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お空の上のパレットと、真っ赤な迷子

作者: HANA
掲載日:2026/08/25

 お空のずっとずっと上。雲よりもさらに高い場所にあるそこは、例えるなら「ふんわりとした巨大なパレット」のような世界です。


 ここは、役目を終えた「魂」たちが集まり、次の場所へ向かうための準備をする小さな休憩所。

 魂たちには形がありません。その代わりに、彼らの内面は「色」となって、ぽわぽわと優しい光を放っています。


 青色は「ぽろぽろ泣きたい悲しさ」

 黄色は「ぴょんぴょん跳ねるような楽しさ」

 緑色は「ひなたぼっこをしている時の安らぎ」


 人間の魂というのは、生きていた頃のいろいろな思い出や感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っているため、たいていマーブル模様のように複雑な色をしています。一方、動物たちの魂はとってもピュア。嬉しいときは嬉しい! 悲しいときは悲しい! と感情がまっすぐなので、絵の具をそのまま出したような、綺麗な単色になることがほとんどでした。


 さて。この魂の休憩所を管理しているのは、真っ白な羽を生やした、ちょっとお調子者で心優しい天使たちです。

 しかし今日ばかりは、天使たちも雲の陰に隠れて、オロオロと顔を見合わせていました。


「ねえ、なんで人間のエリアにワンちゃんの魂が迷い込んでるの?」

「わかんないけど……あれ、すっごく怒ってない?」


 天使たちが指さす先には、犬の形をした小さな魂が一つ、ぽつんと浮かんでいました。

 迷子になった動物の魂がここにやってくること自体は、たまにあることです。天使たちが慌てている理由は、その犬の魂が放っている「色」にありました。


 まるで熟れすぎたトマトのような、あるいはチカチカと点滅する警告灯のような――とにかく、目が痛くなるほどの『真っ赤っか』だったのです。


 赤は、プンプンに怒っている色。


「あんなに真っ赤に染まってるの、久しぶりに見たよ……」

「よっぽど人間にひどいことをされたか、恨みがあるんじゃないかなあ」

「うかつに近づいたら、こっちまで火傷しちゃいそう。どうしよう?」


 ひそひそと相談する天使たちをよそに、真っ赤な犬の魂は、鼻をフンスフンスと鳴らすようにしながら、せわしなく辺りをウロウロしていました。何かを探しているのか、それとも誰かを追いかけているのか。

 周りにいたマーブル模様の人間の魂たちは、最初は「おや、珍しいお客さんだねえ」とニコニコ眺めていましたが、あまりにも犬の魂が「ガルルル!」と怒りのオーラを放っているため、怖がってススス……と道を空けてしまっています。


「困ったなあ。神様、ここ数日ちょっとお出かけしてて留守だし……」

「とりあえず、刺激しないように少し様子を見ようか」


 天使たちは、遠くからそっと見守ることにしました。


 * * *


 それから、何日かの時間が過ぎました。(この世界には時計がないので、あくまで感覚ですが)


 ウロウロと歩き回っていた犬の魂に、少しずつ変化が現れ始めました。

 最初はあんなにチカチカと燃えるような赤色だったのに、あちこち探し回って疲れてしまったのか、だんだんとその色がくすんできたのです。


 赤色は少しずつ濁り、熟れないぶどうのような紫色へ。

 そしてさらに時間が経つと、しとしとと降る冷たい雨のような、ひんやりとした青色へと変わってしまいました。


 青は、深い悲しみの色。


『……クゥーン』


 音は聞こえないはずなのに、そんな切ない声が響いた気がしました。

 すっかり青色に染まりきった犬の魂は、ついに歩くのをやめ、雲の上にぽすんと丸くなってしまいました。光もチカチカと弱々しくなり、今にもフッと消えてしまいそうです。


「だ、ダメだ! あのままじゃ魂が消えちゃうよ!」

「怒られてもいいから、助けに行こう!」


 すっかり可哀想になってしまった天使たちが、ワタワタと羽を広げて飛び出そうとした、その時です。


「――おや。少し待ちなさい」


 ぽわん、と空気が揺れて、温かい光とともに「神様」が現れました。

 相変わらずニコニコと穏やかな笑顔を浮かべた神様は、天使たちの前にすっと手を差し出して、優しく首を横に振りました。


「神様! でも、あのワンちゃん、もう限界だよ!」

「大丈夫。あれはね、自分たちの力で解決しなくちゃいけない問題なのです。ほら、見てごらんなさい」


 神様がふっくらとした指先で示した先。

 そこから、一つの人間の魂が、ふらふらと頼りない様子でこちらへ近づいてくるのが見えました。


 その人間の魂は、なんだかとてもボロボロでした。色もあちこち擦り切れていて、自分の形を保つのもやっとという感じです。

 けれど、何かに引き寄せられるように、真っ青になって丸まっている犬の魂のほうへ、まっすぐに進んでいきます。


 すると、どうでしょう。


 地面に突っ伏していた犬の魂が、ピクッと耳を立てるように跳ね起きました。

 近づいてくる人間の魂に気づいた瞬間――。


 消えかけていた青色が、ボワァァァッ!! と、一瞬にして元の『真っ赤っか』に大爆発したのです。


 それはもう、最初に出会った時よりもずっとずっと赤い、まるで太陽のような怒りの色でした。

 犬の魂は、ふらふらと歩いてくる人間の魂を見つけるやいなや、全身の毛を逆立てるようにして、弾丸のような猛スピードで突進していきました。


「ああっ! 危ない!!」

「食べられちゃう!!」


 怒りに狂った犬が、人間に襲いかかる。

 そう勘違いした天使たちが思わず目をギュッと瞑った、次の瞬間でした。


 ――ぽわぁぁぁ……ん。


 ぶつかり合った二つの魂から弾け飛んだのは、怖い火花などではありませんでした。

 花びらが舞い散るような、とてもとても優しくて、温かい光の粒だったのです。


「えっ……?」


 おそるおそる目を開けた天使たちは、その光景にぽかんと口を開けました。


 真っ赤な怒りの色は、人間の魂が持っていた色と混ざり合い、信じられないくらい複雑で、綺麗な色合いに変化していました。

 黄色、緑、オレンジ、そして少しの青。

 怒り、喜び、悲しみ、安らぎ。


 いろいろな感情がぐるぐるとマーブル模様を描きながら、やがて陽だまりのようなぽかぽかとした光に包まれていきます。


「噛みついたんじゃ……ない?」

「うん。あれ……すっごく喜んで、抱きついてるみたいだ」


 ぽろぽろと涙をこぼしそうになっている天使たちの頭を、神様がポンポンと優しく撫でました。


「お前たちは、あの子が真っ赤だったから『人間に恨みがあるんだ』と勘違いしていましたね。でもね、感情というのはもっと複雑なんですよ」


 神様は、嬉しそうにじゃれ合っている二つの魂を見つめながら、ふふっと笑いました。


「あの子はずっと、飼い主さんを探していたんです。きっと飼い主さんは、あの子を残して、思いがけない事故か何かで先にここへ来てしまったのでしょう。遺されたあの子は、飼い主さんがいなくなった悲しみで、あとを追うように息を引き取ってしまった。

 ……だからね、あの真っ赤な色は、『なんで私を置いていったの!』『なんで連れて行ってくれなかったの!』という、飼い主さんへの大きすぎる愛情が爆発した、ワガママな怒りだったんです」


「愛情の、怒り……」


「そう。大好きだからこそ、怒ることもある。再会した瞬間、あの子は『バカバカ! 寂しかったんだぞ!』といっぱい文句を言ったんでしょうね。でも、飼い主さんの魂に触れて、その悲しみや喜びに包まれたことで、ようやく安心できたんです」


 見れば、二つの魂はすっかり一つに溶け合っていました。

 怒りも、寂しさも、全部を分かち合って、互いの心をいっぱいに満たしていきます。


 やがて、完全に心が満たされた二つの魂は、マシュマロのようにふっくらとした『純白』へと姿を変えました。

 それは、もう何の思い残すこともない、とっても幸せな魂の色です。


「わんっ!」と嬉しそうな声が響いた気がしました。

 純白の魂は、楽しそうにくるくると空を舞いながら、神様と天使たちにお辞儀をするように揺れると、そのままキラキラと光の尾を引いて、お空のずっとずっと上、本当の天界へと昇っていきました。


「よかったあ……」

「すっごく、すっごく綺麗だったね」


 天使たちは鼻をグズグズ言わせながら、見えなくなるまでずーっと手を振っていました。


「さあて」

 神様はパンッと手を叩いて、ちょっとだけイタズラっぽく微笑みました。

「魂の形は、お前たちが思っているよりずっと複雑で、愛おしいものでしょう? だから、表面的な色だけで判断しちゃいけませんよ。お前たちも、あの子たちに負けないように、ここへ来る魂たちをしっかり満たしてあげるのがお仕事ですからね」


 神様の優しいお説教に、天使たちは顔を見合わせて、えへへと笑いました。


「はーい!!」


 雲の上に響き渡る元気な返事。

 天使たちは、次にやってくるちょっぴり不器用で愛おしい魂たちを迎え入れるため、バサバサと羽を揺らして、再び色とりどりの世界へと飛び立っていきました。

短編シリーズです!

またまた、ふと思いついたネタシリーズから、AIさんと一緒に試行錯誤しながら書いてみました(*'▽')


最初とんでも無くガチガチな文章だったので、いやどう考えてもこのテーマでその文体は違うやろ!って事で修正しつつゆるーい感じでいきました。


某ディ○○ー映画みたいな設定の所もありますが、さらっと雰囲気でお読みいただけますと幸いです笑

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