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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第9幕 予期せぬ決戦
69/70

第69話 大団円……

「え……?」


 唖然としていたのは、それを見守っていた路上の薫子だった。

 目の前で、迅華はたったの一撃で巨大な鬼を葬った。

 まさかそれ程までに簡単に行われるなどは、傍観者の薫子は予想だにしていなかった。


「まさか……嘘でしょう? あの鬼の力はわたしが1番よく知っている。あれは、わたしの知る限り、この世に数多いる怪異の類の中でもほぼ頂点に近い存在のはずよ。それを、あんな容易く?」

「え!? あの鬼、そんなに強い奴だったんですか!?」


 薫子の告白に夕実が驚きを持って反応した。


「ええ。あれはかの有名な【大枝山の朱天童子】だもの。あなた達が聞いた話し通り、安芸家の霊能力はあれによってもたらされていたけど、逆にあれによって縛られていたのも確か。平安の時代からずっと、安芸家はあれの思い通りに動かされていたのよ」

 

 枯れた声で話す薫子に、駒場が答えた。


「だとしたら、迅華さんが勝ったのは、やはり必然ですね」

「え?」

「迅華さんは、ファンタジー力という力を糧に活動しています」

「な、なによ急に。ファンタジー力?」


 駒場の口から発された突拍子もない設定に、薫子は勿論、呆れ半分で返した。

 が、駒場は至って真面目な表情で語り始めた。


「ええ。霊力とはまた別の、迅華さんにしか知覚出来ない力だそうでして、それは、ファンタジーっぽい場所、現代では心霊スポットがそれに当たるようなんですが、力の強いスポットであればある程に高まるらしいんです。つまり……」


 長年、霊媒師の仕事を行ってきた薫子だからこそ、その触りの説明だけで全容が理解出来たようだった。


「相手が強い霊であればある程、彼女が得られる力も強くなると、そういう事?」

「はい、正しくその通りです。相手の力に比例して迅華さんの力は上がる。そしてその力に、迅華さんが持つ勇者としての本来の力が上乗せされる。しかもここは迅華さんが最も効率良くファンタジー力を得る為に用意した幽霊マンション。ファンタジー力の精製量は他所の比じゃないでしょうから」

「なによ、それ。そんなの、理論上は無敵じゃないの」


 薫子は呆れた様子で髪をかき上げると、軽くため息をついた。


「あっ! 迅華、出て来た!」


 夕実が指差した先にはやはり優雅に歩む迅華の姿。だが少しだけ様子が違うのは、彼女が開いたガラスドアから出て来たという事。もう既に、彼女の隔絶界域は解除されている事を意味していた。


「お待たせしました。いやー、手強い相手でしたよ。手強くて、助かりました」


 いつも通りにヘラついた、しかも矛盾に溢れた一言ではあるが、それが逆に彼女の特性を示していると、薫子を納得させる一言でもあった。


「……感服したわ、鎌渡迅華」


 目の前で立ち止まった迅華に、薫子はゆっくりと右手を差し出した。


「そして、礼を言います。わたし達、安芸を、解放してくれて、ありがとう」

「いいんですよ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎し。それが私のモットーですんでね」

「本当に凄い人ね、あなたは。勇者だって言うのも、あながち嘘ってわけじゃないのね。ただね……そのことわざ、用法が間違ってるわよ。それを言うなら、悪を憎んで人を憎まず、とかじゃないかしら」

「え? そーなんですか? あっはっは。坊主憎けりゃ袈裟まで憎しは薫子さんの事でしたかね」

「……あなた、キャラにそぐわず嫌味とか言う人だったのね」


 頬を引き攣らせる薫子に、迅華は膝を叩いて爆笑するのだった。

 ひとしきり笑った後、迅華は突如として真顔に戻ると上空を指差した。


「んじゃ、ちょっと部屋に戻りますか。この件の仕上げに、やらなきゃならない事が残ってますんで」


 

 ―――



 4人が連れ立って703号室に戻ると、迅華によってお茶が振る舞われた。お茶と言っても、ペットボトルの《怨意!お茶》をグラスに注いだだけのものだったが。


「んで、やらなきゃならない事って何なの?」


 グラスに口を付けながら、夕実が迅華に問い掛けた。


「はい、結論から言いますと、チヨさんの蘇生です。蘇生と言っても生き返らせるとかそういうのじゃないですよ? チヨさんを消滅前の元の霊体に戻すって事です」

「チヨちゃんを!?」


 迅華の言葉に真っ先に反応したのはやはり駒場だった。


「そんな事が、本当に出来るんですか!?」


 テーブルの上に体を乗り出し、迅華に詰め寄るような勢いで、駒場は声を上げた。


「近いですね。いつに無く取り乱してますし。ちょっと離れて下さいよ」

「す、すみません」

「まぁ、気持ちは分かりますけどね。と言うか、気持ちが分かってるからこそのこの提案なんですけど」


 引っかかった駒場の唾を拭いつつ、迅華が軽く首肯した。


「そ、それで、どうやって蘇生させるんですか?」

「それは簡単です。薫子さんがチヨさんを私に喰わせた事が功を奏しました。私の中に、まだチヨさんは残ってるんですよ」

「「え!?」」


 バツが悪そうに微妙な表情を浮かべる薫子を他所に、駒場と夕実はまたしても驚きながら身を乗り出した。


「なので、そこからチヨさんを元の状態に戻します。生者で言えば衰弱した状態になりますので、栄養さえ与えてやれば健康体に戻る。そういったイメージですね」

「え、でも、普通の霊は霊力の回復は出来ないんじゃないっけ?」


 迅華の解説に疑問を挟んだのは夕実だった。


「そうそう、そうですね。ですが、それは自力で、という事なんですよ。他者が霊力を注入してやれば、話しは別なんです」

「そうなんだ! じゃあ問題無いんだね!」


 無事に納得したようで、夕実はニコニコしながら腰を落ち着けた。


「じゃ、じゃあ、迅華さんがチヨちゃんに力を注入して下さるって事ですか?」


 迅華と夕実のやり取りを清聴していた駒場が、確認するように問い掛けた。


「その通りです。チヨさんは大怪異ですからね。ちょっと大きな力が必要になりますが、まぁ問題無いでしょう」


 迅華のはっきりとした返答に、駒場は心の底から安堵したようであった。


「それでは、行きます」


 そう言うと、迅華は目を閉じた。

 彼女の全身を、黄金の光が覆った。

 そして次の瞬間には、駒場の肩にはチヨの姿が現れていたのだった。


「チヨちゃん!」

「チヨ!」


 ふたりに声を掛けられ、チヨは驚いたように目を丸くしていた。


「駒場兄様? と、その側仕え?」


 キョトンとするチヨは、信じられないといった様子でふたりを見つめていた。


「ちょっと! 側仕えじゃないって言ってるでしょ!」

「ああ、良かった、チヨちゃん」

「チヨは、どうしたのですか? 確か、迅華様に力を託したはずですが……」

「そうだよ。でもね、その迅華さんが、君を復活させてくれたんだよ。良かったね、本当に良かったよ」

「そうなのですね。迅華様が……」


 まだ実感が湧かないのか、チヨはしきりに周囲を見回していた。


「迅華さん、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」


 そう言って駒場が迅華へと振り返った。


「……迅華様は、いずこへ?」


 しきりにチヨが探していたのは、迅華なのだと、そこで初めて気が付いた。


「「え?」」


 つい今まで一緒に座っていたはずの迅華の姿は、何処にも見当たらなかった。

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