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『異世界に転生したら、未開の惑星に放り出されるも――ナノマシンで自分好みの最強都市を作り上げる』  作者: サクラーヒママリン


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5/6

村は欠陥住宅

 イミナ族の集落を訪れた**魁輝カイキ**は、その劣悪な住環境に驚愕します。構造計算を無視し、衛生概念も欠如した「欠陥住宅」の群れを前に、建築と合理性を愛する彼のオタク気質が爆発。あまりの非論理的な造りに怒りを露わにします。

 魁輝はナノマシン**【ビルド・オーダー】**を起動し、瞬時に既存の建物を解体・再構成。耐震・耐風性能を備え、温熱環境を完璧に制御した「最適化住居」を建設しました。

初めて味わう「文明の快適さ」にハイティナが涙して感動する一方、その超技術を監視していた地球連邦のエリート層は、常識外の光景に戦慄します。占い師ミューレトは、魁輝がもたらす星の変革を予感し、物語は村全体のインフラ整備へと動き出します。


 風が、ひび割れた大地をなでる。乾いた砂の匂いが鼻腔を突き、ざらついた感触が皮膚にまとわりつく。空を見上げれば、光子液を蓄えた雲が淡い燐光を放っているが、地上には救いなど微塵もない。

「マスター、脈拍が上昇しています。また、その不快感を隠しきれていない表情……。眉間のシワが、通常の三倍に達していますよ」

 浮遊する球体ドローン、テクイリスが冷徹な電子音で告げた。彼女が投影する秘書のホログラムは、透き通るような肌に不敵な笑みを浮かべている。

「黙っていろ、テクイリス。俺は今、論理的に腹を立てているんだ」

 魁輝は、十九八センチの巨躯を折り曲げるようにして、目の前の「村」を見据えた。ハイティナの案内で辿り着いたイミナ族の集落は、お世辞にも居住空間とは呼べない代物だった。


 そこに広がっていたのは、廃材と泥を塗り固めただけの、歪なシェルターの群れである。まるで、子供が投げ出した積み木のようだ。構造の必然性も、素材の調和も、そこには存在しない。

「ここが、私たちの安らぎの場所です……。少し、古くなってしまいましたが」

 ハイティナが、背中の半透明な羽を弱々しく震わせながら言った。彼女の瞳には、慎ましい誇りが宿っている。しかし、魁輝の目には、それは死の待合室にしか映らなかった。

 魁輝は一歩踏み出し、最も大きな建物の柱に触れた。指先から伝わるのは、湿った腐朽菌の鼓動と、内部を蝕む虫の這う振動。五感が、瞬時に建物の「悲鳴」を拾い上げる。

「安らぎ? 冗談はやめてくれ。これは住居ではない。ただの、重力に逆らえないゴミの集積だ」

 吐き捨てるような言葉。彼が強調したかったのは、そのあまりの非効率さであった。


「いいか、ハイティナ。建築とは、命を守るためのロジックだ。この建物は、構造計算が根本から破綻している。耐風診断の結果は、論ずるまでもなく赤点だ」

 魁輝の脳内では、大学で学んだ知識と自衛隊で培った実務経験が、凄まじい速度で火花を散らしている。彼は虚空に指を走らせた。

「重心が極端に偏っている。この地域の最大風速を計算に入れたのか? 基礎の根入れも浅すぎる。重力嵐が来れば、この村は文字通り、空の藻屑となるだろう」

 専門用語を並べ立てる魁輝を、ハイティナは困惑の表情で見つめる。知識が欠如している彼女にとって、彼の怒りは神の雷のようであった。

「それに、この動線の悪さは何だ。排泄場所と調理場が近すぎる。衛生学的な配慮が皆無だ。これでは、外敵に襲われる前に疫病で全滅するぞ」

「マスター、血圧がさらに上昇しています。効率的なダメ出しは、相手の理解度に合わせて行うべきだと、教育学で学びませんでしたか?」


 テクイリスの毒舌を無視し、魁輝は右手を掲げた。掌の中で、微細なナノマシン【ビルド・オーダー】が、銀色の霧となって渦を巻く。それは、破壊と創造の象徴であった。

「ハイティナ、下がっていろ。俺のポリシーに反するんだ。こんな、論理の欠片もない欠陥住宅を放置しておくことは。教育的指導が必要だな」

 銀色の霧が、建物の隙間へと吸い込まれていく。原子レベルでの解体。腐った木材は分解され、不要な不純物が選別される。その光景は、恐ろしくも美しい。

「あ、ああ……! 私たちの家が……!」

 膝をつくハイティナ。だが、その絶望は一瞬で驚愕へと塗り替えられる。地面から、光子液を吸収したナノマシンが、結晶のような輝きを放ちながら隆起した。


 そこに出現したのは、流線型のシェルターであった。惑星の過酷な環境を計算し尽くした、空力特性に優れるフォルム。素材は、現地の鉱石を再構成した超硬質セラミックだ。

「換気、採光、断熱。すべてを最適化した。内部には、重力制御を用いた免震システムも組み込んである。これが、最低限の『文化』というものだ」

 魁輝は、完成したばかりの建物の壁を軽く叩いた。金属質の冷たい感触が、彼の合理性を証明している。感情ではなく、計算が作り出した美しさがそこにはあった。

「……暖かい。家の外はあんなに冷たいのに、中は、春の陽だまりのようです」

 恐る恐る中へ入ったハイティナが、感嘆の声を漏らす。彼女の肌を撫でる空気は、完璧に調温・調湿されていた。それは、彼女たちが数千年の歴史の中で一度も味わったことのない、「技術」という名の温もりだった。


 その様子は、数万キロ上空、地球連邦の監視衛星を通じて、リアルタイムで配信されていた。

「ありえない……。あの未開の地で、あんな短時間に恒久的な建築物を構築したというのか?」

 モニターを見つめるエリート局員たちが、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕している。彼らが誇る最新の3Dプリンター建築ですら、数日はかかる作業だ。

「この男、一体何者だ。ただの遭難者ではない……。これは、惑星開発の前提を根底から覆す、異常事態だぞ」

 彼らの嘲笑は、すでに消え去っていた。画面越しに伝わる魁輝の冷徹なまでの「正解」に、彼らは得体の知れない恐怖を感じ始めていた。


 一方、村の広場では、一人の女性がタロットのようなカードを並べていた。ミューレトである。彼女は、新しく建った「異形にして完璧な家」を静かに見つめた。

 めくられたカードは、落雷によって崩れる塔。しかし、その下には、黄金色に輝く新たな礎が描かれている。

「破壊の後に来るのは、再生ではなく、変革……。彼の手が触れるたび、この星の運命が、書き換えられていく」

 彼女の瞳に、魁輝の姿が映る。それは、救世主か、それとも調和を乱す侵略者か。まだ、カードはその答えを示していない。

「さて、ハイティナ。次は、この村全体のインフラだ。このままでは、効率が悪すぎて見ていられないからな」

 魁輝は、さらなる設計図を脳内に描く。彼の情熱は、止まるところを知らない。


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