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☆第十話 昆虫採集

 まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも残り少ない。

 昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は、決して両親や、じいちゃんに強制されたものではない。自然と僕の習慣となり、小さい頃から慣れのように続いてきた。この夏に限って考えれば、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している。今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言や団扇うちわのバタバタがなかったから、割合、よく眠れた。

 四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た。母さんが出る間際に、熱中症に気をつけなさい、とくどく云ったが、僕は常備の水筒を首にぶら下げ、聞いたふりをして、一目散に飛び出した。

 虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。雑木林の中に数本の胡桃くるみの木があり、その中の一本の幹が半ば朽ちている。そこに、クワガタ達はたむろしているのだ。夜に懐中電灯を照らし採集するのが最も効率がいいのだが、日中も薄暗い雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろうと判断していた。

 僕が胡桃の木を眺めながらクワガタを探していると、ザワザワと人の気配がした。驚いて振り返ると、じいちゃんが笑顔で立っていた。手には某メーカーの虫除けを持っている。

「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ」と云うと、「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったんで、あとを追って持ってきてやった。ホレ、これ」

 じいちゃんは、僕の首に外出用の虫除け(某メーカー製)を掛けてくれた。

「どうだ…、いそうか?」

「ほら、あそこに二匹いるだろ」と、僕が指で示すと、「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」と昔話を始めた。じいちゃんには悪いが、付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した。静かに胡桃の木へ近づくと、やんわりと虫を掴んだ。そして、虫を籠の中へポイッと入れた。

「正也、その朽ちた木端こっぱも取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」

 僕は、じいちゃんの云うまま、木端も虫篭へ入れた。蝉しぐれが五月蝿いが、採集を終えた後だから、何となく小気味よく響く。

 帰り道、じいちゃんが僕に云った。

「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうする。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼ってやれ。飼う気がなくなったら元へ戻せ」

 じいちゃんの云うことはまとを得ている。

 夕飯を四人が囲んだとき、その話がでた。

「正也も、なかなかやるぞぉ~」と、じいちゃんが持ち上げる。「そうでしたか…」と、父さんは笑う。「お前の子供の頃より増しだ」と、じいちゃんが云う。父さんは返せず、口をつぐんで下を向いた。

 こうして、僕の夏は終わろうとしていた。

                           第十話  完

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