☆第九話 ナス
前にも云ったと思うが、僕はじいちゃんの部屋での昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。今でいうリフォームってやつで、それを請負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入りしている。勿論、原因は改造中のために寝られないのだが、まあ、寝られたとしても、工事の騒音で安眠はできない筈だ。僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋のどの場所に寝ても、騒音は防ぎようがない。そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わないものだから、大層、迷惑していた。
今朝も、父さんが勤めに出て暫くすると、大工の留吉さんが元気に家へやってきた。
「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
「…ええ。倒れるくらい暑いから困るわ…」
「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」と、留吉さんは、もう仕事に取りかかり始めた。毎度のことだから、母さんも気にしなくなっている。
「ここへお茶、置いときますから…」
「いつも、すいませんなぁ…」
「あと、どのくらいかかりますの?」
「そうですなぁ…。まあ秋小口には仕上げるつもりでおりますが…」
「そうですか…。なにぶん、よろしく…」と、頭を下げて、母さんは台所へと行った。
「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな」
「どうも、ありがとう…」
僕は渡された木屑を大事そうに持つと、これを工作に使おう…と思いながら走り去った。
台所へ行くと、じいちゃんが汗をタオルで拭いながら、「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…」と、収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢げに見せていた。
「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…」と、おべっかなのかどうか分からないが、母さん風に上手くあしらった。加えて、「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ」と、僕へ注文をつけることも忘れない。
「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…」と紫色にツヤツヤ光るナスを片手で示しながら、じいちゃんは賑やかに笑った。じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。
「それにしても、某メーカーの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」と呟きながら、じいちゃんは離れへ去った。
台所には、じいちゃんの頭ナスが、たくさんあり、僕を見ていた。
第九話 完




