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 日の出と同じくらいの時間に目が覚め、二度寝する気にもならなかったので、隣のベッドで眠っている夏川を起こさないように、鍵を持ってそっと部屋から出た。水上はロビーの椅子で缶コーヒーを飲みながら、置いてあった観光ガイドブックを読んだ。アラームを設定した時間まではここにいるつもりだ。

 ガイドブックを読み終わり新聞に目を通していると、ホテルの入口から古泉が入ってきた。首から白いミラーレスカメラを下げた彼女は、フロントで立ち止まらずにエレベーターの方へ歩いて行こうとした。どうやらフロントに部屋の鍵を預けていないらしい。

「古泉、おはよう」

 気付かれずに通り過ぎていきそうだったので、水上はあまり大きくない声で挨拶をした。

「ん? おはよう。何してるの? こんなところで」

 古泉はちょっと驚いたようだった。

「早起きしたから、暇つぶし」

 彼は新聞を示して簡潔にこたえた。続けて、

「そっちは?」

「早起きしたから、散歩してきた」

「それは、なんというか、健康的だな」

「でしょ」

 彼女は得意気に言った。

 並んで椅子に座って、古泉が撮った写真を見せてもらった。まだ暗く人気のない町並み。ほのかに明るくなった町を走る電車。大きな橋の向こうに見える朝焼けと海。そして猫たち。

 しばらくして、それぞれの部屋に戻った。

 朝食はバイキング形式で、はじめはボーっとしていた天水は、夏川に世話をされながら徐々に覚醒していった。天水の意識がはっきりしてから、今日の予定を話し合った。

 十二時に昼食を食べる店に集合することにして、それまでは自由行動だ。写真部でどこか出かけるときはたいていそうなる。それぞれの撮りたい写真や行きたい場所は違うので、できるだけ自由な時間をつくるようにしている。

 朝食を終え、部屋に戻って身支度をととのえ、夏川とロビーで二人を待った。しばらくすると天水と古泉が降りてきて、チェックアウトをした。駅のコインロッカーに荷物を入れて、そこから自由行動となった。

 しかし、四人とも同じ方向に歩き出した。

「みんな山の上に行くの?」

 線路沿いの道を歩きながら天水が聞いた。この町は海の近くに山があり、その間に狭い平地がある。平地には商店街があり、山には寺や古い建物が多くある。山の中腹は住宅が多い。

「とりあえず高いところからの景色を見ようと思って」

「同じくです」

 二人の答えにと同時に古泉も頷いた。山頂までのロープウェーがあったが、高い山ではないので四人は歩いてのぼることにした。

 線路が石段の途中を横切っていて、それを越えると坂道と階段ばかりの道になった。車もバイクも自転車ですら通れない道だか、宅配便などはどうするのだろう、と水上は思った。引っ越しも大変そうだ。

 途中で何度か立ち止まって景色を写真におさめた。正面の島との間の狭い海を小型船が行き来しているのが見えた。

 山の上には展望台があった。そこから少し下ったところに大きな寺がある。展望台からおりてから、天水が、

「この後、そこのお寺に行くけど、誰か行く?」

「行きます」

「行く」

 夏川と古泉がほぼ同時にこたえた。水上には他に行きたいところがあった。

「水上」

 二手に別れるときに、古泉が話しかけてきた。町が見渡せる眺めのいい場所でのことだった。

「朝見つけたんだけど、あのあたりに古本屋があった」

 彼女は山麓駅の先、商店街の入口あたりを指さした。

「そうか。ありがとう、あとで行ってみるよ」

「じゃあ、またお昼に」

「それじゃあな」

 水上は山の中腹辺りにある文学館に行った。その後、坂をおりて古泉に教えられた古本屋に行った。古本屋を出ると時間が迫っていたので、早足で待ち合わせ場所に向かった。

 駅前には、三人が待っていた。

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