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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第3幕 現代の人斬り
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第18話 現代の人斬り

 星篤典(ほしあつのり)

 80年代後半から90年代前半に世間を騒がせた殺人鬼の本名である。

 強盗殺人1件、放火殺人1件、殺人7件。その全てが日本刀による斬殺事件であったことから、マスメディアでは【現代の人斬り】と呼ばれた。

 最初の凶行は強盗殺人だった。古物商へ押し入り、商品として保管されていた日本刀を強奪。異変に気づき鉢合わせた店主を、その刀で斬殺した。

 その翌日には、生まれ育った児童養護施設の施設長と職員2名が殺害され、同時に施設が放火された。

 同日未明には、彼を逮捕しようとした警察官が命を奪われた。

 一度は行方をくらました星だが、1ヶ月後、200キロ離れた町で再び凶行に及んだ。被害者は、会社員の男性。星と同じ児童養護施設で同時期に暮らしていた人物だった。

 さらに半年後、100キロ離れた町で、同じく児童養護施設で同期だった主婦の女性とその家族3名が斬殺された。

 その1年後には、星を追っていた警察官が殺害された。

 そしてその2年後、6件目の事件現場から400キロ離れた東京で、同じ施設で同居していた鉄道職員の男性が命を奪われた。

 最後の事件となったのは、同日の午後7時。秋葉原駅周辺の大通りで、死傷者5名の大惨事となった通り魔事件だった。

 この通り魔事件の末に現代の人斬りは逮捕され、死刑が確定。その1年後、死刑は執行された。

 彼の凶行の末、被害者は実に16名に上った。近代で起きた連続殺人事件として最大最悪の犯人。

 その二つ名は、事件から30年以上経った今も、人々の記憶に深く刻まれている。



 ―――



「こ、怖ぇぇぇ……」


 スマホの画面に見入っていた夕実は、顔を上げた瞬間、声を震わせて呟いた。


「ああ、怖いよ。当時、学生だった私もそのニュースはリアルタイムで見ていたけど、事件が起きる度に学校中がその話題で持ちきりになるくらいに、ショッキングな事件だったね」


 吾郎は夕実としっかりと目を合わせながら、深く頷き返した。


「そ、それで、この現代の人斬りが生まれたのが、隣町って事なの?」

「そうらしいんだ。このまとめ記事にも記載があるけど、星は児童養護施設で生まれ育った事になっているだろ? でも実は彼がその施設に入所したのは、小学校低学年の頃だったらしい。彼がそれ以前に住んでいたのが、件の家なんだそうだ」

「マジで!?」

「ああ。施設が放火されたって書いてあるが、その際に記録が焼失したんだろうね」

「じゃ、じゃあ、どうしてそうだったって分かるの?」

「それはまぁ、近隣住民の記憶だよ。ただ、やはり忌むべき記憶だからね。誰も率先して語ろうとはしないから、一般に広まる事もなかった。老舗の管理会社だからこそ何とか情報を仕入れられただけで、きっとこの先はますます薄れゆく記憶だろうね」

「そ、そうなんだ。じゃあ、広まったら、管理会社は困ったりするの?」

「それは勿論だよ。あの家の解体跡地は、付近の土地とまとめて商業ビルを建てる予定があるらしいからね。もしそんな噂が出回れば、場合によっては計画自体が頓挫して大損害が出るだろうね」

「そ、そうなんだ……」


 夕実が吾郎にした質問を聴いて、駒場は内心で狼狽していた。

 彼らのやろうとしている事は、少なからず、誰かしらの迷惑になるのだと、突き付けられたのだから。


「それはそうとして、鎌渡さん絡みの調べ物がその事なら、この物件には地縛霊が取り憑いているって事だね? もしかしてこの、星の霊が居るって事なのかな」


 続いて吾郎から放たれた言葉に、駒場は遂に反応を示してしまった。


「え? 尾栗さんは、霊の存在を信じていらっしゃるんですか?」

「当然だよ。不動産業と事故物件は切っても切れない関係だからね。今更だから隠す必要も無いけど、私は社内ではそういった事故物件の処置を任されているんだよ。だから私も鎌渡さんに除霊を依頼したんだ」

「え……」


 思わず言葉に詰まった駒場の様子を察したらしく、吾郎は苦笑して続けた。


「そうか、君の姓は駒場君だったね。君は、あの駒場家の人なんだ」

「そ、そうです。ですが、うちがそういった仕事を受けたのを聞いた事がなかったです」

「それは申し訳ないね。ただ、鎌渡さんはこちらの界隈では非常に評判の良い霊媒師でね。どういう方法なのかは全く分からないが、彼女の除霊成功率はほぼ100%なんだよ。昔は駒場家や他の陰陽師の家系の方に仕事を依頼していたらしいけど、ここ数年、我社はずっと彼女に仕事を依頼している状況なんだ。実はね、私が初めて出会ったのは東京の不動産屋に務めている時だったんだけど、彼女、その当時と見た目がずっと変わらないんだよ。きっと、本当に特別な力のある人なんだろうな」


 その説明に夕実は愕然としていた。

 父は夕実が知らない所で以前から迅華と面識があり、しかもその異常性にも気付いていた。

 ただ、その口振りから察するに、その詳しい出自や正体については知らないようでもある。

 ここは迅華について言及するのは避け、話題は人斬りのみに絞るべきだと判断し、頷くだけに留めた。


「そ、そうなんだ。と、とにかく、うちら、鎌渡さんの手伝いで、その家に取り憑いてる霊について調べてて。父も星って人の霊だと思うんだ?」

「まぁ、他に思い当たる節も無いしね。ただ、星の霊だとして、どうしてあの家に地縛霊として居るのか? それは謎だね」

「鎌渡さんに聴いたんだけど、地縛霊って、その土地に縛られているらしいんだ。土地が霊を呼ぶんだって」

「へぇ、そうなのか。イメージとは真逆なんだね。霊自身の未練なんかで取り憑くものだとばかり思っていたけど。なら、理由は尚更に不明だね。彼が生家でどんな生活を送っていて、どうして施設に入所したのかが分からない以上は、はっきりした事は何も言えないだろうな」

「そっか」


 吾郎の話が切れたところで、夕実は駒場に目配せをした。

 駒場もそれに気付いたようで、小さく頷いて返した。


「じゃあ、私はこの辺でお風呂を貰おうかな。ふたりにまだ話しがあるなら居てもいいけど、場所はこのリビングだからね?」

「は、はい。分かりました」


 どうやら吾郎も目配せには気が付いていたようで、彼なりの配慮だったのだろう。忠告だけはしたものの、ふたりを残して部屋を後にした。


「はぁ……」


 駒場は深いため息をつくと、おもむろにソファにもたれかかった。


「いや、そんな緊張する事ないですよね? うちら、本当に何も無いんですから」

「そうだけどさ、君が変な男と交友関係があるって思われたら申し訳ないだろ? 気は遣うよ、そりゃ」

「ああ、確かに。うちの両親はそこまで束縛酷くないけど、今後は詮索するって言われたら面倒ですね」

「だろ? 少しは僕の苦労も分かってくれよな」

「えへへ、ありがとうございます」


 一旦取り留めの無い話しをしたのは、勿論、気持ちを落ち着かせる為だった。

 今ふたりが行うべきミッションに、大きな障壁が立ちはだかったからだ。


「それにしても困りましたね。SNSで拡散、まずいんだ」


 落ち込んだような夕実の言葉を受け、駒場は神妙な顔付きで返した。


「いや……まだやりようはあると思うんだ。僕に少しアイディアがある」

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