第十章 残る
朝、起きると、台所の方から音がしていた。
鍋に何かをかけている音と、食器が触れる小さな音が混ざっている。
そのまま顔を洗って、食卓に座る。
「いつまでいるの?」
振り返りもせずに言われる。
少し遅れて、箸を持つ。
「そのうち帰るよ」
「仕事はいいの?」
「まあ、こっちでも出来るし」
それで会話は終わる。
帰ってこいと、前はよく言われていた気がする。帰ってきたら帰ってきたで邪魔者扱いされる。
食事を終えて、部屋に戻る。
とりあえず、仕事のデイトレをやる。マルチモニタが無いと何かと不便なのは確か。
このまま帰ってもいい気がした。
それでも、どこかで引っかかっているものがある。
形にはなっていないが、はっきりと残っている。
『竹内』という名前だった。
昔のことを思い出そうとしているわけではない。
それでも、その名前だけが浮かんでくる。
ただ、何か気持ち悪かった。北村は俺に竹内の事は話して来ない。
俺と同様疎遠だと思って、聞いてみようか悩んだがやめてみた。
いくら考えてもいい手が浮かばない、『竹内』の事は、しょうがないのかもと思うようになっていた。
午後のデイトレが開始された。とりあえず集中する。
そして、仕事終わると、ぼんやりと篠田さんの事を思い浮かべてた…見舞い…行こうか…行くまいか…と悩んでいたら夜になっていた。




