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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第7幕 金谷市へ
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第49話 チヨ

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」


 駒場とタケルは同時に絶叫するのであった。


「「ぁぁぁぁ! って、なるか!!」」


 絶叫したのではあったが、すぐに叫び終えると瞬発力高くツッコんだ。


「なんだ尻子玉(しりこだま)抜きって! それ河童がやるやつだろ! 知ってるぞ!」

「いや本当だよ。流石にそれじゃあ驚かないよ」

『ひぇっ……』


 自分の脅しが通用しなかったからか、単純に大人の男性に窘められたからかは分からないが、チヨは萎縮した様子で肩をすくめてしまった。


「ダメだぞ、大人をからかったら。お前、そうやって相手を怖がらせるのが好きな遊びなのか? そういうのは良くない。良くないぞ」

『だって、チヨ、チヨ、魂を抜く遊びの名前を知らないんだもん』


 タケルに注意されたチヨはもじもじしながらそう言い放った。

 どうやら、魂を抜く事が出来るの自体は本当らしく、駒場は内心でゾッとしたが、悟られないよう努めた。


「チヨちゃん。僕達は、君に危害を加えるつもりがあって来たわけじゃないんだ。このタケルの霊力が枯渇してしまって、補充の為に立ち寄っただけなんだよ。驚かせてしまったり迷惑を掛けてしまったのなら謝るけど、敵意は無いんだ。だから、魂抜き遊びは止めてくれると嬉しいな」

『でも、チヨ、遊びたいんだもん』

「うん、遊ぶのは一緒に遊ぶよ? だけど、魂抜き遊び以外の事をして遊ぼう。君はいつの時代の子なのかな? 君がやっていた遊びなら、喜んで付き合うから」

『チヨ、分からない。でも、お人形さん遊びとか、鞠つきで遊んでた』

「そっかそっか。ならそれで遊ぼうか。お人形さんや鞠は無いけど、ボールくらいならどこかにあるはずだから、取ってくるよ。ここで待ってる? それとも一緒に来る?」


 この申し出が、チヨの表情を一変させた。

 普通ならば、嘘を言って逃げるような場面である。ここであえて帯同を申し出た事が、チヨに衝撃を与えたのは間違い無かった。


『チヨも……一緒に行っていいの?』

「え? 勿論じゃないか。このトイレじゃ狭いし、少し広い所に出た方がいいと思うしね。体育館は……流石に閉まってるか。少し教室を見て回ろう。ボールくらいは教室にもしまってあるかもしれないから」

「それか、休み時間用に遊び道具をしまってある部屋があるかもしれないぞ」

「ああ、確かに。とにかく皆で探してみよう」


 駒場とタケルが話し合っていると、突如として背後から嗚咽が聴こえてきた。

 驚いて振り返ると、そこには、チヨが切れ長の瞳からいっぱいの涙を流してしゃくり上げていたのだ。


「「ええっ!?」」


 ふたりは思わず驚愕した。


「どどど、どうした!? 俺達、何か嫌な事言ったか!?」

「チヨちゃん、どうしたんだい? 急に泣いたりして」


 慌てふためくふたりが、チヨの前に膝を突いて問い掛けると、チヨは涙を拭いながら答えた。


『ううん。チヨ、チヨ、分からないけど、何だかとってもここがグワッとして、そしたら、そしたらね、泣いちゃったの』


 チヨが指差したのは、自分の胸元だった。


「グワッとして?」


 その一言で駒場にはチヨの気持ちが伝わっていた。


「そっか。そうなのか」

『チヨ、初めてなの。一緒に遊びに行こうって言ってもらったの。皆、チヨを見ると泣いて逃げちゃうの。チヨ、チヨ、嬉しかったの』

「そっか。そうだよね」


 無理もない。

 ここに来る者は誰もがただ単に心霊現象を実体験しに来るだけの、興味本位でしかない。

 トイレの花子さんが気持ちを持っているなどと、誰も思いはしない。むしろそれが普通だ。

 きっと、チヨもまた、そんな事の繰り返しで、ここに来る者は異物と見なすようになり、尻子玉遊びなどを始めるようになったのだろう。

 よくあるすれ違いと言えばそれまでなのだが、チヨにそれを伝えるのは酷と言うものだ。


「さぁ、行こうか。ボールを探して、皆で鞠つき遊びをしよう」

「うん!」


 ゆっくりと伸ばされた駒場の手を、チヨは、しっかりと握り締めるのだった。


「あっ! コラ、貴様!!」


 3人がトイレを後にしたその時だった。

 先程気絶させてしまった男性が懐中電灯を片手に3階まで登ってきており、駒場に向かって怒鳴り声を上げた。


「まずい!」


 駒場は踵を返すと、男性のいるのとは逆方向へと走り出した。


「待てーっ!」


 男性の足は思いの外に速く、駒場との差を一気に詰めてくる。何とか階段まで辿り着いたものの、振り返ると既にすぐ側まで迫っているのが見えた。

 しかも、駒場が階段を小走りで降りるのとは対照的に、男性は三段飛ばしで駆け降りてくる。

 恐らくは1階に降りきる前に捕まってしまうだろう。駒場が半ば覚悟を決めた時だった。


「ぎゃぁぁぁぁ!!!」


 背後から、またしても男性の悲鳴が木霊してきた。

 驚いて踊り場で立ち止まって向き直ると、泡を吹いて仰向けに倒れた男性の腹の上に、タケルとチヨが漂っているのが見えた。


「え!? また脅かしたのか!?」

「いや、俺だけじゃないぞ! チヨとふたりでやったんだ!」

「ふたりでやったら余計ダメだろ!」

兄様(あにさま)を怖がらせる悪い人を、チヨが懲らしめたの」

「え、ああ、そうか。それはありがとう」

「うん!」


 思わず礼を述べた駒場に、チヨは満面の笑みを浮かべて頷くのだった。


「とりあえず、これ以上校内にいるのは危険だから、逃げなくちゃ。警察でも呼ばれたら大変だし」

「そうだな。チヨ、鞠つきはまた後でやろうな。まずは駒場を安全な所まで避難させよう」

「兄様は駒場様と仰るのですね? チヨ、駒場様をお守りするの」

「わ、分かった。ありがとう」


 そうして、タケルとチヨを連れた駒場は急いで校舎から逃げ出すと、再びフェンスを乗り越えて小学校を後にするのだった。



 ―――



 翌朝、ホテルをチェックアウトし、駅ビル内のムーンダックスでタブレットにスクショした簗田旧宅の見取り図を確認しようとしていた時の事だった。


「良かった。きちんとスクショ出来ていたみたいですね」


 無事にデータが保存されている事を確認した駒場が安堵したと同時に、迅華が声を上げた。


「いや、それよりもですよ? 確かに昨晩、寝てしまった事は悪いと思ってるんですけど、だからって、何なんですか? その子は」


 その子とは勿論、駒場の膝の上に座る着物の少女、チヨの事だった。


「いやぁ、面目ないです。昨晩、小学校から連れて来てしまって。トイレの花子さんで、チヨちゃんといいます」

「トイレの花子さんってねぇ……駒場さん。その子、とんでもないですよ」

「はぁ? と、言いますと?」

「日本には刑部姫とか亀姫とか、いわゆる城化け物って伝承がありますよね? その子は金谷の土地の城化け物なんですよ。しかもその城化け物に、更にトイレの花子さんの伝承が掛け合わされたハイブリッド状態。ただでさえ強い伝承に、日本有数の伝承が上乗せされた、言ってみたら大怪異です」

「あ、やっぱりそうなんですね?」

「あんまり驚いてませんね」

「まぁ……強い妖怪だっていうのはタケルから聞いてましたし」


 その返答に、迅華は深くため息をついた。


「いいんですけどね、分かってるなら。ちなみにその子、既に駒場さんと強制的に式神契約してるみたいですので、ちゃんと面倒見てあげて下さいね」

「チヨ、兄様の面倒をちゃんと見るの!」


 駒場の膝の上で、チヨは元気いっぱいに手を挙げて答えるのであった。

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