第46話 金谷市へ
勇駅から在来線で岩野駅まで。そこから北陸新幹線に乗り換えて金谷駅。約4時間弱の長旅を終え、駒場は遂に北陸の地に降り立った。
「んでですね、そのイケメンフォワードのショーヤ君がですね、言うんですよ。「おれがいればお前は最強だ!」って。もうね、痺れますよね。カッコいいです。はい」
長旅の間、退屈ではなかった。
むしろあまりにも目まぐるしく語られ続けていたので、心休まる暇も無い程だった。
それもこれもずっと、イケメンがサッカーをする《シュウキュウ!》の名シーンについて熱弁されていたからだ。
タケルの顔をした迅華に。
「いやもういいですから、もう新幹線降りましたから。今から簗田家探すんで、少し静かにしてて下さい」
「ええー? もう着いてるんですかぁ?」
「さっき言いましたよね? 着きましたって」
「そぉでしたっけ? そんでですね、ショーヤ君が……」
「いやだから! 暇ですか!?」
人通りの多い金谷駅のど真ん中で突如として大声を発した駒場に、行き交う人達が振り返った。
しかも最悪な事に目の前には2人組の大学生っぽい年頃の女子が横切っているところだった。
「は? ナンパ?」
「暇じゃねーし! バーカ!」
「てかその顔であーしらをナンパするとか、身の程を知れっ!」
「バーカ!」
「……すいません」
図らずともナンパめいた文句を発してしまった事も手伝って、駒場は、無惨にもフラれてしまうのであった。
「もう止めて下さいよね、ほんと。こっちは独り言みたいなもんなんですから」
「あっはっは! 駒場さん、モテないですね」
「当たり前でしょ! いきなり声掛けてまともに対応されるわけないですから!」
気まずい空気の中で独り言を続ける駒場の様子が、通行人達にはハンズフリー通話でも行っているように映ったのだろう。2人組が去ったすぐ後に、周囲も何事も無かったように平常運転に戻っていった。
駒場はワイヤレスイヤホンなど着けてはいないのだが。
「まったく、いきなり嫌な気分にさせないで下さいよね。これからようやく目的地探しなんですから」
「別に私のせいじゃないですけどねぇ。後、私は暇ですよ。今、家でシュウキュウ!の漫画を読んでます」
「訊いてませんから、そんな事」
プリプリと怒りつつ、駒場は金谷駅を出ると、バス停へと向かうのだった。
「んで、どこに行くんですか?」
「とりあえずはこっちの郷土資料館で簗田家を探そうと思ってます。北前船で財を成した豪商なんてそう多くはないでしょうから、すぐに見付かると思います」
「そぉですか。早く見付かるといいですね。ちなみに今のタケルさんの霊力残量値は半分くらいですので、もし今晩泊まりになるなら、やっぱり心霊スポットに行かないとなりませんね」
「それ、迅華さんがタケルを無駄遣いしてるからですよね?」
「無駄じゃありませんよ。シュウキュウ!の啓蒙活動ですから」
「無駄じゃないですか。僕はシュウキュウ!はもう見てますから。それなりに好きですから」
「おいマジか。なんでそれを早く言わないかなぁ? んで、真九郎は誰が推しなんよ?」
「いきなり馴れ馴れしいですね。あ、バスが来たのでもう話しませんからね」
そう言ってから返答を避けるように黙り込んだ駒場だったが、一方の迅華はバスに乗ってる間中、延々と啓蒙活動という名のヲタトークを続けるのだった。
―――
金谷市の郷土資料館は、県立の博物館内に併設されている、非常に立派な施設であった。
日曜日の昼とあって館内は観光客で混み合ってはいたが、それは主に博物館の方だけで、郷土資料館はそれなり空いていて落ち着いて調べ物が出来る環境だった。
流石に県で管理されているだけあって蔵書量は勇市の資料館よりも桁違いに多かったが、その分検索システムもしっかりしており、目的の資料はすんなりと見付ける事が出来た。
「なるほど、簗田左衛門。金谷を代表する江戸時代後期の商人で、米の売買で富を築き、最盛期には千石積みの持ち船を10槽以上、総所有船舶100槽を誇った豪商のようですね。この辺りだと、銭八と呼ばれた銭形八兵衛が最も有名ですけど、その銭八に次ぐような規模の商いをしていた人みたいです」
「ふぅーん」
「全然興味無い反応ですね。ええと、銭八なら、旧宅が公開されていますし、隣に記念館なんかも建っているみたいですけど、この簗田左衛門に関してはそういった保存はされてないって事ですね」
「ふぅーん」
「簗田家の旧宅は金谷市の市街地から少し外れた辺りに位置しており、今は跡地にオフィスビルが建っているみたいです。そのビルの前には一応は石碑があるので、場所は特定されているようですね」
「おっけ。ビルですね? んじゃ、駒場さん。今夜行く心霊スポットの検索をしておいて下さい」
「え?」
駒場の説明に対するものとは到底思えない迅華の返しに、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「んだから、タケルさんの充電ポイントを見繕っておいて下さいって言ってるんですよ」
「待って下さい。何かをすっ飛ばして話してますよね? その間に挟まる何かを教えてくれませんか?」
「あ、そこですか。そりゃ勿論、ビルの敷地に霊媒を仕掛けて、過去の建物の記憶を引き出すんですよ。規模感が大きいので、ほぼ確実にタケルさんの霊力は使い果たされますんで、充電ポイントをって話しです」
「敷地に霊媒を仕掛ける!? いや、いよいよもってチートなアプローチですね。この期に及んでもう驚きませんけど、迅華さん、出来ない事なんてあるんですか?」
「はい、お金を稼ぐ事は出来ませんね」
「いやそれは知ってますけどね!」
人が少ないのを良い事に多少声を大にしてツッコミを入れたものの、それでも迅華の発想は凄まじいし、何よりも頼りになる。
駒場はそのままスマホをいじると、今夜の宿と共に向かうべき心霊スポットの検索に取り組むのだった。




