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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第7幕 金谷市へ
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第44話 駒場源二を追え

「それではここで1度、状況を整理してみましょう」


 迅華は駒場にイチョウの幹に背を預けるよう促した後、夕実にも腰を下ろすように伝えた。


「今、私達の前には色々な事象が乱立し過ぎて、確実に混乱しています。しっかりと整理をして、冷静に取り組んでいきましょう」

「はい」

「うん」


 未だに茫然自失なふたりだが、何とか首肯するだけの理性は保っていたようだった。


「宜しい。ではまず、私達の目的は何でしょうか?」

「それは、アパートの霊の除霊です」

「はい、そうですね。あくまで最終目的はそこです。そこだけは見誤らないよう注意しないとなりません。正安さんや源二さんの登場は、言ってしまえばその除霊を成し遂げる為の手段を模索するに当たってのパーツに過ぎないのです。手段が目的にすり変わってはいけません。宜しいですか?」

「はい」

「うん」


 迅華の語り掛けは、非常に優しく、ふたりを包み込むようなものであった。


「とは言え、その手段があなた方に与える衝撃は大き過ぎました。なので、完全に割り切って先に進むわけにもいきません。なので、しっかりと噛み砕き、ひとつひとつを乗り越えていきましょう」

「はい」

「うん」

「まず、女性の霊は何者なのか? ここが原点です。手記を信じるならば、正安さんが北陸地方の除霊で連れ帰ったものである可能性が高いです」


 迅華は再度、イチョウの木に向き直った。


「イチョウさん。蘆場邸に、離れの建物はありましたか? 座敷牢として使われていたようなものです」

『離れ? いや、そんなものは存在しなかったな。あったのは、物置小屋だけだ。そこに人の気配は無かったように記憶している』

「そうでしたか。では、やはり女性の霊は、他所から連れて来たものと見ていいでしょう。続いて正安さんが取り憑かれていたかどうかの件ですが、イチョウさんから見て、そのように感じましたか?」

『そうだな。ある時から、彼は急におかしくなり始めた。北陸かは知らぬが、どこかに出掛けた後から、異変が生じ始めたのは確かだ』

「ではその点も推測が正しいのでしょう。件の女性の霊に取り憑かれた事により、蘆場正安さんは正気を失った。最後に、源二さんが正安さんを射殺した事に関してです。推測では、源二さんは除霊をしようとして、結果として殺害した。この線が最も妥当です」


 ここまで迅華とイチョウのみが会話を交わしていたが、そこに駒場が口を開いた。


「では何故、高祖父は関わりを隠したのでしょうか? もし除霊なら、それは正しい事をしたと僕は捉えます。ですが隠した。何か後ろめたさがあったからじゃないんでしょうか?」

「駒場さん。偏った見方は良くないとお伝えしましたよね? もし除霊をしようとして殺害した場合、その事実が霊能者以外にどれだけ通用するのかを考える必要があるでしょう。例えば警察や近隣住民から見れば、殺人以外の何物でもありません。ならば、やはりそれは隠すべき真実ではないですか?」

「……それは、そうですが。でも、もし本当に正しい事をしたのであれば、隠すのは、おかしいと思います」

「どうしても裏を疑ってしまうのですね? 後ろめたさが無いのであれば、しっかりと公表すべきと。ですがやはり、それは死者を出さなかった場合。つまり、私のように正当な除霊が行われた場合だと思いますよ。前にも言いましたが、この世界の人間には、除霊などという大それた行為は、そもそも出来ないのです。なのでこの件も、正安さんを殺害するという不完全な方法しか取れなかった。だからこそ現に、あのアパートに地縛霊は残り続けているのです。ですが仕方の無い事です。源二さんの出来うる精一杯が、きっと殺害という方法だったのですから。さもすれば、この殺害は、蘆場正安さんからの依頼だという可能性すらあると思います」

「依頼? 自身の凶行に恐怖して、嘆いた蘆場正安が、自身を殺して欲しいと、その場にやって来た高祖父に依頼したと、そういう事ですか?」

「ええ。もしかしたらですが、駒場源二さんは、霊能者では無かった。この可能性の場合、その線の方が納得が行くと思いませんか?」

「それは……確かに」

「霊能者でもない人間が、除霊と称して殺人を犯した。それが依頼殺人であれど、一般社会では殺人罪は免れません。源二さんは正しい事をしたからこそ、隠すしかなかった。隠しても後ろめたさがなかった。私はその方が自然だと思いますよ」

「……そうですね」


 力無く同意した駒場の反応に、迅華は軽くため息をついてから言った。


「どうしても納得がいかないのならば、やはり真実を探求するしかないですね。駒場源二さんについて調べてみましょう。彼の真実が分かれば、あなたも納得出来ますよね? そしてその過程において、恐らく蘆場正安さんがどんな依頼を受けて霊に取り憑かれたのかも判明する事でしょう。しっかりと目的を持って、再度、向き合いましょう。この件に」

「……はい!」


 迅華の正論は、ただの正論ではなく、駒場を救う為の正論である。痛い程に伝わってくる、彼女の優しさ。

 駒場は今、本当の強さというものを理解させられたような気がしているのだった。



 ―――



「ん? 駒場源二について調べたいって? ならそれこそ、納屋に日記なんかがたっくさん眠ってるぞ。好きに調べたらええ」


 戻ってきた3人に、駒場祖父が言った言葉がこれだった。

 灯台もと暗しとは正にこの事である。

 源二の生家だからこそ、彼の手記は無数に保管されていておかしくはないのだった。


「いやー、名前が無い事にすっかり騙されてましたねぇ。確かにこの辺の日記やら何やら、全部同じ筆跡でしたね」


 爆笑しつつ、迅華が駒場の背中をバンバンと叩いていた。


「本当ですよ。名前が無いってだけでこんなに目眩しになるなんて、思いもよらなかったですから」

「確かに迅華の言ってた通り、偏った見方をしちゃダメだったね」


 ふたりもつられて半笑いを浮かべながら、保管された日記を読み漁っていった。


「それにしても、勇市にも空襲があったって言ってましたけど、よくこの蔵書は残りましたね」

「ええ、確かに空襲はあったらしいですが、やはり市街地の方だけだったみたいです。この辺は当時は田舎でしたので、直接爆弾が落とされる事はなかったみたいですよ」

「そぉなんですねぇ。私も元の世界では魔王軍と戦争してましたけど、あいつらはどこもかしこも襲って来てましたからね。こちらの世界では、人間はある程度の倫理観を持って戦争してたんですね」

「太平洋戦争は完全に日本の一人相撲だったらしいですから」

「てか、迅華、異世界では戦争してたの?」

「え? はい。勇者って言っても、職業軍人みたいなもんで、戦うのが仕事でしたからね」

「え、そーなんだ。ねぇ、昔の話ってしてくれたりする?」


 夕実の好奇心爆発の問い掛けに、


「まぁ、そのうちですかね」


 迅華は笑って答えるだけだった。

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