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☆特別編(2の2) 湧き水

 洗い場の湧き水は、この空梅雨の夏でも決して途絶えることはなかった。真夏の今も滾々(こんこん)と湧き出ている。僕は昼寝の前に身体を冷やすため洗い場にかるのが常だった。で、今日も浸かっている訳だ。午前中に夏休みの宿題の日課を仕方なく済ませた。母さんのひと言があったことは報告するまでもない当然の事実だが、愛奈まなはいいなあ…とか不満に思いながらも片づけた次第だ。じいちゃんは事、学問に関しては学ばず、触れずのお人だから、母さんのようにくどくは言わない。早朝稽古のあと、こんな会話があった。

「まあ、恥を掻かない程度にな…」

 それだけである。今日、浸かる洗い場の中には、そのじいちゃんもいて、珍しく身体を冷やしておられた。師匠だから、ここは敬語となる。

「じいちゃん、この水が止まったことはあるの?」

「んっ? いや…わしの知るかぎりでは、ないなあ。先代がわしに下さった土地じゃが、なんでも、この湧き水は名水らしい」

「そうなんだ…」

「こんな水に身体を沈められるとは、果報者と思わねばならんぞ、正也殿!」

「ははぁー!」

 ちょっとした演技でじいちゃんの時代劇に付き合ってみた。そこへ父さんが現れなくてもいいのに現れた。書斎で仕事を済ませた後らしく、両手を上へ大きく広げ、身体をほぐしながら、である。

「どうだ恭一、お前も浸からんか」

 じいちゃんが珍しく柔和な声をかけた。だが父さんは、それでもギクッ! とした。

「ははは…私は」

 朝から夏風邪をこじらせ、グスングスンと言っておられるお人だから、その判断は正しいように思えた。

「ふん! 情けない奴だ。鍛えろ、鍛えろ!」

 冷水を気持よさそうに両手でジャブリ! と顔へやり、じいちゃんは半ばあきらめ口調でそう言った。父さんは頭を掻きながら無言でソソクサと家の中へ退去した。こりゃまずいところへ来たな…と思っていたに違いない。その父さんと入れ替わりに母さんが愛奈をあやしながら出てきた。

「わぁ~、いい風が流れますわね…」

「この冷水のおかげです。有難いことです」

 父さんに語ったお人とは別人が僕の横にいた。そろそろ身体が冷えてきた僕は、水から上がってタオルで拭いた。愛奈も気持ちいい風にバブバブと機嫌がいい。いや、むしろ場の空気を和ませる特殊効果がある、と言った方がいいだろう。母さんはしばらく椅子に腰かけて愛奈をあやしたあと、中へ戻った。

「正也! お昼寝しなさいよ」

 最後には必ずお小言こごとがあるから油断ならない。いつものように僕は反射的に、「うんっ!」と可愛く返事してその場をしのいだ。日蔭のタマとポチが、『このお方は要領がいい…』とでも言いたげな眼差まなざしで僕を見ていた。

                       特別編(2の2) 完

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