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第十二章 同じ場所

 目が覚める。

 夢の内容は、はっきりとは残っていなかった。

 ただ、暑さだけが残っている。

 あの空気の重さと、日差しの強さだけが、現実の中に少しだけ混ざっているような感覚だった。

 とりあえず、起き上がりいい匂いのする台所の方へ。飯だけは考えなくて良いから実家が楽だよなと思いながらとりあえず顔を洗って、食卓に座る。

 今日もいつもの母との会話。何年帰ってなくても親子と言う関係は変わらないのだろう。

 食事を終えて、部屋に戻る。

 ノートパソコンを開く。

 画面に数字が並ぶ。

 いつも通りの動きだった。

 午前が過ぎて、昼食を挟んで午後に入る。

 集中して取引を行う。

 気がつくと、閉場していた。

 画面の動きが止まる。

 今日は幾らか成果があった。

 椅子から立ち上がってアウターに手を伸ばし、財布とスマホを手に取る。

 「どこ行くの?」

 後ろから声がする。振り返らないまま答える。

 「ちょい海行ってくるわ」

 それだけ言って、外に出る。

 歩いても行ける距離だった。

 車は使わなかった。

 夢でなんとなく海を見た気がした。そして、海が無性に見たくなった…それだけだ。

 海へ通じる一直線の道こそ、変わり果てていた。海沿いは出店の新陳代謝が非常に激しい。

 全然覚えてのない店の看板を見ながら、ゆっくりと一直線に歩いた。

 肌に刺さるような北風が心地よく感じてきたと思ったら砂浜が見えてきた。

 多分、夢で見た海と空気の軽さが違っていた。多分季節の違いだな。

 砂浜に出ると、波の音が、一定の間隔で続いている。

 視線を少し先に向けると、動いているものがある。

 キャッチボールをしている親子だった。

 ボールの音が、乾いたリズムで続いている。

 何度かやり取りが続く。

 そのうちの一人が、こちらを見る。

 視線が合う。

 動きが一瞬だけ止まる。

 「飯田?」


ーーー


 父親は、竹内だった。

 「よっ、久しぶり」

 自然に言葉が出ていた。

 「パパぁ、お友だち?」

 子供がこちらを見ている。竹内は一瞬だけ言葉を止める。

 俺と子供の顔を交互に見て、俺は子供に答える。

 「友達だよ。高校の同級生」

 「そうなんだ」

 それだけで納得したように頷く。

 「琉人、パパちょっと話するから、一人で遊べるか?」

 「うん、大丈夫」

 そう言って、少し離れた場所に走っていきボールを高く上げて、自分で取っている。

 その様子を一度だけ見てから、視線を戻す。

 浜辺の、草が少し残っているところに並んで腰を下ろす。

 「卒業以来だな……」

 「そうだな……」

 「今、何やってるの?」

 「トレーダー」

 それだけで、少し沈黙ができる。

 風の音とグローブに球が収まる乾いた音が響いている。3月だけあって風がまだまだ冷たい。

 「おい」

 「なんだ?」

 「俺には聞いてこないのか?」

 手を地面に伸ばして枯れ草を握って、そのまま竹内の肩にかける。

 「興味ないからな」

 肩に着いた草を手で振り払いながら、竹内が吹き出す。

 「相変わらず天邪鬼だな」

 「まあ……」

 少しだけ視線を海へと伸ばす。水平線が浮かんでいる。止まっていると相変わらず風が肌寒い。

 「ていうかさ、同じクラスの篠田祐実って覚えてるか?」

 「篠田……ああ、覚えてる。メガネかけてた子だろ?」

 「そうそう」

 ちらっと竹内の方をみると、何やら浮かない顔で俺の方を見ていたが目があった所で視線を逸らした。

 「その子がさ、今、入院してて」

 「そうなんだ……」

 「で、お見舞いに行ってやってくれないかな?」

 「え、俺が? なんで?」

 「罪滅ぼし」

 「なんの?」

 一度だけ頭を掻きむしって、子供をじーっと見つめた。

 「とにかく、行ってやることは出来ないか?」

 竹内は顎に手をあてて少しだけ考えているよう。

 「出来るとは思うけど……」

 「いつ空いてる?」

 「おい、急だな」

 「ああ、急いでる」

 「そうか……」

 二人とも口を開かない。ボールがミットに入る甲高い音が響いている。竹内の子供を二人でただ見つめている。

 「明日、この時間なら大丈夫」

 「それは都合がいい」

 そのまま連絡先を交換する。

 短いやり取りで終わる。

 「なあ、勤……あの時は、本当に悪かった」

 「なんとも思ってねーよ」

 少しだけ間を置く。

 「でも、気にはしろ」

 「お前は本当に……」

 言い切らないまま、言葉が途切れる。

 「じゃあ、明日な」

 立ち上がる。

 近くに来ていた子供の頭を軽く撫でる。

 そのまま、振り返らずに歩き出す。

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