一
「水上君は、こういうのに応募したことある?」
部活が始まる前の時間、部室でカメラ雑誌の最新号を見ていると、天水が後ろから覗きこんできてそう言った。開いているのは、読者応募写真の入賞作品が載っているページだ。
「いや、ないな。天水は?」
彼は首をひねって、天水のほうを向いて言った。
「毎回ってわけではないけど、何回か送ったことがあるよ」
彼女は背後にある棚から一冊の雑誌を取り出した。水上が今読んでいる雑誌のバックナンバーだった。机を回りこみながら雑誌を開いて、彼の正面に座り、机に広げた。
「ほら、これ」
そのページには「自由作品の部」という見出しがあり、天水は銀賞の正方形の写真を指さしていた。
見晴らしのいい場所の手すりの前で、身長差のある二人の女性が並んでいる写真だ。二人とも背中を向けているが、左が古泉で右が天水だとわかった。写真の中の天水が遠くを指さしていて、古泉もその方向を見ている。二人にピントがあっているので、景色はよくわからない。
正方形だと構図を決めるのが難しそうだ、と水上は思った。写真の下には県名と「鷹見 凪」と書かれている。
「すごいな、鷹見さん。これはいつのやつ?」
鷹見は写真部の前部長で、数日前卒業した。
「おととしの十月号だね。写真を撮ったのは夏休み中だったなあ」
「よく応募の許可を出したな、古泉が」
「背中向けてるからいい、って言ってたよ」
「そうか。それで、天水のは?」
彼女は雑誌の並んだ棚を指さして、
「その中のどこかに載っているから、見たかったら探すがいいさ」
「まあ、時間があったらな」
そう言って、水上は再び鷹見の写真に目を落とした。こうやって見ると、この二人の身長差は親子のようだ。
「いま、身長差がすごい、って思ったでしょ」
「……めっそうもない」
「もうこの写真は終わり! 私のを探せよー」
「気が向いたらな」
彼は再び最新号を読み始めた。
そうこうしていると、古泉と夏川が部室に入ってきた。休日は天水が一番に来て、次が水上ということが多い。全員が揃うまでは勝手に本を読んだり喋ったりしている。
「今日は提案があります」
四人が各々の椅子に座るやいなや、天水が言った。
「どうぞ」
夏川が続きを促した。
「みんなでこれに応募したいんだけど、どうかな?」
天水は、先ほど水上が読んでいた雑誌の応募規定のページを開いて三人に見せた。
「これって、写真部として応募できるんですか?」
「いや、それぞれで出そうと思う。賞金は部費の足しにしてくれてもいいよ」
夏川の問に天水が答えた。
「応募は、しないといけないか?」
水上が尋ねた。彼はあまり乗り気ではなかった。
「ううん、そんなことはないよ」
でも、と天水は続けた。
「こういうところに応募するかもしれない、って思いながら写真を撮るのは刺激になるし。納得のいくのが撮れなかったら、出さなくてもいいし」
「見方を変えると、欠点が見えるかも」
そんな風に天水と古泉に言われ、水上は反対するのをやめた。いつもそうしてきたように、今回も逃げ道がある。そうでないと、何もできないのかもしれない。
「わかった。写真は、合宿の時に撮るのか?」
春休みの終わりくらいに写真部で合宿に行くことになっている。
「うん。それもいいね。応募期限には少し余裕があるから、そのあとでも大丈夫だよ」
一段落ついた、という雰囲気になったとき、夏川が控えめに手を挙げた。
「あのー、四人で応募するのなら、雑誌が四冊必要なのでは?」