スマート外壁
魁輝は、ナノマシン【ビルド・オーダー】を駆使し、イミナ族の集落を「環境共生型都市」へと一新させます。AIユニットのテクイリスが毒舌で管理する中、彼は単なる防壁ではなく、周囲の景観に溶け込み、衝撃や熱を吸収・変換する多機能な**「スマート外壁」**を一瞬で構築しました。
初めて見る「清潔で安全な住居」に、ヒロインのハイティナや村人たちは神を見るような目で心酔。一方、衛星からこの光景を監視していた地球連邦のエリート層は、連邦の最新技術を凌駕する魁輝の建築スピードと知見に戦慄します。占い師ミューレトが星の運命が変わる予感に震える中、魁輝はさらなるインフラ整備(上下水道)に着手するのでした。
「マスター、また無駄に装飾を増やしましたね。機能性と美観の黄金比を無視するのは、論理的とは言えません」
宙に浮く球体ドローンから、冷徹な秘書を思わせる女性のホログラムが小言を吐き出す。魁輝は、作業服の袖で額の汗を拭った。
鼻を突くのは、再構成されたばかりの分子が放つ、わずかに金属質な、それでいて新緑に近い清涼な香り。指先には、ナノマシンが物質を組み替える際に生じる、微かな熱が残っている。
「テクイリス、街づくりには『遊び』が必要なんだ。心理的な安らぎがなければ、それはただの収容所に過ぎない」
十九八センチの巨躯を折り曲げ、魁輝は足元の土を検分した。単なる土ではない。ナノマシン【ビルド・オーダー】によって、原子レベルで結合を強化された、超硬質セラミックの土台だ。
「あ、ああ……神様、これは夢なのでしょうか……」
背後に控えていたハイティナが、震える声で呟く。彼女の背にある半透明の羽が、興奮で細かく振動し、鱗粉が朝日に反射して虹色の尾を引いた。
彼女の視線の先には、昨日まで泥を固めただけの歪な小屋が並んでいたはずの場所に、白磁のような輝きを放つ「家」が整然と並んでいる。
風が吹けば、家の表面を覆う特殊な皮膜が、さらさらと木の葉のような音を立てる。それは、大気中の水分を吸収し、浄化して屋内へと供給する、生命の鼓動を宿した建築物だった。
「ハイティナ、これはまだ始まりだ。君たちが怯えずに眠れる場所。それを実現するのが、僕の今の仕事だから」
魁輝の脳内には、すでに村全体の俯瞰図が完璧な三次元モデルとして描かれている。各住居の動線、風の流れ、そして緊急時の避難経路。
「さて、本題に入ろう。この村を狙う原生生物、そいつらを優雅に追い払うための『皮膜』を張る」
魁輝が右手を大地にかざすと、地面から銀色の粒子が噴き出した。それは意思を持つ流体のように、村の境界線をなぞりながら、高く、薄く、それでいて堅牢に立ち上がっていく。
「スマート外壁の展開を開始します。マスター、エネルギー消費が閾値を超えます。無茶な出力はやめてくださいね」
テクイリスが呆れたように警告する。だが、魁輝の瞳には、かつて自衛隊で培った冷静な計算と、都市計画への情熱が混ざり合った、鋭い光が宿っていた。
外壁は、ただの壁ではなかった。それは周囲の森の風景を反射し、迷彩のように溶け込む「環境共生型」の防壁。
指先で壁に触れると、ひんやりとした冷たさの後に、生き物の肌のような弾力が返ってくる。この壁は、衝突の衝撃を分散し、熱をエネルギーに変えて蓄える。
「見よ、この曲線の美しさを。自然界に直線は存在しない。だからこそ、この壁も森の輪郭に合わせるべきなんだ」
学者のような口調で、彼は自らの作品を称える。それは自己満足ではなく、この過酷な惑星における、最適解としての形だった。
一瞬にして築かれたその巨大な盾を前に、村人たちは跪いた。彼らにとって、それはもはや建築ではなく、奇跡そのもの。
その頃、遥か上空。静止軌道上に浮かぶ地球連邦の観測船では、モニターを見つめるエリートたちが絶句していた。
「ありえない……。未開の惑星に、なぜ最新の都市設計思想が反映された構造物が出現するんだ」
「報告によれば、生存者は元自衛官の一名のみ。しかし、この建築スピードは、連邦の最新鋭工作艦すら凌駕している……!」
彼らが誇る「文明」の常識が、一人のオタク気質を持った男の手によって、音を立てて崩れ去っていく。
嘲笑は消え、代わりに底知れぬ恐怖と、抑えきれない好奇心が彼らの顔を歪ませた。その様子は、高性能な通信システムを通じて、テクイリスのログにしっかりと刻まれる。
一方、村の広場では、占い師のミューレトが不思議な模様のカードを並べていた。彼女の冷徹な瞳が、忙しく動き回る魁輝を射抜く。
「……星が、動いている。この男が置く石一つひとつが、惑星の運命を書き換えているわ」
めくられたカードには、雷に打たれる塔ではなく、光り輝く新しい「太陽」が描かれていた。彼女は静かにカードを閉じると、魁輝の背中を見つめた。
「法と論理。それを掲げて、あなたはどこまでこの世界を塗り替えるつもり?」
魁輝は答えない。ただ、次のインフラ整備のために、新しい設計図を空中に投影するだけだ。
「さあ、次は上下水道だ。清潔な水こそ、文明の基本だからね。テクイリス、設計の最適化を頼む」
「了解しました、仕事中毒のマスター。不眠不休のスケジュールを組みましょうか?」
毒舌の相棒と、驚嘆する住人たち。未開の惑星に、今、理性的で美しい「家」という名の革命が、根を張り始めた。




