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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第5幕 探偵ごっこ
31/66

第31話 藤咲野乃香

 時刻は午後3時。


「すいませーん。今から多舞まで行くの、母にNG食らっちゃいました」

「まぁ、仕方ないよね。いくら東京でも青梨寄りとは言え、今からだと帰りが遅くなりそうだし」

「すいませーん。明日はどうですか?」

「明日は僕がフルでバイト入ってるから無理だね。明後日は? ふたりとも休みだったと思うけど」

「明後日はうちが法事がありますー」

「ならやっぱり今日しか難しいか。仕方ない。僕と迅華さんだけで行くしかないかな」

「うおぉぉ。めっちゃ悲しいけど仕方ないですよね。すみませんが、宜しくお願いします」


 一応は駅まで見送りは来た夕実と別れ、迅華と駒場は電車で多舞市へと向かった。

 電車に揺られる事、約2時間。

 乗り換えを一度挟み、ふたりは午後5時頃に多舞に到着した。

 例の橋があるのは、駅から徒歩15分くらいの場所だった。

 ふたりはそこを目指しつつ、途中で出会った浮遊霊に藤咲野乃香の画像を見せて聴き込みを行って歩いた。

 そして、彼女の住むアパートはすぐに見付かったのであった。


「ここですね」


 ふたりが見上げていたのは、2階建ての古びた木造アパート。

 

「藤咲の部屋は、2階の角らしいぞ」


 浮遊霊に部屋を訊いたタケルがそう言って該当の部屋を指差したが、その部屋は、聴き込みをしなくてもすぐにそれと分かるような有様だった。

 郵便受けには凄まじい量の督促状がねじ込まれていたし、何よりも、部屋のドアや窓をうめ尽くすように張り紙がされていたのだ。


【金返せ】

【死ね】

【クソビッチ】


 その全てが、そんな内容の、ここの住民を罵倒するものだった。


「部屋の前まで行きたくないですね」

「ですねぇ」


 異様な様相に尻込みする駒場に、迅華も眉根をひそめて同意した。


「タケルさん、星さん、ちょっとおふたりで中を見て来て下さいませんか?」

「はい!!」

「任せろ」


 迅華に指示され、ふたりがアパートの壁をすり抜けて中へと潜り込む。それを見送ると、駒場がため息をついて迅華に話し掛けた。


「SNSではかなり派手な服装で陽気に振る舞ってましたけど、実情はかなり厳しいみたいですね」

「でしょうね。彼女の服や持ち物、それなりに高級品が多かったですからね。恐らく借金はそういった物の購入に充ててたんでしょう」

「ああ、迅華さん、お洒落ですもんね。やっぱり服なんかにも詳しいんですね」

「ええ、趣味ですので。と言っても、私はあんな高級品には手を出せませんけど」


 そんなやり取りを交わしていると、タケルと星が戻って来た。


「中に人は居なかったぞ。と言うか、人が住んでるような雰囲気じゃないな」

「いわゆる汚部屋ってやつですわ。足の踏みどころも無いくらい、部屋中がゴミで埋め尽くされてました」


 ふたりの報告は半ば既定路線とも言える、納得の内容だった。


「それに、ゴミの中にヤバい物も見付けた。その藤咲って女、ドラッグをやってるな」

「は!?」


 これは既定路線から外れていた。

 駒場は思わず大声を上げたが、迅華の方は冷静な口調のままだった。

 

「家の中に、ホストクラブなどの名刺とかはありましたか?」

「ん? そう言えばあったな。大切そうにカードファイルに入ってるやつが開いてあった」

「なら、入れ上げているホストに勧められてという線が濃厚でしょうね。借金は、ホストに貢ぐのとドラッグ代にも必要だったのかもしれません」


 淡々と推測を口にする迅華に、駒場は若干の恐ろしさも感じていた。


「後、更にヤバい情報も入手しまして、こいつを連れてきました」


 タケルに手招きをされて姿を現したのは、壮年男性の浮遊霊だった。


『俺、見たんだよ。2、3日前の深夜に、この家の女の子が車に押し込まれて連れて行かれるのを。めちゃくちゃ殴られれてて、見てて可哀想なくらいだったな』

「え!? 誘拐!?」


 その情報に駒場は仰天したが、迅華は表情を変えずに問い掛けた。


「相手は? 複数ですか? どんな容姿でした?」

『3人組だったと思う。見た目はチンピラだよ。「金が返せないなら稼いで来い」って言ってた気がするから、きっと闇金とかなんだと思うよ』

「そうですか。それで、どんな車でしたか? ナンバーは分かりますか?」

『黒いアリアードだったな。ナンバーは覚えてないよ』

「分かりました。情報ありがとうございます」


 迅華は頷くと、駒場に振り返った。


「探偵ごっこはここまでのようですね。どこに連れて行かれたのかが分からないですので、これ以上の追跡は止めておきましょう」

「え!? 諦めるんですか!?」


 迅華の冷淡な結論に、またしても駒場は仰天した。


「え? まだ続けるんですか?」

「だってこれ、事件ですよ!? 誘拐事件! このまま放っておくわけにはいきませんよ!」

「放っておくも何も、私達に何が出来ますか? 彼女は自己責任の下、こういった結果を招いたんです。それを、見ず知らずの私達が何かしてあげる義理はありません。最低限、警察に通報くらいはした方がいいかもしれませんが」

「で、でも、それじゃあ時間が掛かり過ぎるんじゃ……僕らの方でも探した方が良いと思いますけど」


 不満そうに意義を申し立てる駒場に、迅華はため息をついた。


「時間は掛かっても、恐らくは命に関わるわけではないでしょう。ここまでの情報を総合すると、彼女は闇金の方に体を使った仕事に就かされるだけです。もしそれが上手くいかなければ、保険金などの為に殺害される可能性はありますが、2、3日ではそこまでいかないでしょうから」

「そこまで分かっててどうしてそんなに冷静でいられるんですか!?」


 声を荒らげた駒場の真っ赤な顔を、迅華は真っ直ぐに見つめて言った。


「私達は、何の為に藤咲野乃香さんを探していたのですか?」

「それは! ……それは、彼女に殺人を認めさせて、裁きを受けさせる為です」

「ですよね? 私は思います。既に彼女は、自身の手抜かりによって、それ相応の報いは受けているでしょう。放っておいてもいずれは死を迎えるでしょうし、仮に保護されたとしても、過去の悪事が暴かれる可能性は十分にあります」

「それは……そうですけど、だけど、だからと言って、目の前で危機に陥っている人を助けないのは、僕は間違っていると思います」


 唇を噛み締め、はっきりとそう述べた駒場の顔を目の当たりにし、迅華は、やはりため息をつくのだった。


「そうですか。タケルさん」

「はい!!」


 駒場から視線を切らず、迅華は静かにタケルの名を呼んだ。


「この近隣で最もファンタジー力の高い心霊スポットを探して下さい」

「了解です!」


 迅華の行動に意味があると察知した駒場の表情が、一気に明るくなった。


「迅華さん、協力してくれるんですね?」

「仕方ないですよ。あなたがそこまで言うのですから。それに、夕実さんがここに居たとしても、きっと同じ事を言ったでしょうしね 。まぁ、こんな悲惨な状況なら、連れて来なくて正解でしたけど」


 そう言った迅華の瞳には、怒りが宿っているように思えた。

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