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あなたネカマでしょ? いいえロールプレイです!  作者: 豚太 吉助
第一部  駆け出しロールプレイ
4/5

RolePlaying 004  エルフ少女:お姉様に服を脱がされてしまいます!

オバサンは誰得なので、オネエサマに変更しました。

「ポータルの前に現れた瞬間に、君に一目惚れした。いいだろう……?」


 クルーガル・ロイはそうとだけ言うと、イケメンの顔を度アップになるまで近づけてきた。

 ムリムリムリムリムリムリムリ! イキナリ男とキスなんて、罰ゲームでしょっ!


「や、やめっ!」

「違う、ハラスメント行為と念じて……! でなければ、このまま本当にキスしてしまう」


 クルーガル・ロイの目は笑っていない。冗談ではないと言う眼差しで真剣にこちらを見据えている。ヤバイのである。このままでは、キスされてしまうのである。リアル母体の体がそれを全力で拒否している。ここでは魂と言うべきなのか。そして、男の言葉を思い出す。ハラスメント行為と。


「止めって! って言ってるだろっ!」


 すると──【ハラスメント警告を発行しますか?】と、目の前に突然現れる文字。目の前に見える男よりも最優先と言わんばかりに最前面に表示されている。意識だけで迷わずYESと答えた。

 すると突然、目の前の男が見えない何かにバチンと弾かれて軽々と吹き飛んでしまった。

 なんと、特別指や声で応答しなくても意識的な返事でも大丈夫なようだった。


「っと……、こんな感じになるのか。ふむ、警告を受けたの初めてだったから僕も驚いたよ」


 えっ? 確か、3回警告受けると退場処分になるんじゃなかったっけ? あらら……こんな初心者のチュートリアルの説明代わりにこんなペナルティーを負わせてしまうとは。これはさすがに申し訳がなさすぎる。

 上手に言いくるめられて、またキスを迫られる前にさっさと謝っておこう。


「ご、ごめんなさい! まともにプレイできてない初心者にここまでしてもらうなんて……」

「いいよ。始めたばかりの初心者を助けるのは、上級冒険者の務めというものだよ」

「そんな……なんだか、申し訳ないです」

「じゃあ、そこまで言うのなら、君の唇を持ってお礼に返させてもらう。ではダメかな?」


 ええ!? いや、それはちょっと……。って、話が堂々巡りしてるじゃないか!


「すまん。本気にしないでくれ。僕も誰彼かまわずナンパするほど、節操のない男だと思われたくないからな」


 ほっ……助かった。というか、すでに節操がないと思うんですけど。

 しかしこのゲーム色々と自由度が高すぎる気がする。ユーザーに想像力と可能性を与えたと、言われるゲームなだけはある。現に、街中で殺されかけるわ、ハラスメント警告発行のレクチャーでキスされそうになるわ、最低限の職業に就かなくても町の中を歩き回れる位だし……。呪われているんじゃないのか? この憑代(アバター)は。

 高すぎる自由度は身を滅ぼす可能性も秘めているってことかな? これは怖いな。チュートリアル後でちゃんと受けておこう。


「今日は、色々とありがとうございました」


 助けてくれたり、お節介焼いてくれたり、身を挺してレクチャーしてくれたり、至れり尽くせりなんだけども、如何せんセクシャル系のアピールがしつこいです。早々に切り上げよう。そうだ、それがいい。そうしよう。ついでに言えば、アイツが待っているだろうから。


「どういたしまして」


 ニコリと表情を作りイケメンを誇示するが、残念だけれど私は男なのだ。主に中身がね。いくらロールプレイ至上主義とはいえ、男同士でこれはいけませんぞ。いや、まて、仮に向こうの中身が逆という線もあるが……深く考えるのは止めて、これでよしとしよう。

 一応、ニコニコと愛想を振りまいておいたが……


「そうだ、何かあったらボクを呼んでくれ。フレンド登録をしておこう」


 と、こちらが有無を発する前に、【フレンド登録依頼が届きました。承認しますか?】と、目の前にダイアログメッセージが表示された。

 …………これは断りづらい。この手のは乗りみたいなものなんだよね? 登録するだけして、以後音沙汰なしなんてケースも多々あるし。僕の形態のアドレス帳的に。面倒な相手も、こちらから特にアクションを起こさなきゃ大丈夫だろう。

 そうふんで私は【YES】と答えておいた。


「ありがとう。……そうか、君はキアーム・ラテーナと言うのか。うむ、いい名前だ。これは──、もしかしてエスペラント語かな?」


「え?」


「い、いや。いいんだ。気にしないでくれ。──おっと、冴えない現実から呼び出しを食らってしまった。ボクはこれで落ちるけど、キアームさんはまだチュートリアルを受けてない一般人の状態なのだから、決して外には出ない事だ。それに、早めにログインしなおしてチュートリアルを受ける様に。いいか?」


「え? あぁ、はい。わかりました。今日は本当にありがとうございました」


「よせ、そんなに改まらなくても。──そうだ、今度デートでもしてくれるのなら、チャラにしてやってもいいぞ」


「あはは……」


 冗談か、本気なのかよく分からないナンパ文句を適当に受け流すと、じゃあな、この道をまっすぐ歩けばポータルだから。と、だけ言い残して、その場でログアウトしていった。

 良く分からない人だった。悪い人ではないが、如何せん中身男の僕にとってはむず痒くなるようなセリフのオンパレードだ。

 だけど、他にも異性キャラでプレイしている人は居るはずだし、そういう人たちは一体どうやってロールプレイをしているのやら。


 さて、そういえば【クォメンサント】の町の噴水で、あいつが待っているとか言っていた。あれから結構な時間が過ぎている。もう出会えないかもしれない。だが、ログアウトして現実で話をすると言う方法もある。そう気にしなくてもいいさ。と、楽観しながら一度ポータルまで戻ってから噴水を探すことにした。


******


 ゲーム開始前にアイツが行っていたアバターの特徴があった。その特徴とは、緑色の度装束に赤いマントを羽織っている。頭には白銀の額当てを装備しているそうだ。名前は「ロバーツ」で、性別は男性だ。

 と、聞いていた。一度ポータルに戻った折に噴水を見つけたが、そこに聞き及んでいた情報に該当する人物がいなかった。


 先程とは違い、次第に人が増えているようで、噴水周りに人が集まって談笑している。辺りを見渡していると、ポータルから次から次へと人が現れていゆき、どんどん人が増えてきた。


 これはまずい。人ごみの中から彼の云う様相の人物を探し出す事が困難になってしまう。

 そうこうしていると、ポータルから噴水へどんどんと人が流れ込んできて、気が付けばなぜか囲まれていた。囲んでいるのは男女様々な種族のプレイヤー達で、私に向かって口々に言葉を向けてきた。


「これって、迷子NPCか?」

「どうだろう。あっでも、この服ってキャラメイクの時に着ていた服じゃないかしら? あたし、1週間前の事だから覚えてるわ」

「うそっ、それじゃ、あの服ってレア装備じゃないの!?」

「確かにそうだね。冒険者として職を得た時に初期装備と交換する筈だから」


 などと好き勝手言っているようだが、言わせておく分には害はない。それに中傷の類でもない。だから問題ないと思っていたのだが、一人だけ一風変わった女性キャラが前に出てきた。


「お前さん、その服を譲ってもらえないかい? 心配しなくていい。金ならあるさ」


 何このアマゾネスみたいなお姉さん。この人もプレイヤーキャラなのだろうか?

 現れた女性は20代後半頃の様で、見た目の人種は人間で女性。アマゾネスと例えたように大柄で引き締まった良い肉付きをしている。そんな健康的なアスリート脚線美を包む装備は、大切な所を三か所だけ覆う金属鎧。後は、申し訳程度に腰にショールを巻きつけている位だ。もう腰巻にしか見えない。しかし、武器を持ているようには見えない。


「どうした? あたしの顔になにか付いてるのかい? それより早く返事を聞かせてくれないか?」


 そんなにこの服が欲しいの? いやでも、これ無くなったら裸なんですけど。憑代(アバター)とは言え流石にそれは……。


「えぇと、いや、今はこれしか装備を持っていなくて。流石に譲る訳には……」


「だったら、エルフ用の普段着も付けておくよっ! 金貨5枚でどうだい?」


 いや、金貨5枚が適正なのかとか以前に、これを脱がされては困る。さっきも口々聞こえてきた会話の中に、初期装備と交換とか言ってたわけだし、このまま持って行かれてはまずいのではないか?などと、一人考えていると……


「まどろっこしい娘だね。売るのかい? 売らないのかい?」


 まどろっこしいのは"お姉様(オバサン)"の方じゃないのか? と、呆れた表情を向けたのが良くなかったのか。元からキツかったお姉様(オバサン)の眼が更にキツくなる。


「アタシに目を付けられて、この【クォメンサント】で生きてゆけると思ってるのかい?」


 えー? いくら欲しいからって脅しなんて……。

 僕が着ている服を力ずくで奪おうというのだろうか? カツ、カツと足元からヒールの音を鳴らしてこちらへ移動してくると、周りのプレイヤーも一連して動いている。他から見えないように、さり気無く詰め寄ってきている。お姉様(オバサン)と、その周囲に取り巻くプレイヤー達はどうやらグルらしい。

 一難去ってまた一難。私はただ友人と会いたいだけなのに。と、今日は厄日だなと、メニュー端末を操作してログアウト方法を探そうとし始めた。ここは冷静に戦略的撤退だ。

 しかし迫りくるお姉様(オバサン)を無視しきれず、あたふたとメニュー端末を操作している所為か、初めてのログアウト操作からか、なかなかログアウトボタンを見つけられない。


「大丈夫。皆に見えないように着替えさせてあげるからさぁ!」


 獲物を狙うハンターの様な目で見据えられ、女性とは思えない手つきで僕の服の裾を掴み取ろうとわしわしと指を動かしている。この女性には服が獲物にしか見えていないのだろう。

 そうこうしていると、操作していた端末の奥に映っている人だかりがウネウネとうごめきだすと、一人の男が隙間を縫って姿を現せた。

 何が起きたかと、一度操作の手を止めその男を見やった。

 男は、緑色を基調とした度装束に赤いマント。白銀の額当てを装備していた。

 おや、この顔には見覚えがあるぞ。アイツ、アバターは自分の生き写しか? 少し男前を盛ってないか? だが、これならアイツが言っていた様相に限りなく一致する。


 目の前に現れた男は、一度私に向いて、お姉様プレイヤーに向き直ると、お姉様(オバサン)が服を無理やり脱がそうとこちらに手を賭けた刹那──


「おっと、これ以上は手出ししないでくれよ。この娘は俺の連れなんだよ、マゾーガさん」

「お、おや、誰が来たかと思えば、あんたの連れだったのかい? ロバーツ」


 目の前の男が強く言い放つと、急にバツの悪い顔になったマゾーガお姉様。

 そうか、この男がアイツか。ロバーツって言ったよな確か。よし、だとしたら本人と一致したわけだ。


 しかし、彼には僕が女性アバターを選んでどんな様相をしているかなんてわからないはずなのだが。

 一人考え込んでいると、ロバーツに手首を掴まれて、あれよあれよと今度は広場脇のベンチまで連れて行かれた。今日は色んな男に連れまわされる日だ。

 ロバーツは、ふぅと口から息を漏らすと、申し訳なさそうに言葉を発した。


「──ごめん。ああでも言わないと、あの人は(マゾーガ)退かなかったはずだったから。それに君が商談していた風でもなかったし、間に入らせてもらったんだ」


 ああ、そういう事。たまたま助けてくれただけなのね。しかし、こういう強引な所は彼らしい。


「ありがとうロバーツ。──それとごめん。キャラメイクに2時間もかかっちゃって。僕だよ」


 格好よくセリフを決めている所悪いのだが、傷は浅いうちにしておいた方が良いと思ったからだ。さっさと(キアーム)が僕である事を教えておかなければ、更なる面倒事を生みそうに感じたからだ。


「え? もしかして、お前……!」


「ごめんごめん。19:00まであと10分位しかな無くなっちゃったね」


 なんか、溜まったものをすべて吐き出すかの如く長い溜息をついたロバーツは、項垂れたまま崩れ落ちる様にベンチに座り込んでしまった。しばらくしてから俯いた顔を上げると呆れた口調でロバーツは言った。


「まったく、その様子だと絶対チュートリアル受けてないだろ? 俺はてっきりチュートリア迄終わらせて、そろそろここに現れる頃だと思って戻ってきてたんだよ。まったく、やってくれるぜ」


 精神的に草臥れたのか、よろよろと立ちあがるロバーツ。

 ごめん、まじでごめん。


「悪かったよ。ほんとにごめん。この娘作るのに時間がかかっちゃって」


 本当に申し訳なかった。あった時に本気で謝るつもりだった。だから、真剣に謝った。腰を折り曲げてまで深々と謝った。

 ロバーツは僕よりも身長が高い。折り曲げた腰を引き戻してゆき、戻しきらない所で恐る恐る上目使いで彼を見上げた。すると、呆れていた顔が一瞬で驚いた顔に変わってガタガタと後ろへたじろいだ。


「ちょっ、おまっ……こ、これは反則だ! 稀に見ぬ天才か…!?」


「はい? 意味が解らないんだけど……」


「あー、まぁ、もういいよ。一応さっきのがお詫びみたいなものだったし」


 どういう事? 助けてこそ貰ったが、ことらからは何もしていないと思うのだけど。


「さて、あんまり時間がないぞ、こちらからフレンド依頼しておくから承認しろよ」


 ロバーツから、【フレンド登録依頼が届きました。承認しますか?】とメッセージが届いた。こちらは迷わずYESを選ぶと、今度は二人目のフレンドが登録された。


「それじゃ、俺はこれで落ちるぞ。鍵を締めなきゃならんから、お前もそろそろ落ちてくれ」

「はいはい。急ぎますよっ」


 ロバーツにそう促されて時刻を意識すると、目の前に18:55と表示されていた。終了処理を考慮するともうログアウトし始めても遅くはない時間だ。


「んじゃ、お先。あぁ、そうそう。そのアバターの服からさ。自分で胸元を覗き込んでみろよ。凄い物が見えるぜ? それが今回の慰謝料だ。じゃあな──」

「な、なんのこと──って、居なくなっちゃった」


 そうとだけ言い残すと、目の前から居なくなった。

 ふむ、服から胸元を覗き込むって?やってみよう。覗き込んだ先にあったのは下着も付けていない。エルフにしては大きいサイズの双子山が目に飛び込んでくる。しかも、その双子山の頂にはには一つずつ可愛らしいお花が咲いていた。

 慌てて胸元を押えても当の本人はもう居ない。

 なんか、急に虚しくなって、胸に当てた両手をだらりとおろした。


 と、言う訳で、二つの波乱を超えて今日はこれでログアウトしておくことにした──。


 僕がログアウトすると、すでに彼は帰り支度を整えていた。ご丁寧にも俺の荷物もまとまっておいてある。

 VRキットを手早く解体してリュックに詰め込むと、彼がまとめてくれた荷物を手に取ってさらリュックに詰め込んだ。


「それじゃ、鍵閉めるぞー! 明日は16:00からな」

「わかった。講義が終わったらすぐ行くよ」

「あ、詳しい事情は明日聞くからな~」

 

 などと、必要な会話だけ済ませて互いの岐路に付いた。

 明日は町を案内してもらいたかったので、どうしてもチュートリアルは返って済ませておきたかった。

 初めは、チュートリアルなんて、受けても受けなくても良い物だと思っていたが、あそこまで警告されては、見てみたい気持ちの方が強い。怖い物見たさのような、そんな漠然とした感じで。


 僕は帰宅して食事をとり、風呂に入り、自室へ戻ると、時計は21:00を指していた。

 さて、今日の続きをしよう!

オバサンは俺得なので、やめました。残念。

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