像を軽く超えていた。
──その映画の登場人物はキアーム・ラテーナ。
僕が作成した憑代で、エルフの美少女の事だ。
なんと劇中のキアームはまだ赤子だった。
その赤子を抱く女性は母なのだろうか。
それなら、傍らに立つ男性は父だろう。 二人とも中性的で綺麗な顔立ちをしていて、尖った耳を持つ種族エルフだ。
母は綺麗な白銀髪で滑らかにウェーブがかかっている。目元はエルフにしては大きくクリクリしていて愛くるしい。
対照的に父は、金髪でサラサラのストレートヘア。目元はエルフらしい切れ長だ。
どうやら、キアームはそんな両親の良いとこ取りでこの世に生を受けたようだ。
──なるほど、そう云う設定なのか。
二人とも幸せそうな顔をしていたな。
今となっては冒険者の端くれとして悠々自適な暮らしをするキアームにも、愛情に包まれた幸せな時期があったわけだ。
映画はストーリー仕立てになっており、キアームの成長に合わせて様々な説明が行われていく。
ドラゴンワールド。
それは、ドラゴンの形をした大きな大陸で、その大陸には6つの国家が存在する。
両親の出身は、6つの国家のうちの1つ。
レゴレスティオ帝国と呼ばれる選民思想の強い国家の出身で、奴隷制度もあるような国だった。
それなりに裕福な家庭で18年(人間の年齢にして6歳程度)の間をこの帝国で過ごした。
ある日、北方の隣国であるネレストロフ王国からなだれ込んできた魔獣や亜人達が起こした暴動により、国境に近い町に住むキアーム一家は、その時の暴動に巻き込まれ、彼女を一人残し、両親はその命を落としてしまった。
その後、運よく西の隣国である冒険者の楽園と呼ばれているアーベンツリーに住む親戚に引き取られる。
その後、15年ほど親戚の元で暮らしたが、何度も家出を繰り返していた。
どうやら、帝国暮らしからくる固定観念が邪魔をしていたみたいで、親戚夫婦や兄弟達とも折り合いが悪かったようだ。主に自分に問題が有ったのだから、なんだか申し訳ない気分になる。
そんなある日、キアームに人生の大きな転機となる事件が起こった。このころからキアームは自らの事を”不運の女”と呼ぶようになっていた。
******
さて、今日の続きをしよう!
食事に風呂と、一通りの生活習慣を終えて気持ちよく落ち着くと、テキパキとVRキットの準備をし、自室のベッド脇から垂れてきているLANケーブルを据え置いた本体に接続する。
頭部周りのVRキットでもゲームは行えるのだが、アイツ(ロバーツ)曰く、この方が安定した処理を行えるそうだ。
口上はさておき、頭部へキットを取り付け終わり電源を入れる。気が付けば、いつものように自室に似た空間に放り出される。
今日の所はVR接続時間を3時間と設定して、ドラゴンワールド・オンラインを起動した。
起動後のキャラクター選択画面でキアーム・ラテーナを選択し、ゲームをスタートした。
目の前のキアームに僕が吸い込まれてゆき、魂と憑代は一つとなり目の前は次第にホワイトアウトしていく。
気が付けばまたあの神殿からのスタートだった。
なるほど、ここでもう一度石のドラゴンと話せばいいのかな。そのまま前方に見える石のドラゴンまで近づいて行くが、今度は何も反応しない。
不思議に思って、石像をぺたぺたと触っていても何も起こらず、しばらく適当に散策して時間を潰すことにした。
神殿の中は遠近法で広く見えただけで、広さ自体は大した事はなかった。
退屈になり、自分の髪の毛をいじってお下げにしてみたり、指で溶いてみたりと遊んでいた。
気持ちの良いくらいサラサラだったが流石に飽きてきた。
何か暇つぶしは無いかと考えていると、ふとあの事を思い出し、先刻に出来なかった自分の体との違いを確認して行く事にした。
薄暗い神殿の中には鏡などなく、自分の姿を抽象的に見ることは不可能だった。
仕方がないので、手という触覚器官を利用して確認していく。
まずは顔、指や手のひらで撫でて行くが、細かい凹凸など無く怪我や吹き出物も無いようだ。
とてもスベスベである。首などは折れてしまいそうな程細い。さらに、手の平を下へ下していくと、双子山に行き着いた。
巨乳ではないが、決して貧乳でもない。手に収まりやすいと思われたそれは、キアームの手には少し大きいようだ。
ムニムニムニムニ…………ムニムニムニ……ムニ……と、両手で揉みしだいてみる。
「……虚しい。どうして」
どうしてこう思った──。これは男の夢ではないのかと。それが正しい行為なはずでは?
しかし男性的な合理的な思考に相反し、感情はどんどんと罪悪感にまみれていく。主に一人で何をしているのだろう。
といった気分だ。
両手を付いて跪く某アスキーアートを思い出して脳裏で再生されている。
そういえば、事前情報でロバーツが言っていたっけ。
異性の憑代を使用する場合、システムのサポートで脳の機能を上手い事変換してくれるらしい。
要するに、僕の場合だとゲームに接続している間にのみ、男性脳を女性脳寄りへと誤魔化す機能があるらしい。その逆も然り。
なにやら、男と女の脳の違いとやらは、神経伝達ネットワークの違いとホルモンバランスの割合だそうだ。
難しい話は僕には到底解らないが、脳の活動において、女性として活動するにふさわしいサポートをシステム側で修正をしてくれているらしい。
主に、キャラクターデータである憑代に対してだそうだ。
そういえば、ゲームを終えた後に来るあのすっきりした気分はなんなのだろう。特別キアームに感情を引きずられた感覚はないが、記憶は僕の中にある。
そういう風に作られてあるのだろうか。
難しいな。
考えても仕方がない事は置いておいて、身体検査は引き続き続けてみよう。
さて、次はお腹のラインから下だ。
今着ている服は、来ていると言うより羽織っていると言っても過言ではない位簡素な物。
あまり詳しくないが、安っぽい簡素なネグリジェみたいな感じだろうか?これは衣と呼称しておこう。
名前も解らないし。
胸の膨らみからそのまま下された布は、僕の動きに合わせてヒラヒラとなびいている。
お腹の部分を狙い澄まして手を置いてみるが、思いのほかその段差に驚く。
そこから上下に動かして確認するが、胸の直下でも分かるほどアバラ骨が浮き出ていると確認できる。少し痩せすぎではないかと思う。
腹部も下腹部も薄い皮下脂肪しか付いておらず、腹筋の段差が少しだけ確認できる。
次第にまどろっこしく思い、膝まで丈のある衣の裾を掴んで一気に持ち上げてみた。
ゴクリと飲み込む息は、今までにない程の緊張を孕んで飲み込んだのだろう。
ブルブルと軽く身震いして、秘境を覗き込もうとした瞬間──
目の前に【チュートリアルを受けますか?】とダイアログが表示された。
メッセージダイアログに邪魔をされ、驚きを覚えて体がビクリと反応する。
『すまないキアームよ。準備に手間取っていてな』
何処からか聞こえてきたのは覚えのある声。あの記憶に新しい石のドラゴンのものだった。
準備とかそんなのあるのかよ! と、突っ込みたかったが、どちらかと言うと先程まで行っていた行為を見られていたかもしれないと言う羞恥心が湧いて出る方が大きかった。
『遊んでおらず、早く行ってくるといい。検討を祈る』
顔が急激に熱くなるのを感じる。明らかにオブラートに包んで諭す石のドラゴンだが、何の事を言っているかは明白だった。
やばい、確実に見られてた──! というか、空気読んでくれ!
と、熱くなった顔をなんとか冷却しようと内心で悪態を付きながら、渋々YESと答えると、ゆっくり黒くフェードアウトしていく。
今後こういう事は軽はずみにはやらないようにしよう。そう、心に誓うのであった。
******
映画風のチュートリアルが開始され、劇中のキアームが己の意志で動き、その様子が再生されていく。
──なるほど。
この様な感じで、プレイヤーを感情移入させていくのか。そうだよね、特に自分自身で作成した分身なのだから、感情移入の割合も非常に高いと言える。
これを憑代毎に行っている訳だろうから、このゲームの凄さが窺える。
だけど、皆演じるにしても恥ずかしくないのだろうか? 確かに、ネカマの様に割り切ってしまえばやりやすいのかもしれないが、僕としてはやるからには真剣に取り組みたい。
そういえばロバートも言っていたが、ロールプレイとはシナリオにおける演者であり、僕はキアームの演者という事になる。
ロバートは以前から僕にこのゲームの良さを伝えてくる度に、決まってこればかり口にする。
男ならば皆こういう経験はあったのではないだろうか。
アニメに出てくるヒーローや登場人物になりきって、必殺技やそれを受ける役割等、恥ずかしげもなく演じていたのではないかと。
しかし、それは皆感情移入してアニメや漫画を見るうちに登場人物の生い立ちや立ち振る舞いを自然と記憶の中に受け入れているからだ。
つまり、演じるにしても生い立ちや設定が解らなければどうしようもない。
分かったとしてどこまで演じ切る事ができるか。
僕は俳優志望でもないし、こだわりもない人間だが、自分の分身ともなれば話は別だ。
ここは真剣に見ていくとしよう。
さて、キアームが自身の事を”不幸の女”と呼ぶようになった所まで話が進んだのだが、ここでデジェヴュを感じた。そういえば、チュートリアルを受けずにクォメンサントに転移した後、3件程ひどい目にあったのを思い出す。
そしてまた、僕の脳裏に例のアスキーアートが再生された。
これからどうなるのか、嫌な予感しか感じ得ないのはどうしてだろう。
ゲーム開始早々もいい所から落ち込んでいると、ここで急に第三者jである語り部のナレーションが入る。
『ここで、キアーム・ラテーナは人生の岐路に立たされる。彼女の導かれし行き先は神のみぞ知る』
ん? そりゃそうだろうけど。
と、その声を不審に思っていると、目の前に急にメッセージダイアログが表示される。
【目の前のダイスを振り、貴女の人生の行く末を占いましょう】
なんとなく、漠然と表示されたYESを選ぶ。
すると、目の前に3つの小さな物体が光と共に現れる。
それはゆっくりとキアームの前を落ちていく。なんとなくそれを両手で受けると、光を失って6面ダイスが3つ現れた。
これは俗にいうサイコロだが、どうしろと? 降ればいいのか?
とにもかくにも振らなければ話にならないようで、促されるまさいを振る。
7回振り終えたところで【能力が決定されました】とメッセージダイアログに表示される。
その結果に納得がゆかず、この後2度、能力値をリセットし、これが三度目の正直と賭けに出た結果がこれだった。
名前:キアーム・ラテーナ
種族:エルフ
性別:女性
【能力値】
体力度:12
知性度:13
幸運度:5
耐久度:10
器用度:20
魅力度:30
敏捷度:15
──どうしてこうなった。
ダイスを振る度に能力値の説明ダイアログが表示され、上から順に武器や防具の装備制限。
魔法の使用制限。
様々な行動における確率判定。
攻撃を受けた時の打たれ強さ。
様々な手作業における確率判定。
NPC等や対人関係における判定指数。
と、概ね自由行動における適正不適正を現したものなんだと。
降り直しは3回が上限だった。
一度目幸運度25と高かったが、体力度が5だったのでこれは何も装備できないに等しい。
仕方なく次のダイスを振ってゆくが、全体的に平均的だったのに要らぬ欲が出てしまった。
人という者は欲望に際限がない事を思い知らされる。
職業を、王道で戦士的なものにしようかと思っていたのに、体力度が16と味気ない。
女性剣士としては普通の数値なのかもしれないのだが、重たい武器を振り回すのは浪漫だと常々思っていたのもあり、20以上を狙ったのが間違いだった。
そして、先程の数値になったワケ。
異常に低い幸運度、異常に高い魅力度、まぁ、合格点の器用度。
これから導き出される天職とはなんだろうか。
すると、考える間もなく次のメッセージダイアログが表示される。
【以降振り直しを行う場合、一度ログアウトしてください。振り直しチケットの購入は”こちら”を参照して下さい】
”こちら”を選んで中身を確認する。
ふむ、なになに?
【振り直しチケット1回……1,500円】
【振り直しチケット3回……4,000円】
【振り直しチケット5回……5,000円】
【振り直しチケット10回……10,000円】
驚愕の内容だった。もう少し良く調べておいた方が良かったと後悔したが、もう遅い。
…………財布の中身と相談する前に終わってる。
今はソフトとアバターを購入して手持ちは0円どころか、親に借金までした。これは流石にもう無理だと観念した。
は、はは……足元見てるな。
仕方がなく元のメッセージダイアログに戻し、【NEXT】を選ぶ。
能力値を確定する旨のメッセージが表示されて、渋々【YES】と押すと、また新しいメッセージダイアログが表示された。
【適正のある職業を選出致しました。以下の職業からお選び下さい】
【怪盗】
適正能力S
【盗賊】
適正能力A
【僧侶】
適正能力C
【魔術師】
適正能力C
【呪術師】
適正能力C
【戦士】
適正能力D
【格闘家】
適正能力D
以下適正なし
【魔法戦士】
【魔導師】
【聖闘士】
う~ん。色々な職業があるな。
イメージ的に気持ちを魅かれたのは、魔法戦士と魔導師と聖闘士だったけど、何れも適正外だった。
残念。
そして、一番適正があるのが怪盗って……。
なんでこうなった。
戦士とかを選んで、大器晩成型を目指すのもありだけど、最初は苦行の道だろうな。僧侶……う~ん。どうもパッとしない感じ。
まぁ、何れ転職もできるとか言われてるし、ひとまずは適正の高い怪盗でいってみることにしましょうか。
怪盗を選んで次の項目へ進む。すると、目の前からコンソール類やメッセージダイアログの類が全て消え去り、映画のスクリーンに吸い込まれていく。
あれ? と思う間もなく。
映画のスクリーンに吸い込まれると、そこは映画の中に移った世界が広がっていた。
なんとも面白い演出である。
すると、目の前に大きな建造物が立ち並ぶ風景が見えだした。
スカイダイビングで自由落下していくかの様だが、ある一点に向かって引き寄せられていく落ち方をしていた。
建造物が石造りの中世ヨーロッパ風の建物であると気がつい頃、一人の髪の長い少女が歩いているのが見えた。
って、おいおい! このままだとぶつかってしまう!
両手両足でジタバタと暴れるが時すでに遅し。
少女とぶつかってしまった。
──かのように見えた。
「あれ? 何もなってない?」
「声が……これは、キアームの声だ!」
そうか、まだチュートリアルの途中だった。
今までは三人称視点でキアームの生い立ちを追いかけていたが、今度は自分がキアームになれ。ってことなのだろうか。
すると、自分の意志とは違うもう一つの意志が言葉を発した。
「どうして私が農作業なんてしなきゃいけないのっ! 安なのは奴隷の仕事だわっ」
状況が理解できないと思っていると、キアームの情報、いやキアームの記憶と言うべきだろうか。それが、自分の過去を思い出すかのように、記憶の引き出しを開け、さも当然化の様に脳裏に取りだす事ができた。
──そうか。
私は叔父さんと、叔母さんの農作業の手伝いが嫌で逃げ出して、少し離れた所にある街を一人歩いていたのか。
「こんな生活から逃げ出したいわ。でも、だからといって冒険に出るなんて怖いし……」
そうだ。この町は冒険者の街と言われ、沢山の冒険者たちが集う場所。誰かと知り合って自分を連れ出してもらおう。
そんな気持ちで道をひた歩いている。
それも今回だけではない。
今まで数えきれないほど繰り返してきた。
冒険者ギルドの入り口前まで来たこともあるが、皆屈強な男たちばかりが出入りしており、小さな少女には少し場所が悪い。
すぐに尻込みして帰ってきた覚えがある。
「私ももう33歳になったのだから、そろそろ独り立ちもできるわ!」
”僕”が言うのもなんだが、憑代のキアームと、今のキアームとを比べると、まだあどけなさが残り、ひいき目に見ても冒険者を気取るには若すぎるし、女性である事を鑑みても男たちの手玉を取れるような柄でもない。
即座に慰み者になって奴隷の様に連れまわされる日々が続くだろう。
明らかに背伸びをしている女の子としか思えない発言だ。
けれど、背伸びをしたい。
一人で何でもできる様になりたい。
そんな気持ちで心が一杯になる。
「うぅ……。ここがいつも怖いのよね」
薄暗い路地を抜けたさきに冒険者ギルドがある。キアームはもう一度ここに挑戦するべく、町までやってきたのだ。以前は入る事すらできなかったが、あの時とは違う。
もうこんなに大きくなったんだから。
と、胸を張ってみる。大きな双子山が胸で揺れ、重みで上下に揺さぶられる。
「大きいのはいいのだけど、安物のブラじゃ胸が揺れて痛いわ」
などと、呑気に胸の小さな女性が聞いたら妬まれるような愚痴を漏らしていると、後方からザッザッザッザと、足音が聞こえてきた。
身体がびくりと強張る。
素早く駆け抜けて行くつもりだったのだが、運悪く誰かと出くわしてしまったようだ。