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ヴァイシュグラディール  作者: 土師 佐久間
第一章 終わりの物語
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第一話『プロローグ』

基本見切り発車ですの上に処女作なんで稚拙な設定等、多々ありますがお手柔らかでお願いします。

 たおやかに嗤う肉感的な女は嘯いた。 

 

 「――異世界に行きたいのはどちらかしら?」


 白銀が今いる場所は黒い空間だった。ついさっきまでいたスクランブル交差点は跡形もなくなり、雑踏と喧騒が嘘のような静謐が辺りを支配している。いや、真の意味でこの場の主導権を握っているのはまず間違いなく眼前の女だ。

 

 原理も理屈も欠片も分からない超常現象で、世界を暗澹に変えた張本人。血のように赤いのドレスと同色の髪は異常なまでに長く、女性特有の二つの大きな膨らみが扇情的に揺れている。暖色系の服装とは裏腹に、雪膚の肌は氷のように冷たそうだ。欲望と恐怖の象徴とも言える女が、白銀零しろがね・りょうの目の前に悠然と立っていた。


 周りは左右上下何処を見ても黒、黒、黒の一色の世界。本来あるべき地表は底無し沼のようになっており、白銀の膝から下は黒い泥濘にとられている。但し、この空間の支配者たる女だけは同心円状の波紋を作りながら立っているが。


 「おい、どうするシロ?」


 声に振り向くと、親友の黒梛悠くろなゆうが珍しく緊張した面持ちでいた。そう、この場に捕らわれているのは白銀だけではない。彼の親友に加え全5名が、この訳の分からない閉鎖空間に捕らわれている。20代後半のサラリーマンとおぼしき男性、茶髪でスカートの丈が短い女子高生、そしてサングラスを欠けた薄金色の髪の青年。この青年に至ってはその辺にいる不良か、と思うかもしれないが身に纏う雰囲気の格が違う。 


 近寄るものを切り刻む鋭利な刃の如く、鋭く尖ってたオーラを放っている。

 

 ――こいつは陽向の人間じゃない


 咄嗟に判断し、白銀は頭の中に注意人物を刻み込む。

 

 超然とした青年はこの状況に全く同じないどころか、黒い革ジャケットの胸ポケットから煙草の箱を取り出すと一本抜き取り口にくわえた。 

 

 そして、煙草の箱と同時に取り出した銀のライターで火をつけると一度大きく吸い込み、ふぅっと吐き出した。空中をゆらゆらと白い煙が漂う。その姿からは余裕すら滲み出ていた。


 「――ねぇ、どっちが助かりたいかしら?」 

 

 状況を冷静に判断していた白銀の思考を、女の艶声が中断させる。


 「聞いてもいいか?」


 白銀が問うと女はこてんと首を傾げた。


 「……何かしら」

 

 「異世界とは何だ?」

 

 「そのままの意味よ。こことは異なる別の世界、そこはこの世界の常識が全く通じず、異能の力で支配される場所」


 女は両手を広げ、陶然とした面持ちでその場でくるりと回った。


 「アンタは何故、俺たちを異世界に送りたがる」


 「貴方達が貴方達故に」


 「……もう一つだけ、二人とも助かる道はないか?」


「残念だけれど……それは無理な相談だわ。分かるでしょ?」


 「まあ、そうだろうな」 

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべる女に白銀は深い溜め息を吐いた。

 

 女は何が何でも白銀達を異世界とやらに送る気なのだろう。それも悪質なことに二人の内どちらかは助かる道を用意し、それを本人たちに決めさせようとしている。恐らく白銀たちが醜く争う姿でも眺める算段なのだ。だが、女の奸計に乗ってやるほど白銀は甘くない。

 ここで白銀が講じるべき最良の選択は――。






 





 




 



 「クロを飛ばす代わりに俺は助けてくれ」 

 

 速攻親友を売り飛ばすことだった。


 「おまッ……!ここは格好良く『俺が行くから代わりにこいつだけは!』ってところだろ!普通!!」 

 

 全力で焦る黒梛の姿を白銀はふっと、鼻で笑い飛ばす。


 「人間なんてそんなもんだろ?所詮、自分が一番かわいいんだ」


 「お前の歪んだ人間観はいいんだよ。てか友情補正どこいった」

 

 「安心しとけ、お前の家族には相応の慰謝料と、お前の最後の言葉でも贈っといてやる」


 「金か、金で解決する気かお前。凄い考えだな、さすが金持ち発想が屑過ぎる……ッ!!」


 喚きたて不満を爆発させる黒梛にニヤリと笑いかけながらも、白銀は女を注意深く観察していく。 

 その時だった。


 「ぐはぁッ!?」」


 「シロ!!」


 「う~ん、私そういう姿を見たかった訳じゃないのよ?もっと格好いい姿を期待していたのだけれど」 

 

 首を万力の握力で掴まれ、白銀は宙に浮かされていた。同時に女子高生からきゃあっと悲鳴があがるが、意識が苦痛に苛まれ気にする余裕はなかった。


 か細い腕の一体どこに、これほどまでの膂力があるのか甚だ不可解だった。まだ少年と青年の域の境に居るとはいえ、身長174㎝、体重63㎏の人間を片手で持ち上げるなど大の大人であったとしても不可能だ。


 首にさらなる握力が加わり、丁寧に手入れされている長い爪が首っ玉に食い込む。

 

 「あぐぁァあ!!」

 

 「そうやって直ぐに友達を裏切っては駄目よ。仲間は大切にないと」


 お前がほぞくな、と叫びそうになるが喉が締め付けられているため言葉にならず掠れた声しか出なかった。


 「くそッ!!とっととシロから手を放せ!!」 


 ついさっき親友に見捨てられたばかりなのに、変わらずの友情に突き動かされる黒梛に女は微笑みかけた。


 「貴方みたいな優しい子……私は好きよ。他者を労り、愛し、助け、守り、慈しむ。それはとっても素敵なこと……でもね」


 女は笑みを消し、代わりに殺気を迸らせた。


 「――無様な命乞いなんてホント不快。いいのよ、醜く争った果てに得た結果ならそれはそれで尊いものだから」

 

 五指に更に力が加わり、白銀の首筋から血が滴り落ちる。


 「悪い子にはお仕置きしなきゃね」


 女は白銀の首を絞めているのとは反対の細くしなやかな手を、ゆったりと前に突き出した。


 「来たれ冥府の門、惨禍と絶望を呼び起こし、賤しき彼の者を異界へ誘え」


 玲瓏たる声音が囀るように紡がれた瞬間、暗黒の世界に光芒が広がった。

 

 白銀の背後で発生する莫大な光量は、やがてその姿を縦長の長方形に変えて行く。


 現れたのは巨大な黄金の門だった。存在自体が眩いばかりの輝きを放ち、様々な精緻な金細工の装飾を施され、左右には裸体に棘のある蔦が這い回り苦悶の表情を浮かべる女の黄金像があった。 

 

 「……何だよこれは」


 呻くように呟かれた言葉は黒梛のモノだ。その姿に今なお白銀を縊ろうとしている女は、頬を赤らめ嬉しそうに眼を細めた。


 「ふふふ、素敵でしょ。これが私の権能『贖罪と懺悔の門』――この世界と向こうの世界を渡す唯一の門よ」

 

 得々と女が言うと、黄金の扉は低い轟音を鳴らし開いた。底にはこの暗闇の世界より更に悍ましい深淵が広がっている。

 

 そして、女は再度白銀に視線を向けた。

 

「今の気分はさぞ惨めでしょうね。友達を裏切り助かろうしたけれど、目算が外れて異界送りとなり、挙げ句の果てには切り捨てたはずの友達にすら心配されるのだから」 

 

 振りかぶり女は投擲体勢をとる。腰を勢いよく捻り、そのまま扉の中へと白銀をぶん投げた。


 身体を空中を浮遊する嫌な感覚が襲う。


 「一度、地獄を経験してきなさい」


 「――地獄ならとうに知っている、それにこれは想定内だ」


 首を絞められ、咽頭を潰されながらも白銀は獰猛に笑う。そのまま空中を疾走し暗黒へと吸い込まれる直前、白銀は唖然としている親友に言った。


 「じゃあなクロ、妹さんによろしく」

 

 「――ッ!!?」

 

 黒梛が驚いたように目を見開いた。

 

 白銀が無様な姿を晒したのには理由がある。白銀は短時間の内に完全とはいかないまでも、正確に女の性質を理解していた。


 それを可能とさせたのが『コールドリーディング』と呼ばれる技術の応用である。


 コールド・リーディング(Cold reading)とは話術の一つ。外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手のことを言い当て、相手に「わたしはあなたよりもあなたのことをよく知っている」と信じさせる話術である。


 この場合は話術ではなくそれ以前の観察過程の応用で、相手の仕草、服装、言動から性格を類推し後の行動パターンを幾つか想定するというものだ。

 女が着装しているワンピースの色は赤。赤色は色彩心理学上「活力・情熱・興奮」といった強いエネルギーをする色。


 一方で、赤には「怒り・攻撃的」といったネガティブな方面もあり、そもそも、怒りや攻撃性も強いエネルギーのひとつだ。


 そして、赤は信号機やパトランプ、消火器など、危険を表すサインとして利用されるほど自己主張が激しい一面がある。


 また赤は血や肉・熟した果実の色であり、遠い昔から「生命に直結する」色で食欲や性欲といった動物的な生きる力(生命力)を高める色でもある。


 このような予備知識と技法の合わせ技により、多少の修正加えるながら相手の行動をコントロールする事ができたのだ。

 

 もっともこれは、類い希なる洞察力と凡百ならざる鋭敏な感覚に加え、膨大な知識の山積があってこその強引な荒技だ。それを可能にするだけの頭脳が白銀にはあった。

 その為、女の狂気の矛先が自分に向くよう周囲を作為的に欺いくことが出来た。 


 ここまでする理由は、なにも白銀零という人間が純然たる善人だからではない。


 そこまで白銀が黒梛にするのには、それ相応の理由があるのだ。


 黒梛悠は幼い頃に両親を交通事故で失っており、3歳年下の中学に上がりたての妹と共に養護施設で暮らしている。


 兄妹は本当に仲が良く、お互いを助け合って生きていた。二人の仲睦まじい姿は白銀に希望と言うべきモノを見せてくれた。それは白銀が心のそこから切望し、しかし手からこぼれ落ちてしまったものだ。二度と手に入らず、きっと悔恨の念が尽きることは永遠にないだろう。


 無論、これだけが総ての理由ではないが思うところはある。


 ――今のままでいてくれればいい


 それが白銀の偽らざる本音であった。 

 生憎と妹とは直接語らったことは無いが、兄の黒梛には多大な恩がある。それも、自分を天秤に掛けれるほどに。


 白銀の行動の真意を悟ったのだろう。驚愕の表情をしていた黒梛は、白銀が暗闇に呑み込まれる寸前、顔を歪ませ怒気を発した。


 「バッカ野郎ッ!!格好付けてんじゃねえよ!!!」

 

 義憤に駆られる黒梛。そんな普段はなかなか見せない黒梛の姿を小気味よく思いながら、白銀は最後に微笑んで、黒梛に向けて『また逢おうな』と言葉にせずに口を動かした。


 それは誓いだ。この先にある未知の脅威を乗り越え、友とまた再会するための楔となるだろう。


 別の世界に行こうが死ぬつもりは白銀にはなかった。必ず生き残り、みっともなく足掻きもがいても、あらゆる手段を使って自分の居場所に戻ってくる。

 

 闇に呑み込まれる中、決意を胸に白銀は意識を薄れていくのを感じた。

ここまで読んでいただき有り難う御座いますm(_ _)m


ご意見、ご感想お待ちしてます。漢字間違いから批判まで絶賛受け付けております。


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