第24話 真九郎コンサルティング、始動
「で、報酬設定なんだけど、これに関しては迅華さんがこれまでやってきた通りの額にしようと思うんだよね」
「え? まさか、2万円? それって安過ぎるから、もっと収入を得る為にこの計画があるんですよね?」
「そうだよ。でも、だからって急に額を上げると、これまで来ていた依頼も来なくなるかもしれないだろ? 迅華さんは除霊の成功率が高いのもそうだけど、料金が格安だから依頼が多かった節は否めないだろうし」
「じゃあ、件数をこなすって事ですか?」
「だから、ちゃんと説明を聴いて欲しいって言ってるだろ? 直接的な除霊の報酬以外の面で、額を増やそうとしてるんだよ」
「あ、続きがあったんですね。ごめんなさい」
「迅華さんは無料で部屋を借りる事を条件に、依頼を引き受けてたんだよね? それは迅華さんの生活スタイルの一環でもあったからむしろ好都合だったけど、今後は定住するわけだから、そこが不要になる。だから、本来は滞在するはずだった期間分の家賃を報酬として頂こうと思うんだ」
「え? なんかうちにとっては意外な提案」
「でしょうよ。そんな感じの茶々入れだったからね。具体的には、その物件の家賃の4分の1、1週間の家賃分を頂こうと思うんだ。家賃4万円なら1万、6万円なら1.5万、10万なら2.5万って具合に。基本報酬2万と、家賃報酬。このスタイルなら、過去に迅華さんと仕事をしてきた企業ならすんなり納得してくれるだろうしね」
「確かに。基本は1週間滞在するのを知ってる相手なら、払って当たり前だと思ってくれますよね」
「だろ? それに加えて、今回起業したコンサル会社に所属した事を伝えて、以降は我社がマネジメントを行なう事も伝える。そうすれば仲介手数料だって請求出来るんだ」
「えー? そんな上手くいきます? 仲介手数料って、なんかいかがわしいんですけど。そんな怪しい事言って警戒されませんか?」
「あのね、むしろ相手が不動産屋さんなら普通に通用するでしょ。仲介手数料なんて、不動産取引では当たり前な、最も聞き慣れた文句なんだから」
「は?」
「いや君の家業の話しでしょうよ。家の事だからって無関心は良くないよ」
「え、なんか、すいません」
「でまぁ、仲介手数料を仮に1万程度に設定したとして、これでおおよその報酬額は5万円前後になる。これを月に4回行えれば、月収は……」
「20万円!」
「ただ諸々の税金は引かれるから、手取りは15万前後になると思うけど、それでもマンションの家賃を支払って残る額は8~10万。今と同じくらいか、もう少し余裕は出来ると思うよ」
ここまでの説明が行われたところで、ようやく当の本人の迅華が口を開いた。
「え? じゃあもしかして《シュウキュウ!》のカードガム、箱買いしてもいいんですか?」
「え? いや、それは迅華さんご本人にお任せしますけど」
「そうだよぉ、迅華? ガムだけじゃなくて、憧れのミニジオラマフィギュアも買えるよぉ?」
「マジですか? あの、ひとつ1000円もする、あの憧れの高級食玩も箱買いしていいんですか?」
「いやそれもお任せしますけど、金銭感覚が完全に子供のそれですよね? お小遣いすぐに使い切って後から後悔する子供のそれですよね?」
提示された増額はたかが知れてるにも関わらず、迅華はまるで大金でも手に入れたかのようなはしゃぎっぷりで、未来の展望に心躍らせているようだった。
「んでんで、それはいつから始められるんですかね?」
初めて見る迅華の前のめりな反応に、夕実も釣られて前のめりで駒場に問い掛けた。
「一応、開業届は事業開始から1ヶ月以内に提出だから、先に仕事を開始してても問題は無い。手続きは僕の方で進めておくから、迅華さんと尾栗さんはもう仕事を探してきて構わないよ。このサイトもさっき作ったばかりで、まだ仕事の依頼とかは見込めないと思うから」
「マジですか!? やった!」
即日のゴーを頂いた夕実は、早速リュックからスマホを取り出した。
「あ、父? うちですけど。もうお仕事始まってる? あ、お忙しいとこ申し訳ありませんね。あの、折り入ってお願いがありまして。父の会社か、知り合いの会社でもいいんだけど、鎌渡さんにお願い出来る仕事って今ありますか? え? ありそう? じゃあ、今から会社行ってもいい? え、OK!? やった! じゃあ今から行くんで、宜しくお願いしますねー」
電話1本で仕事の依頼を取り付けた夕実が、満面の笑みを浮かべて迅華に視線をやった。
迅華もまた、目をキラキラさせて、夕実に微笑み返すのだった。
―――
尾栗家の家業である【尾栗ハウジング】は地域密着型の中小企業で、勇駅前の商店街の一角に小さな事務所を構えていた。
駒場の家からはチャリならば10分程の距離であったが、スーツケースを転がしながら歩く迅華に付き合って徒歩で向かった為、到着は30分程してからの事だった。
「おはようございまーす」
事務所の前にチャリを停め、挨拶をしながら事務所のガラス戸を開けると、ほぼ家族並に交流のある従業員達が出迎えてくれた。
「あら夕実ちゃん、おはよう。専務ならお2階よ」
事前に夕実の来社は伝わっていたらしく、古参パートのおば様が笑顔で階段を指差していた。
「ありがと! 行こ、迅華」
「はーい、お邪魔しまーす」
狭い事務所を突っ切って壁沿いの細い階段を上がると、窓のある廊下に扉が2つ。正面は社長である祖父のオフィスで、右手の扉が専務である父のオフィスだった。
夕実が右手の扉をノックしてから入室すると、デスクに座った吾郎が2人を出迎えてくれた。
「ほぅ、なるほど。鎌渡さん、遂にきちんと起業する気になったんだね」
夕実が手早く今朝の話しを伝えると、吾郎は感心した様子で頷いていた。
「実は私もその方がいいんじゃないかって思ってたんですよ。地に足が着いていた方が色々と便利ですし、何よりも楽でしょう」
「そうなんですよねぇ。私も薄々は勘づいてたんですけどね。夕実さんと駒場さんに手助けしてもらって、ようやく実現出来そうです。感謝です」
「うちの娘がお役に立てているようで何よりですよ。娘も良い勉強になるでしょうし、これからも宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
深々と頭を下げる吾郎に、迅華も同じくお辞儀を返した。
「それにしても、せっかく起業したのに、報酬は今まで通りに2万でいいんですか?」
「あ、父。そこはさっき説明した通りで、成功報酬と、それに加えて家賃報酬って形をお願いしたいのよ。後は一応、真九郎コンサルティングの仲介手数料って形で1万円」
「うん、それは聴いたけど、正直、それでも安過ぎるくらいだと思うんだ」
「え? そうなの?」
吾郎の感想に、夕実は驚いて問い返した。
「そりゃあそうさ。これまでも、私の中では報酬額は10万程度が妥当だと思ってたよ」
「え!? 1回で10万!?」
「勿論、そこに家賃報酬と仲介手数料、それに交通費も負担して構わないと。それくらい、彼女の仕事は信頼がおけるからね」
「マジ!? 迅華、どーする!? 値上げする!?」
鼻息荒く振り返ってくる夕実に、迅華も乗り気そうに目をキラキラとさせていたが、それも一瞬だった。
「うぎっ!?」
急にふくらはぎを抑えて体を屈める迅華の姿に、夕実も吾郎も驚き、急いで駆け寄った。
「だ、大丈夫です……吾郎さん……報酬は2万で」
「ええ!? それどころじゃ」
「2万で!」
「は、はい! 分かりましたけど、それよりも!」
吾郎が承諾した途端に、迅華は苦しみから開放されたらしい。大きく喘ぎながら、ソファにもたれ掛かっていた。
「大丈夫? 病院、行く?」
「いえ、足が攣っただけですので、もう大丈夫です」
どうやら新たな方法でも、欲をかきすぎると制約に抵触するらしい。
迅華は、心中でため息をつくのであった。




