三
新幹線のホームから城が見えた。屋根と壁の隙間から、すぐ近くにある城の外壁と一の丸が見える。
「近いですね、城」
「駅から徒歩一分の好立地」
「誰も住めませんよ」
乗ってきた新幹線を見送ってから、夏川と古泉はそんな会話を交わした。一緒に新幹線を降りた人々はもうホームにいない。
彼らの住む町を出発したのが早朝で、昼ごろにこの駅についた。
「昼ごはんの後に城に行きませんか?」
「いいね。二人もそれでいい?」
天水の言葉に水上と古泉は頷いた。当初の予定が跡形もなくなるのはいつものことだった。
城とは逆の出口から出て、駅前の広い道から脇にそれると大きな商店街があった。新幹線の中で話し合ってお好み焼きを食べることは決まっていたので、古泉が発見した小さなお好み焼き屋に入った。
水上と天水の分もまとめて古泉と夏川に焼いてもらった。四人とも違うメニューを頼んだので、切り分けて交換したりした。
食べ終わって、駅に戻り、駅を素通りして反対側の出口から出た。道を一つ横断しただけで、城の入口の階段にさしかかった。階段をのぼって、一の丸の横にある門をくぐると、城の中庭に出た。新幹線のホームからは見えなかった五層の天守閣がある。その周りには五分咲きほどの桜が多く植わっている。
各々が天守閣へと入っていった。水上は桜を眺めていたため、四人の中で一番最後に入った。空襲で焼失したのを復元した天守閣で、中は普通の博物館のようだった。
入口近くの甲冑に古泉が熱心に視線を注いでいた。そのとなりに立って、
「城とか好きなのか?」
「……城が、というより、こういう展示を見るのは好きだよ」
「甲冑が?」
「うん。武器よりも防具のほうがいい」
「そうですかい」
来ることがわかっていれば、あらかじめこの城のことを調べるが、今更そう思っても仕方ない。いきあたりばったりなのは写真部の伝統らしいので、水上もそれに倣うことにした。
展示を見ながら上の階に上がっていった。最上階は展望台で、見知らぬ町を見下ろした。駅の右側に美術館や博物館がまとまっている公園がある。かなり広い。
その辺りを見て回って、ホテルのチェックイン時間が迫ってきたところで駅に戻った。普通電車で二十分弱、海が見え、隣の島にかかる橋の下を通り、今日泊まるホテルがある町に着いた。
部室で行き先を話し合ったときに、水上が提案した町だった。以前読んだ小説に出てきて、訪れたいと思っていた町だ。
駅舎から出たとき、日が傾きはじめていた。駅から少し歩くと海だが、すぐ近くに対岸の島があり、
「『河のように思われた』って書かれていたけど、まさにその通りだな」
水上はある小説の一節を思い浮かべて言った。
「海には見えない」
古泉も同感のようだ。
そこからホテルまで歩いて行って、チェックインを済ませた。日没を見ようと思い、カメラと財布と携帯電話を持って部屋を出ると、夏川もついてきた。
同じことを考えていたらしく、河のような海のそばには天水と古泉がいた。
水面を夕日が染めた。六時を告げる山の寺の鐘の音が響いた。
日が沈むのを見届けてから、四人でホテルに戻った。