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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第5幕 探偵ごっこ
32/66

第32話 人間よりも怖いもの

 時刻は午後8時。

 タケルに連れられて迅華と駒場がやって来たのは、多舞市内のとある霊園だった。

 かなり大規模な霊園だが、比較的早い時間ながら、園内に人気はまるで無かった。

 それもそのはずで、ここは心霊現象が多く目撃される地元では有名な心霊スポット。日が暮れてからはほとんど人の寄り付かない場所だった。

 

「さて……」


 霊園の中央。少し開けた場所に、休憩用の屋根付きベンチが設置された広場があった。

 屋根の前まで歩みを進めた迅華が、ゆったりとした身のこなしながら、一足飛びで上に飛び乗った。

 その髪は、既に神々しいまでのシルバー色に光り輝いていた。


「この地に住まう全ての浮遊霊、地縛霊諸氏。我が下に集え」


 迅華がそう唱えた直後だった。

 霊園全体を覆う空間が揺らめいたかと思うと、まるで真昼のような黄金の光に包まれた。

 屋根付きベンチの下、迅華に見惚れて呆けていた駒場が正気を取り戻した時には、彼の周囲は、ゆうに千は下らない無数の幽霊達の群れに取り囲まれていたのだった。


「っえ!?」

「しっー……」


 思わず声を上げる駒場に、タケルが指を立てて声を抑えるよう窘めた。

 口を押さえた駒場は、気を取り直してその光景を凝視し始めた。


「我が名は勇者エクレール・サイザー。ここに集いし汝らに、勇者の名をもって下命す。異議のある者があれば、前へ出よ」


 凛とした声でそう宣言した迅華の前に、幽霊の群れの中から巨大な餓者髑髏が体をせり上らせてきた。


「我はこの墓地の主なり。我は貴様などに従うつもりは無い。即刻、この場から立ち去れ」

「墓地の主よ。汝、この私に力を示せ。もし汝が私に屈したならば、大人しく私の命に従え」

「驕り高ぶった輩よ。目にものを見せてくれるわ」


 餓者髑髏が更に巨大に膨れ上がり、夜闇の星を突かん程にその頭を掲げたと同時だった。

 霊園を大きな地震が襲った。

 が、迅華は構うことなく更に高く舞い上がっていた。


「ドゥ・星!」


 その右腕には、一振りの日本刀が握られていた。


「セ・ラヴィ!」


 振り下ろされた日本刀が、巨大な餓者髑髏を一刀両断に切り裂いた。

 真っ二つに裂かれた餓者髑髏の巨体は霧散し、残されたのは、茫然自失状態の強面な軍服姿の男の霊だけだった。


「他に私に挑む者は?」


 群衆に向け、冷徹に問い掛ける迅華。その問いに応える者は、誰ひとりとして現れなかった。


「す、凄い。あんな大きな幽霊を、たったの一撃で。それにあの日本刀は……」

「ああ、あれは星さんが変異した姿だな。迅華さんが本気を出せば、あの餓者髑髏は消滅してただろうから、力を抑える為に星さんを媒介にして刀を具現化したんだと思うよ」

「え? 力を抑える為に?」

「この霊園の霊力はとてつもなく高い。そこにどこでも地縛霊の俺が入った事で、ファンタジー力も呼応してとてつもなく高まった。おまけに今の奴みたいなのも居たしな。確かにあの餓者髑髏は地震なんかの災害を引き起こせる程に強かったけど、強い相手に迅華さんが負ける事はまず無いんだ」

「どういう事だよ?」

「地場、もしくは地縛霊、そのどちらでもいけるみたいだけど、霊力が強ければ強い程、比例してファンタジー力も高まる。そこに更に迅華さん自身の勇者の力が上乗せされるからね。きっとこの法則が働いている場所では、迅華さんは無敵なんだと思うぞ」

「てかお前、いつの間にそんな詳しくなったんだよ」

「伊達に迅華さん専属の充電池はしてないぞ。感覚で伝わってくるんだ。霊だからな」

「……便利だな、霊って」


 タケルの解説に呆れと感心、両方の感想を抱きつつ、それでも駒場は改めて迅華への畏敬の念を抱くのだった。


「さて、異議を唱える者はもういませんね? では皆さんに私からの司令をお伝えします。私は今、人探しをしています。その人の捜索をして来て下さい。該当人物はこちらです」


 迅華が駒場から借り受けたタブレットを掲げると、霊達が一斉に覗き込みに集まってきた。

 画面には藤咲野乃香の顔写真が映し出されていた。


「この方は、2、3日前に黒いアリアードに誘拐されました。それ以外の情報は無いですが、皆さんのお力でその車の向かった先まで突き止めて下さい」


 司令を受けた霊の中のひとり、先程の餓者髑髏化していた軍服姿の霊が迅華に尋ねた。


『勇者閣下。自分達はあまり遠くへ行けないであります。行けば霊力が尽きますが、貴公のお力を拝借して良いという認識で宜しいですか?』

「ええ、そのつもりです。私はここに居る限りは無尽蔵に力を捻出可能です。好きに使って頂いて構いません」

『はっ!』


 背筋を張って敬礼すると、軍服の霊は夜闇へと溶け込むように消えて消えて行った。

 それに倣うよう、他の霊達も次々と消えて行った。


 全ての霊が霊園を後にし、再び静寂が訪れたのも束の間、30分程経ってからひとりの霊が戻って来た。


『黒いアリアードの目撃情報がありました。当日、その女の子を誘拐した車は、白桃線を使って都心方面に向かったようです』


 そしてすぐにまた別の霊が帰還した。


『例のアリアードは白桃線を通り、渋屋に入ったとの事じゃよ』


 そしてまた次の霊、また更に次の霊と、順に報告が行われていった。


「ひょっとして、霊が各地の浮遊霊に聴き込みをしているんですか?」


 その状況をようやく理解した駒場が、屋根の上で悠然と腕組みをする迅華に問い掛けた。


「ええ。どこに行ったかも分からない車を探すには、人海戦術が一番ですからね」


 続々と上がってくる報告を聴きつつも、迅華は器用に駒場へと返答を返していた。


『アリアードが停まったのは、渋屋の雑居ビルです。周辺の浮遊霊が、車から女の子が連れ出されるのを目撃してました』

『女の子は雑居ビルの3階の部屋に連れ込まれたようであります』


 最後の霊が報告を終えると、迅華は大きく息を吸ってから声を上げた。


「皆さん、ご苦労様でした。これにて、私の一時的な支配を解除致します。各々、解散して下さい。ご協力ありがとうございました」


 迅華の宣言がなされた後、霊達は再び一斉に夜闇に消えて行った。

 またしても霊園が静寂に包まれると、迅華は屋根から飛び降りてきた。


「さぁ、駒場さん。目的地が判明しました。渋屋の雑居ビル。電車があるうちに、そこへ向かうとしましょう」

「あ、はい。分かりました」


 今目の前で起こったのは当然事実なのだろうが、それでも、駒場は信じられない気持ちでいっぱいだった。

 やはり恐るべきは、文明の利器よりもファンタジーの力じゃないかと、強く思うのであった。

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