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転生勇者のファンタジー力向上生活  作者: ロッシ
第3幕 現代の人斬り
17/70

第17話 迅華の手助け

「え!? 今、今日の昼に起きたって言った!?」


 タケルからの状況報告を聴き終えた夕実が、驚愕したように問い掛けた。


「12時頃だとして、もう10時間も経ってるじゃないの! あんた今まで一体どこをほっつき歩いてたの!?」

「10時間もそんな強い悪霊と戦い続けられるとは思えない。もしかして迅華さんは、もう……」

「……!?」


 夕実もその可能性が脳裏に浮かんだからこその怒りだった。

 それを駒場が言葉にした事により、一気に現実を突き付けられた気分になり、夕実は絶句するしかなかった。


「いや、俺はあの空間を抜け出してから、まだ10分くらいしか経ってないぞ? お前らを超特急で探し回ったからな。むしろ急に夜になっててビックリしたくらいなんだ」


 が、タケルはあっけらかんとした返事で応対してきた。


「え!? どういう事!?」


 驚く夕実だったが、ようやく立ち上がって来た駒場が神妙な顔付きで所感を述べた。


「隔絶界域って言ったっけ? もしかしたら、その結界の中と外では時間の進み方が違うのかもしれないね。その辺は霊である君の方が詳しいんじゃないのか?」

「ははっ! バカにするなよ? 駒場。俺はな、隔絶界域なんて言葉はさっき始めて知ったんだ。死んでからずっと、ただ同じ場所で首を吊っていただけの俺が、そんな難しい事を知ってると思うな」


 ギョロリと目を剥き出しにしてドヤるタケルに、夕実も駒場も眉根を寄せて睨み返すしかなかった。


「と、とにかく、時間はまだあるって事ですよね? じゃあ、今すぐにそこに助けに行きましょうよ! 確か隣町だったよね? きっと急げばチャリで30分もあれば着くと思うから!」


 倒れたチャリを起こしながら夕実は息巻いていたが、それを駒場が制止した。


「いやダメだ。尾栗さん、君には門限があるだろ? 行くなら僕ひとりで行く。君を送っては行けなくなるけど、君は家に帰るんだ」

「ええ!? 大丈夫ですよ、門限なんて! うちも行きますって!」


 勿論、夕実は不満を露わにして食って掛かったのだが、そこに横槍が入った。


「いやいや、別にお前らが行っても何の役にも立たないぞ。特に駒場はエセ霊媒師だから、特に役立たずだ」


 横槍の主のタケルの物言いに、それまで冷静だった駒場のボルテージが瞬間的に上昇した。


「お前にエセって言われたくないね!」

「いやいや先輩。事実なんで。って、じゃあどうしてあんたはうちらを探しに来たんよ?」


 そのやり取りで逆に冷静になったらしき夕実がタケルに問い掛けた。


「それは、霊が見える奴なんてお前らしか知らなかったからな。見えない奴よりは役に立つだろうと思って」


 その返答もまた、無軌道極まりないものだった。


「じゃあ行った方がいいじゃないか!」


 やはりいきり立つ駒場だったが、


「違う違う! お前らにやって欲しい事は、もっと別の事なんだ!」


 タケルはそこでようやく言いたい事を思い出したらしく、応戦するように声を荒らげてきた。


「何よ? やって欲しい事って」

「いいか? よく聴けよ? 問題なのは、あそこにファンタジー力が無いって事なんだ。だから迅華さんも本来の力が発揮出来ない。お前らがやる事は、あそこが霊の住処だと世間に認知させて、心霊スポットとして成立させる事なんだ」

「何!? タケルのくせになんて真っ当な事を言うんだ!!」


 その内容に駒場は驚き、夕実も深く頷いていた。


「じゃあ、うちらがそれをやるとして、でも結構時間掛からない? SNSとかで噂を流すにしても、バズらせない事にはそんな一気に広まらないし」

「いや……時間の問題はクリア出来る気がする。タケル、その隔絶界域にいたのってのは、大体どのくらいの時間だったんだ?」

「そうだな……大体、5分くらいだった気がするけど」

「5分か。だとすると、中の1分が外の2時間くらいでタイムラグがありそうだな。なら、例えばもう10時間くらいは僕達が時間を使っても、中では5分しか経たない事になる。10時間あれば、それなりに噂を拡散出来るかもしれない」


 駒場の考察は、一気に希望を呼び込むものだった。


「じゃあ、まだチャンスはあるね! やりましょうよ、先輩!」

「そうだね。ただ、それには色々と準備が必要だ。まずは情報収集をして、出来るだけバズり易いネタを仕入れないと」

「分かりました! じゃあ、駒場さんの家で今から調べましょう!」

「いやいやいや、ダメだよ。JKをこんな夜遅くに家に上げられないよ。逮捕されちゃうだろ」

「じゃあうちの家に!」

「それもダメでしょ。いきなり僕みたいな男が家に押しかけたら、今度はお父さんに怒られちゃうでしょ」

「分かりました!」


 勢い良く返事をした夕実は、即座にリュックからスマホを取り出した。


「あ、もしもし? 父? あのさ、これから帰るんだけど、あ、うん。門限は間に合うから。でね、ひとつお願いがありまして。バイトの先輩の男の人を連れて行ってもいい? え? 彼氏じゃないよ。霊媒師の人。昨日の鎌渡さんの仕事の手伝いをしたくて、その人と少し調べ物をしたいのよ。うん、うん、いい? あ、ちょっと待っててね」


 スマホから顔を離すと、夕実は駒場に声を掛けた。


「父が一緒にいるなら良いって言ってますけど、いいですか?」

「え!? えぇ!? ……あぁ、うん、いいけど」

「あ、父? 大丈夫だって。分かった。じゃあ後10分くらいで帰るから。よろしくねー」


 こうして、3人は夕実の自宅で迅華を援護するミッションに取り掛かる事になったのだった。



 ―――



 夕実の家に辿り着くと、玄関先で待っていたのは、尾栗吾郎だった。


「こんばんは。夕実の父です」


 吾郎は、完全に警戒態勢だった。


「と、突然お邪魔しまして申し訳ありません。尾栗さんとはガオンで一緒にバイトしております、駒場真九郎と申します」

「バイト? 君、歳はいくつだい? 見た感じは成人してるようだけど、定職には就いていないのかい? と言うか、夕実はまだ高校生だけど、君、その辺をきちんと配慮してくれてるのかい?」


 完全に、警戒態勢だった。


「父、違うから。さっきも言ったけど、彼氏じゃないから。うちだって相手を選ぶ権利あるから」


 夕実の一言に吾郎は安堵した様子だったが、駒場はのこのこやって来た事を激しく後悔していた。


 リビングに通されて夕実の母にお茶を振る舞われたが、どっかりと上座に腰を下ろす吾郎を前に、駒場は生きた心地がしなかった。

 結婚を考える世の男性達はこんなプレッシャーと戦っているのかと、駒場は再度後悔していた。


「それで、鎌渡さんの手伝いだったね? 何を調べたいのかな?」


 吾郎の質問に、夕実はスマホの画面に地図を表示させて差し出した。


「この場所にある一軒家なんだけど、ここって何か曰く付きだったりするのかな? って調べてるの」

「ん? ここは……」


 画面上の住所を目にした吾郎の顔色が変わったように見て取れた。


「ここか。ここは……一体どうやってここの事を知ったんだい? そうか、鎌渡さんの次の仕事がここだったか」

「え? やっぱりここって何かあるの?」

「ああ。一般には知られてない場所だ。知ってるのは管理会社の人間のごく一部で、私もその管理会社の社長と懇意にしてるから教えてもらっただけなんだが……」


 吾郎は小さく息を吸うと、声を潜めて言った。


「ここは、ある殺人鬼の生家なんだ」

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