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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第6幕 幽霊マンション爆誕
38/66

第38話 這いずる霊

 ズリ……ズリズリ……ズリ……


 階段を下りてすぐに飛び込んできた光景に、夕実と駒場は絶句していた。

 先程まではなんともなかったLDKの広い部屋の床に、擦れた血の跡が散乱していたのだから。

 そしてその血痕を残した張本人もまた、LDKの中をゆっくりとゆっくりと、何かを追い求めるように這いずり回っていた。

 それは、ズタズタに破けた浴衣のような衣服を身に付けた、骸骨のようにやせ細った女性の幽霊だった。


「あわわわ……さっきはいなかったのに」


 迅華の背に隠れながら、夕実がか細い声で呟いた。


「そうですね。私達がずけずけと中まで見て回ってるので、業を煮やして出て来たんでしょうね」


 夕実とは対照的に、迅華はいつも通りにあっけらかんと分析内容を述べていた。


「さて、駒場さん。ここからが除霊のお時間なのですが、やるべき事はお分かりですか?」

「は、はい。まずは対話ですよね?」

「ええ、その通りです。その通りなんですが、今回はそうすんなり行かないと思われます。それは何故だと思いますか?」

「え?」


 思いがけない迅華の問い掛けに、駒場は困惑した様子で振り返った。


「どういう事ですか?」

「それを問うてます。まずはお考え下さい」


 が、迅華はやはり無表情のまま、まるで突き放すように投げ掛けるだけだった。


「ええと……ええと……すみません。分かりません」

「ではヒントを差し上げましょう。彼女は地縛霊です。仮に彼女がこの家で亡くなったという、件の地縛霊だとしましょう。その彼女がここに居る事は、正しい事でしょうか?」

「あ」


 そのヒントで、駒場は何かを閃いたようだった。


「そうか。無理心中で亡くなった女性は、2階の奥の部屋で亡くなったんでした。なら、その部屋に居るべきなんですね?」

「あっ! そういう事! 確か、タケルも牛丼屋の看板で首を吊ってたけど、それはそこがストーキングしてた女の子の部屋だったからだ。本来は亡くなったその場所にいるのが普通って事?」

「その通りです。タケルさんは、土地との結び付きがあまり強くない地縛霊、かつ、彼自身も移動を強く望んでいたからこその、異例な存在でした。ですが、もし件の女性の霊が居た場合、恐らくは強くその土地に縛られている事でしょう」

「と、いう事は?」


 迅華の説明を受けた夕実が、駒場へと視線を移した。


「という事は、彼女は、無理心中した女性では無い可能性ですか?」

「ええ。恐らくはそうでしょうね。霊の容姿は、比較的、死亡時のものを投影したものが多いです。ですが、彼女の場合は……」


 その霊の服装は浴衣のようなものであり、髪は乱れきり、体躯は痩せ細っている。そしてよく見れば、その手足には、枷のようなものが取り付けられているのが見て取れた。


「あれは浴衣ではなく、着物なんだと思います。そして、あの枷。仔細は分かりかねますが、きっと囚われの身にあったのではないかと、私は推測します」

「着物? 囚われの身? それはもしかして、座敷牢的な物ですかね?」


 今度は迅華の分析を聴いた駒場が口を開いた。


「分かりません。ですが、調べる必要はあると思います。もし私の仮説が正しければ、無理心中した家族もまた、この霊の存在に耐えかねての事である。そういう可能性も否定出来ません」

「え!? じゃあ、あの霊が悪の根源!?」


 駒場に代わり、今度は夕実が驚きの声を上げた。


「今はあくまで可能性です。夕実さん、結城瞳さんの件を覚えてらっしゃいますね?」

「う、うん。黒幕の霊が他に居たよね」

「そういった可能性だって否定は出来ません。何にしろ、今は未知数なのです。この場所に彼女ひとりなのか、それとも他にも霊が居るのかすら」


 そこまで語り終えると、迅華は駒場へと視線を移して頷いて見せた。


「そういった可能性を全て考慮し、さぁ駒場さん、あなたならどうしますか?」


 どうやら迅華は本気で駒場を指導する気があるらしい。彼女の仕草からそう悟った駒場は、息を飲んでから口を開いた。


「じゃ、じゃあ、とりあえずあの霊に話しを聴いた方が良いんでしょうか?」

「そうですね……まともに話せるような状態には思えませんが、一度、コンタクトは試みてみましょうか」


 迅華に首肯され、駒場は恐る恐る、這い回る霊に近付いて行った。


「あ、あの……」


 蚊が鳴くような小さな声であったが、それでも、駒場なりに精一杯の勇気の結果だったのだろう。その声は、霊に届いたようだった。


『えあ……ああ……ぐげ……っひぐ……』


 やはり這いつくばったままだったが、女性の霊は、確かに駒場へと視線を向けた。

 その言葉は、言葉としての体を成さないような、ただの呻き声でしかなかった。


「あなたは……どなたですか?」


 怯みはしているが、駒場は更に声を掛け続けた。


『うえあ……あげ……ひぐ……あ』


 しかし返ってきたのは、ただの呻き声だけだった。


「ど、どうしたらいいの? 本当に何も喋れなさそうだけど」


 迅華の腰にしがみついたままの夕実が小声で問い掛けてきた。


「そうですね。彼女自身の霊力はかなり低いようです。それに、ここの地場も大して霊力は高くない。彼女は今、霊として非常に不完全な状態。動物霊などに近いような、知性を保てない状態だと思われます」

「え、じゃあ、やっぱり話しは出来ない?」

「そういう事ですね。話すには、彼女の興味を引くような質問が必要です。例えば、彼女個人が何者なのかをこちらが認知した上で、彼女の名前を呼ぶなどの」


 迅華がそこまで話し終えると、駒場がゆっくりと戻って来た。


「では、この場所について調べる事が先なんですか? ここがどんな場所で、彼女が誰で、どうしてここで亡くなったのかを」

「そう。そういう事です。それが分かったので、私達は一旦、ここを離れます。ここについて分かったら、また戻ってきましょう」


 そう言うと、迅華はさっさと玄関に戻って靴のカバーを外し始めた。

 その後ろ姿を目で追いながら、夕実が駒場に声を掛けた。


「こういうのってさ、もしうちと先輩しかいなかったら、まずは勘違いして話し掛けて色々と苦労した上で、実は別人だって判明するパターンですよね? マンガとかラノベだったら絶対そのパターン」

「ん……確かにそうだね」

「それを先に分かっちゃうって、やっぱり迅華って凄いですよね?」

「ん……そ、そうだね」


 唖然としながらも、夕実の言葉に深く同意する駒場だった。

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