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☆第十七話 いつまで…

 蝉が合唱している。つい先だっては茶色っぽい幼虫だった彼らは、この夏になって土中から這い出し、ノソノソと樹を登り、さらには脱皮して、蝉へと華麗に変身した訳だ。変身はテレビでよくやっているたぐいだ。

「やかましいがな、正也。蝉は、この夏かぎりの命だ。そう思うと、わしはむなしゅうなるんだ…」

「そうなの…」

 よく分からない僕は一応、相槌を打って師匠のご機嫌をうかがった。後から聞いた話を端折ると、じいちゃんの戦友が暑い盛りに特攻隊とかで帰らぬ人となったのを想い出したのだという。益々、分からなくなる僕だったが、ふ~んと聞いておいた。

「わしも、そう長くない…」

 じいちゃんは蝉が鳴く樹を見上げながら目頭を赤くして押さえた。いや、いやいやいや…それはないだろうと、僕は瞬間、思ったが、師匠のご機嫌を損なうと一時間ばかり前にじいちゃんが棚に置いた饅頭が頂戴できなくなる恐れがあり、思うに留めた。

「どれ…茶にしよう。正也も来い!」

 じいちゃんは洗い場で冷やしたペットボトルの茶を手にすると、足継ぎ石から上がった。僕は、しめた! と喜びをあらわにした。

 今日は珍しく冷房が入ってるぞ…と不思議に思ったら、じいちゃんが注釈を加えた。

「ああ…今日は、わしの古い友人が来るんだ」

 電気モノ嫌いのじいちゃんだから、滅多なことではクーラーを入れず、団扇うちわパタパタなのだ。

 冷茶で美味しい饅頭を頬ばり、母屋へ戻ると父さんが欠伸あくびをして書斎から出てきた。夏季休暇が続くと身体がなまってしようがない…と贅沢ぜいたくなことを言う。僕とじいちゃんのように剣道で鍛えなされ、と言いたかったが、これも思うに留めた。父さんはじいちゃんとは真逆で、か細く、きゃしゃで、しかもすぐ体調を崩す弱いお方だから、いつまでのお命なのか分からないが、返ってジックリしぶとく長命なのかも知れない。僕や愛奈まなには、いつまで…という気持は、よほどのことでも起らないかぎり浮かばないように思う。母さんだけは心配だ。美人薄命というから、健康には留意して欲しいものだ。タマとポチは、いつまで…など知らぬげで、毎日をニャ~、ワン! と楽しく暮らしている。

                           第十七話  完

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