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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第3幕 現代の人斬り
20/66

第20話 勇者再臨

 時刻は23時30分。


「それでは、僕はこの辺でお暇致します。夜分遅く申し訳ありませんでした」

「うん。今度来る時はもっと早い時間にしなさい。後、くれぐれも娘の年齢への配慮は忘れないように」

「はい、すみませんでした」


 吾郎の背後では夕実が舌を出して手刀を切っていた。

 結局、吾郎からの嫌疑は晴れぬまま、駒場は尾栗家を後にした。

 チャリを押して路上に出た所で、タケルの首吊り体が目の前に降ってきた。


「どうだった?」

「その出て来方やめてくれない? 心臓に悪いから」


 言葉とは裏腹に驚いている様子もなく、駒場は鬱陶しそうにため息をついた。


「で、どうだったんだよ? 何か手掛かりとか、作戦とか、進展はあったのかよ?」

「ああ、一応は仕掛けはして来たよ。後はそれが上手く機能してくれたらなんだけど」

「そっか。やっぱりお前らを頼って正解だったな。俺の目に狂いは無かった!」

「知ってる相手がいないからって言ってたじゃないか」


 再度ため息をついてから、駒場はチャリを漕ぎ出した。


「とにかく、今から件の家に向かうから、君が案内してくれよ」

「え!? お前も来てくれるのか!?」

「なんで嬉しそうなんだよ。当たり前だろ。もし何か起きた時に、現場にいた方が対応し易いじゃないか」

「分かった! じゃあ俺、後ろに乗って案内するからな! 自転車の2人乗りなんて子供の時以来だなぁ! 楽しいなぁ!」

「なんか背筋がゾクゾクする。申し訳ないけど降りてくれ」


 体から力が抜けていくような感覚に見舞われ、駒場は思わずチャリを倒すところであった。



 ―――



 ふたりがまったりとした雰囲気で件の家へと向かい始めた頃、こちらでは既に進退窮まる戦いへと突入していた。

 無限に続く隔絶界域の回廊を逃げ切る事は、今の迅華には体力的に不可能であるが、若干の異変が起き始めていた。

 それを先に察知したのは迅華ではなく、日本刀の霊の方であった。

 だからこそ、彼は一気に勝負に出たのだ。

 それまで嘲笑うように、からかうように迅華を泳がせていたはずの霊が、突如として距離を詰め始めた。

 床、壁、天井。そこかしこからラップ音が響き、螺旋を描くように迅華の精神を追い詰めて来る。

 気配が背後まで迫った瞬間、迅華は、まるで蛙が這いつくばるように、四つん這いに体を落とした。

 彼女の首があったはずのその場所を、鋭い刀身が通り過ぎて行った。


(いきなり首ですか!? 完全に仕留めに来てるし!)


 迅華はそのまま受け身を取るように前転し、また一瞬前まで彼女のいた床に日本刀が突き立てられた。


(これは逃げて体力使うより、真面目に避けた方が正解かも!)


 素早く決断した迅華は勢いそのままに立ち上がり、日本刀の霊と対峙した。

 先程は虚を突かれてクリーンヒットを許したが、彼女はまがりなりにも勇者だった女性である。

 日本刀の霊が、連続して袈裟斬りから横凪を繰り出すも、柳のような体さばきでそれらを華麗に避けていく。

 いかに身体能力が普通の人間並に落ち込んだとしても、その体に染み込んだ体術は、普通の人間のそれを遥かに凌駕しているのだ。


(やっぱり。この霊、確かに霊力は図抜けて高いかもしれないけど、剣術の修練を積んだ者じゃない。避けるだけなら……)


 更に一振り、二振り、迅華は確実にその剣を避けていく。

 が、相手もただ闇雲に剣を振るうだけの者ではなかった。

 相手は、霊であった。

 迅華が逆袈裟を避けようとしたと同時に、何者かに足首を掴まれたのだ。

 見ると、霊の左手首が消失しており、床から飛び出していた。


(あら、バレましたか。そういう反則技を使えば捉えられるって事が)


 迅華は苦笑いを浮かべながら、その場に尻もちをつくのだった。



 ―――



「ここが、その家なんだ」


 とある廃屋の前にチャリを止め、跨ったままの駒場は暗闇に浮かぶシルエットを見上げて呟いた。


「なぁ、その仕掛けた方法は機能してるのか?」

「うん、ちょっと確認してみる。君の方は? 迅華さんの気配とか感じられないのかい?」


 スマホを取り出して、バックグラウンドで待機させていたファンサイトを呼び出しつつ、駒場はタケルに尋ねた。


「いや、感じられないぞ。隔絶界域ってのは、名前通りに外部とは隔絶されてる状態なんだろうから」

「そうか……ええと」


 煌々と光を放つスマホの画面に顔面を照らされながら、駒場は掲示板の書き込みを読んだ。


〈勇市の可能性、高いと思うよ!〉

〈いや有り得ないでしょ〉

〈私も勇市説を信じますね〉

〈同じく、Me too.〉

〈絶対にガセ!〉


「よし! いいぞ、半々くらいだけど、信じる人が出始めている。これで僕の読みが正しければ」


 駒場は強い眼差しを持って、再び廃屋へと視線を戻すのだった。



 ―――



 日本刀が振り下ろされた。

 迅華の頭上から。

 彼女を真っ二つに切り裂かんと。

 振り下ろされた凶刃は、迅華の脳天をまともに捉えた。

 シルバーに染まりきった、勇者エクレール・サイザーの脳天を。


 脳天を捉えたはずが、パキンッ! と乾いた音を立て、日本刀はへし折れた。


「ああ……間に合いましたか。タケルさん」


 迅華は静かに呟きながら、胸元の傷口に指を這わせた。

 傷は、完全に消えていた。


「意外にも優秀でしたね。こんなすぐに結果を出してくれるとは。正直、期待してはいなかったんですけど」


 ゆっくりと立ち上がる迅華の黄金色の瞳が、揺らめいていた。


「残念でしたね、日本刀の霊さん。あなたはとてつもなく強い霊力をお持ちですが……」


 日本刀の霊が、刀身の折れた刀を迅華の腹へと突き刺してきた。

 が、迅華はそれを、素手で握って受け止めた。


「ファンタジー力というのはですね、あなたが強ければ強い程、それに比例して強力になるんですよ」


 受け止めただけでなく、迅華はそれを、更にへし折って見せたのだった。

 あまりにも意外な出来事に霊も驚いたのだろう。目を見開き、歯を剥き出しにして威嚇の意思を示してきた。


「そういうの、あなたには似合いませんよ」


 迅華は霊の顔面を鷲掴みにすると、その後頭部を全力で床へと叩き付けた。

 この空間自体が霊体だからなのだろう。本来、霊体は物理的な物体に干渉はしないはずだ。

 にも関わらず、日本刀の霊は上半身が床板にめり込まされ、圧倒的な迅華の実力を見せ付けられてしまっていた。


「はてさて。では、聞かせて頂きましょうかね。どうしてあなた、ここで地縛霊になっているんですか?」


 黄金の瞳を妖しく揺らめかせ、迅華は日本刀の霊の顔面を床から引き上げるのであった。

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