表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に転生したら、未開の惑星に放り出されるも――ナノマシンで自分好みの最強都市を作り上げる』  作者: サクラーヒママリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

森の奥から聞こえる悲鳴 羽を持つ少女

墜落から生存した十八条魁輝は、探索中に原生生物に襲われていたイミナ族の少女ハイティナを救出します。

魁輝はナノマシン【ビルド・オーダー】を駆使し、単なる壁ではなく、外敵には恐怖を与え、内部には心理的安寧をもたらす**「威嚇と癒やしの防衛外構」**を瞬時に建設。初めて拠点の防衛設備を稼働させました。

未知の技術を目の当たりにしたハイティナは魁輝を救世主のように仰ぎ、その様子は監視していた地球連邦のエリートたちを驚愕させます。一方、謎の占い師ミューレトは、魁輝がもたらす変革の予兆を静かに感じ取るのでした。


翡翠ひすい色の雲海が、眼下でゆったりと波打っている。  高度三千メートル。薄い空気が肺を突き、星の鼓動を伝えるかのように浮遊島が微かに震えた。十八条魁輝は、新設したばかりの「絶景露天風呂」の縁に立ち、指先を空に遊ばせる。その視線の先では、銀色の粒子が陽光を弾き、物理法則をあざ笑うかのように舞っていた。

「マスター。風呂上がりの余韻に浸るのも結構ですが、周囲の生体反応が騒がしいですよ。あなたの趣味に付き合って、この惑星の原生生物が静かにお茶を飲んでくれるとでも?」

 虚空から投影されたホログラム、テクイリスが冷徹な声を放つ。彼女の瞳はサファイアのような輝きを放ち、その唇は常に、魁輝の楽観を切り刻むための鋭利な言葉を蓄えていた。

「わかっているさ。群像としての動きだ。個別の捕食行動じゃない」

 魁輝は短く答える。彼の脳内には、ナノマシン【ビルド・オーダー】から送られてくる多角的な情報が、論理の糸となって編み上げられていた。知識は経験を、経験は知恵を呼び、彼はこの短期間で異世界のことわりをその身に刻みつつあった。

 その時だ。湿った風に乗って、鋭い悲鳴が鼓膜を刺した。  それは金属が擦れるような音ではなく、生命が根源的に抱く恐怖の結晶。

「北北東、距離四百。未確認の生命体と、知性を持つ個体の接触を確認」

 テクイリスの報告が終わる前に、魁輝は駆け出していた。自衛官時代に培った筋肉が、重力を切り裂いて加速する。


 原生林の奥。そこには、悪夢を形にしたような光景があった。  巨大な多脚甲殻類――「鎌鼬かまいたちの蜘蛛」とでも呼ぶべき怪物が、一人の少女を追い詰めている。少女の背には、震える半透明の羽。ハイティナは、枯れ葉の堆積たいせきに足を取られ、死の影に怯えていた。

「助けて……!」

 かすかな声が、大気に溶ける。怪物の鋭利な鎌が、彼女の華奢な肩を両断せんと振り上げられた。

「【ビルド・オーダー】、限定解除。第一種防衛術式、展開」

 魁輝の宣言。  彼の手のひらから放出された銀の霧が、瞬時に物理的な実体を結ぶ。  少女と怪物の間に割り込んだのは、優美な曲線を描く防壁ではない。それは、徹底して「恐怖」を植え付けるために設計された、威嚇の外構。  黒鉄のスパイクが地面から噴出し、怪物の足を貫く。同時に、眩いばかりの光が周囲を焼き、網膜を灼く。

「……ぎゃああああ!」

 怪物は、理解不能な光と熱に、本能的な恐怖を覚えたのだろう。千切れた足を引きずり、森の闇へと消えていった。

「怪我はないか」

 魁輝が手を差し伸べる。  ハイティナは見上げた。自分を救ったのは、神か、あるいはそれ以上の存在か。巨躯きょくを持つ男の背後で、夕刻の光を反射する銀の粒子が、まるで翼のように見えた。


 拠点の端。崖の上に築かれた簡易的な防衛ラインに、魁輝はハイティナを連れ帰った。  彼女の瞳には、言葉にできない困惑が浮かんでいる。そこにあるのは、見たこともない、だが不思議と心を落ち着かせる光の洪水だった。

「これは……灯り、なのですか?」

「ああ。心理的な安寧あんねいを得るためのライティングだ。暖色系の光は、自律神経を整える」

 魁輝は淡々と語る。彼が構築したのは、単なる柵ではない。  外側には、原生生物の嫌う周波数を放つ尖った防壁。  内側には、温かみのある光で満たされた、安息の空間。  法と倫理、そして心理学を土台にした「都市」の雛形ひながた

「あ、ありがとう……ございます……」

 ハイティナの言葉が、たどたどしく、しかし確実に魁輝の胸に届く。その瞬間、魁輝の思考に変化が生じた。単なる「生存」のための計算式に、彼女という「隣人」への配慮が加わったのだ。

 遠く、別の浮遊島からその様子を覗く影があった。  ミューレトは、手元の古びたカードをめくる。  現れたのは『塔』と『星』。

「崩壊と、希望の混濁。あの男が持ち込むのは、祝福か、それとも破滅か」

 彼女の呟きは、風にさらわれて消える。  一方、遥か彼方の地球連邦開発局では、モニターを見つめるエリートたちが色めき立っていた。

「馬鹿な……。あんな絶望的な環境で、なぜ『照明計画』などという贅沢なことをしている!」

 その驚愕きょうがくを余所に、魁輝はハイティナのために温かい飲み物を用意していた。  ナノマシンによって一瞬で生成された磁器のカップから、湯気が立ち上る。

「さて、次はインフラの拡充だ。テクイリス、資材の計算を」

「お安い御用です。あなたの無謀な都市計画に、最後まで付き合って差し上げますよ。マスター」

 夜のとばりが下りる。  未開の惑星に、人類が築く最初の「知恵の灯」が、静かに、しかし力強く灯り始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ