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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第3幕 現代の人斬り
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第21話 星篤典

『もっと早く殺しておけば良かった。あんたの髪の色が変わり始めたから、おかしいと思ったんだ』

「あら、それで一気に詰めてきたんですね。でもそれは結果論ですので、勝ったのは私です。悪しからず」


 床板から引き上げられた霊は力無く廊下の壁にもたれ掛かり、恨めしそうな視線を迅華に向けるだけだった。


「では、落ち着いたところで改めてお伺いしましょう。あなた、お名前は?」

「星……星篤典(ほしあつのり)

「そうですか。星さん。私は鎌渡迅華。この姿では、エクレール・サイザーと名乗っております」

「エクレール? サイザー? 外国人か? 顔は日本人みたいだが」

「まぁそんなようなところです。正確には、異世界転生人ですね」

「異世界転生? そんなマンガみたいな事が起こるのか?」

「あなた方だって十分マンガみたいな存在ですよ」

「……ふっ……確かに、そうだな」


 いよいよ本気で観念したのか、星はだらりと両腕を垂らし、眉間のシワもすっかりと消え失せていた。


「それで星さん。あなたはどこのどちら様で、どうしてここで地縛霊になっていたのでしょう? 私に話して下さいませんか?」

「ん? あんた、オレの名を知らないのか?

「ん? ええ、存じておりませんね。残念ですけど」

「そうか……ならどこから話すべきか。ああ……そうだな。オレは、殺人鬼と呼ばれた人間だ」

「あら、それはそれは。具体的には何をなさったんですか?」

「前科8犯。強盗殺人、放火殺人、それからただの殺人だ。16人を殺した」

「まぁ。それは相当に凶悪な殺人鬼ですね」


 そこまで聴くと、迅華はゆっくりと星の目の前に腰を下ろした。


「オレが怖くないのか? 軽蔑は?」

「そうですねぇ。私の方が強いので、怖くはありません。軽蔑は……話の内容次第でしょうね。だってあなた、地縛霊なのですから。何かしら、理由があるからこそ、未だに消滅せずにここに留まっているのでしょう?」


 迅華の返答に、星は思わず吹き出していた。


「ははっ! オレに理由があるだって? 生前、オレには理由なんか無いって言われてたんだぞ? ただのサイコパスだって。確かにオレをそうさせた切っ掛けは、相手にもあったのだろう。だが、あそこまでやるのはただのサイコパスだ。それが世間の下したオレの評価だよ」

「ふーん、そうなんですか」


 迅華は全く気にする様子も無く、むしろ周囲をキョロキョロと見回して、別の事に気を取られているようだった。


「私のスーツケース知りませんか? 中にお菓子入ってるんですけど」

「そんなの、隔絶界域の外だよ」

「ちぇーっ。まぁいいです。あなたに理由があるのは分かりますよ。地縛霊になるには、土地に引かれないとなり得ませんから。少なくともこの土地にとっては、あなたは大切な人なんです。そんな人が、ただ頭のおかしい殺人鬼だとは、私には思えませんけどね」

「は?」


 その言葉に、星は、涙を零していた。


「何言ってんだ? あんた。頭がどうかしてんのか?」

「それにあなた、私をすぐに殺そうとしなかったのは、私を測っていたからですよね? 殺すべきか見逃すべきか。ただ頭のおかしい殺人鬼ならそんな事しませんから。あなたは基本的に、理性のある方なんでしょう」

「おかしい……おかしいよ、あんた。おかしいよ」


 星は、両手で顔を覆って必死に涙を隠していた。



 ―――



 星篤典の両親は、清く正しい人間だった。

 幼少期、星篤典は、この家で幸せに暮らしていた。

 だがある日、この土地は地上げにあった。

 バブル期の真っ只中。そう珍しい話しでは無かった。

 度重なる苛烈な嫌がらせ。星の両親は必死に抵抗したが、それが仇になって、殺された。

 表向きは事故死とされ、事件化はしなかった。

 それから星は、児童養護施設に入所した。

 その後もありきたりな話しだった。

 星を待っていたのは、凄惨な虐待。彼は心身共に疲弊しながらも、それでも生きた。

 転機が訪れたのは、彼が18歳。高校卒業間近の事だった。

 彼は、施設長と職員2名に、これまで育ててやった養育費を返済するよう迫られた。

 不条理極まりなかった。

 施設には、国からの措置費と自治体からの補助金が支払われており、確かに裕福とは言えないが、それでも運営費は支給されている。彼らの求める見返りとは、ただの私欲でしか無かった。

 星は、ある古物商に盗みに入るよう強要された。

 その時、星の精神は崩壊した。

 古物商に押し入り、そこで日本刀を手にした瞬間、彼の精神は修羅へと堕ちた。

 店主を殺害した。

 その足で施設へと戻ると、施設長と職員2名を殺害し、施設に火を着けた。

 無論、他の児童達は逃がしてから。完全に計画的な犯行であった。

 その後の殺人は惰性だった。

 精神が崩壊した星は、降りかかる火の粉を払うように警察官の命を奪い、虐めを行った旧友をつけ狙って復讐を遂行していった。

 そして最後の復讐を果たした後、生きる意義を失った彼は無差別殺人という凶行に及び、その殺人鬼としての生涯に終止符を打つ事を選んだ。

 死刑執行の直前、彼は、笑みを浮かべていたと言う。


「それで、その古物商で何があったんです?」

「は?」


 星がその一生を語り終えた所で繰り出された迅華の質問に、彼は思わず唖然としてしまった。


「古物商……だと? 何故そんな質問を?」

「え、切っ掛けはそこですよね? 当然そこが気になります。初めての殺しで、秘められたサイコパスが目覚めたとか、そんな単純な話しではないですよね?」

「どうしてそう思う? オレを取り調べた警官も、弁護士も検事も、裁判官も、誰もそんな事を尋ねた奴はいなかったのに」

「確かに、快楽で殺人を犯す者というのもいるんでしょう。ですが、私の元いた世界では、殺人は己の身を守る為や、何かの意志を果たす為のものです。そしてあなたからはその匂いを感じます。なので理由を」

「……あんた、本当に異世界人なんだな」


 古物商は、暴力団のフロント企業のひとつだった。

 資金調達のみでなく、武器などの調達にも使われていた。

 そしてその古物商の店主は暴力団幹部のひとりであり、星一家を苦しめていた地上げ屋本人だったのだ。

 しかし、それだけではなかった。

 そこで知らされた事実は、施設長達が、この暴力団系の別企業から借金をしていたという事。借金を踏み倒す為にこの幹部の殺害を計画し、それを、星に強要しようとした事。

 彼は「見付かったら、必ず殺せ」と施設長にそう言い付けられ、そして実際に見付かった。

 ピンと来た。

 古物商に星の侵入をリークしたのは、施設長だと。

 元々、星に邪魔者を始末させる為に強盗をさせたのだと。


 星の目の前は真っ暗になった。

 この世には、人間はいないのかと。

 この世には、魑魅魍魎しかいないのかと。

 絶望した。

 絶望し、そして、決意した。

 この世が魑魅魍魎の世界なら、自分は修羅になろう。

 修羅となり、誰にも侵されない、強さを振りかざそう。


 犯行を終え、施設に戻った星に、施設長が言った。


「良かったじゃないか。くっだらねぇ両親の仇を討てて。せいぜい俺に感謝する事だな!」


 その一言に、星の強さは許容範囲を超えた。

 星篤典の精神は強過ぎる修羅に蝕まれ、結果、ただの殺人鬼に成り下がったのであった。

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