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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第2幕 ファンタジー力向上生活のススメ
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第9話 頼るべきはエセ霊媒師

 エレベーターから、夕日の差し込むマンションの玄関ホールへと降りた夕実は、リュックサックのサイドポケットからスマホを取り出した。

 シャインアプリを開き、友達一覧の中から目的の名前を探し出すと、通話ボタンをタップした。

 テンティントンテントン♪︎ と軽快なリズムが流れること10数秒。目的の相手との通話が繋がった。


『もしもし?』

「あ、もしもし? 駒場先輩ですか? うち、尾栗ですけど」

『ああ、うん。どうしたの?』


 駒場の声は明らかに寝起きのそれだった。


「あの、駒場先輩、今日はバイト休みですよね? 今日、暇ですか?」

『うーん、暇だねぇ。残念だけど。尾栗さんも休みだよね? シフト代わってとかじゃないよね?』

「はい、違います。あの、もし良かったら今から会えませんか? ちょっと相談したい事がありまして」

『え? まぁ、いいけど』

「やった! じゃあ、ガオンのムーンダックスで待ち合わせでいいですか? どのくらいで来られます?」

『うーんと、30分くらいかな』

「分かりました! じゃあ、先に行って待ってますね!」


 通話を切ると、夕実はチャリに跨り爆速でガオンへと向かうのだった。



 ―――



 駒場がムンダに現れたのは、通話からきっかり30分後の事だった。

 春休みの夕方時とあって、ガオン館内は親子連れをメインに混み合っており、夕実は何とか確保していたテーブル席から駒場に手を振った。


「珍しいね、尾栗さんが相談なんて。もしかして、昨日言ってた女の人の事?」

「え、よく分かりましたね、駒場さん。もしかしてエセ霊能者ですか?」

「いや、普通に考えれば分かるでしょ。君が僕を誘うなんて、そのくらいしか思い浮かばないし」


 とりあえずで注文したブラックコーヒーのショートサイズに口を付けながら、駒場はゆっくりと席に着いた。


「え? 駒場さん、なんかいつもと違う」

「え? そんな事ないよ。普段通りだよ」


 普段はくたびれたスウェットに着古したデニムという出で立ちが多い駒場が、今日に限っては、Tシャツの上に清潔そうなシャンブレーシャツを羽織り、デニムも新しそうな物を履いていた。


「早速なんですけど、駒場さん。ここら辺で心霊スポット知りませんか? 出来れば地縛霊がいそうな所がいいんですけど」


 その質問に、駒場はコーヒーを飲む手を止め、口を半開きにして呆けていた。


「え、何? その具体的な質問。どういう事?」

「まぁ詳しくは言わないんですけど、知ってますか?」

「何その、言わないって。逆に凄い不信感なんだけど」

「こっちにも色々あるんですよ。で、知ってますか? 知りませんか?」


 有無を言わさず畳み掛ける夕実の態度に、駒場が気分を害したのは言うまでもなかった。


「僕、帰ろうかな」

「分かりました。わざわざ来て貰ってありがとうございます」

「ちょっとちょっと! 本当に帰す人がいる!? 少しは引き留めようよ!」


 駒場は、夕実にいいように振り回されていた。


「全くしょうがないな、尾栗さんは。地縛霊のいそうな心霊スポットだよね? それならいくつか心当たりあるけど」

「流石! いよっ! 自称霊媒師! その肩書きがエセじゃないところを是非ともうちに披露して下さい!」

「君、絶対にモテないよね」

「あ、それセクハラですから」

「君の方こそモラハラだよ!」


 紙のコーヒーカップを握り潰しそうになるのを堪えつつ、駒場は全力で平静を保とうと必死だった。


「それで、どこなんですか? それって」

「ええと、近所がいいんだよね? なら、1番近い所だと、隣町の中学校だよ。戦時中の防空壕跡地に建てられてるらしいから、壕内で焼死した人達の霊が出るらしいよ」

「ふむふむ」


 話を聴きながら、夕実はスマホでその学校を検索し始めた。


「確かに近い。でも、ちょっと切っ掛けが悲劇的ですね。あまり好ましくないかもなぁ。他には何があります?」

「え、ちょっと言ってる意味が分からないんだけど。悲劇的って、地縛霊って基本的に悲劇に見舞われた人がなるんだよ?」

「あ、それ多分、誤解です。てかとりあえず今はそういうのいいんで、他を教えて下さい」


 あまりに横柄な夕実の態度だが、これは今に始まった事ではない。駒場はため息をつきつつも、更に記憶を辿り始めた。


「悲劇的じゃないやつって……何かあったかな。と言うか例えばどんなシチュエーションがいいんだよ?」

「そうですね。例えば、殺人鬼が射殺されて、その場所に地縛霊として居着くようになったとか」

「日本じゃまず有り得ないよね? 射殺とか」

「いや、被害者家族にとか、有り得ませんか?」

「確かに。でもそんな凶悪事件は記憶に無いよ」

「じゃあ例えば、ストーカー男がフラれた腹いせに自殺して、地縛霊になったとか」

「君の発想はどうなってるんだよ? どうやったらそんなシチュエーションを思い付くんだ……って、いや、あるな。その手の事件があった戸建があった気がする」


 コーヒーカップを置いた駒場は、代わりにスマホを取り出して検索を始めた。


「確か10年くらい前だったかな。ストーカー男が被害者女性宅に侵入して、その女性の部屋で首吊り自殺したって事件があったような」

「マジですか! 10年前ですね。まだ記事が残ってるかな? これか!」


 凄まじく素早い指さばきでスマホを操作する夕実が、瞬発力高めに該当記事を探し当てたようだった。


「ふむふむ……え、これ、めっちゃ近くじゃない? 先輩、詳しい住所分かります?」

「いや、詳しくは」

「分かりました! ちょっとお待ちを!」


 夕実は更に瞬発力高めにどこかに電話をかけ始めた。


「あ、父? あの、ちょっとお伺いしたいんだけど、10年前にストーカー自殺事件あった住所分かる? あ、今メモるからちょっと待ってね。うん、うん。おっけ! ありがと! あ、うち、少し遅くなるけど、バイト終わりくらいの時間には帰るから。はーい、分かったー」


 通話を終えると、夕実は駒場に向かってメモを見せつけるようにかざした。


「ここ! チャリなら10分で着くから! んじゃ先輩、行きましょう!」

「え? 僕も行く流れどっから来た? てか尾栗さん、お父さんの事、父って呼んでるんだ」


 という訳で、ふたりはチャリに乗って該当の事故物件へと向かう事になったのだった。



 ―――



「え、ここ?」


 その住所には、戸建ての家などは無く、あるのはロードサイド型の牛丼チェーン店だった。


「うん、ここだね。事件後すぐにストーカー被害に遭った女性の家族は引越して、何年か空き家だったみたいだけど、その後に取り壊されて牛丼屋になったみたいだね」


 スマホをいじりながら解説した駒場を、夕実は驚愕したように2度見した。


「え? 先輩、なんでそんな事知ってるんですか?」

「あ、いや、事件絡みの掲示板があって、そこを見てるだけ」

「あ、そうですか。うち、てっきりマジで霊能者なのかと思った」

「しつこいね、そのイジり」

「はぁ。でも、家が無くなってるんじゃ、もう地縛霊が居着く場所も無いですよね。がっかりだなぁ」


 完全に駒場の返しを無視してため息をつく夕実だったが、ふと、何かの視線を感じ、視線を上げた。


「えっと、ストーカーが自殺した被害者の部屋って、何階ですか?」

「ん? 2階らしいよ」

「なるほど」


 夕実が見上げたのは、牛丼屋の看板だった。

 その先端から、首を吊った男の体がぶら下がって揺れていたのだ。

 夕実の事をギョロリとした目玉で見下ろしながら。

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