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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ギャルと幽霊

作者: にけ



金髪に染められた長い髪を靡かせて、愛羅は築50年越えの木造アパートの隙間の空いた鉄階段を上っていた。

高校は絶対に都会が良いという愛羅の訴えを、性格が適当な両親は二つ返事でオーケーを出した。

しかし、生活費はバイトで賄うという条件付きでだ。

が、そんな二人の子から生まれた愛羅もまた軽い性格で、即答でオーケーを出した。

全てが適当に片付いてしまう家庭だった。


都会に住むにあたって物件を探さなければならなかったが、いい条件の物はどうしてもバイト代だけでは生活が厳しい。

そして愛羅が手を出したのは事故物件、所謂幽霊が出ると謂れている部屋であった。

家賃は破格の一万円。

即答で愛羅はそこに決めた。


不動産の営業が念押しで本当に大丈夫かを訊くも、愛羅は「大丈夫っしょ」とピースしながら軽く返事を返した。

そうして今、愛羅が目の前にしている204号室が、幽霊が出ると謂われている部屋だ。


不動産屋からもらった鍵を差し込み、ドアノブを回した。

立て付けが悪いのか、きぃっと不快な音が鳴って扉が開く。


玄関を入ってすぐ横がキッチン、そして奥に6畳ほどの畳の部屋があり誰かが立っている。

愛羅は扉を閉め、靴を脱いで迷わず奥へと進む。


照明のない暗がりの部屋の中心に、黒いセーラー服を着た少女が顔を俯むかせて立っている。

前髪で目は隠れ、長い黒髪を三つ編みにして後ろに垂らしている。

愛羅が部屋の前で立ち止まると、彼女はゆっくりと顔だけを愛羅に向けた。

そして、地を這うような声で愛羅に問う。


「どうして……どうしてこの部屋に足を踏み入れてしまったの……? 私は、静かに暮らしていたいだけなのに……」

「あ、ども! 今日からここで一緒に暮らすことになった愛羅ッス。好きに呼んでちょ」


愛羅がすかさず明るく挨拶をすると、恨めしい顔をしていた黒髪の少女が凍りつく。

そんな少女にお構い無しに、愛羅は畳の部屋に足を踏み入れキョロキョロと部屋を見回し、家具の配置を決めだした。

黒髪の少女は呆気にとられていたが、気を取り直し、おずおずと愛羅に声をかけた。


「……あ、あの、ち、ちょっといいですか?」

「ん? どしたの?」

「一応……いえ、私は本物の幽霊なんですが、それはお分かりでしょうか?」

「まあ、足ないしね」


愛羅は視線を下に落とす。

少女の足は足首より下が消えている。

正真正銘の幽霊だ。

愛羅の返答にほっと少女は息をつく。


「お、お分かりのようならよかったです。……な、なら驚いて怖がってくれてもいいんですよ?」

「んー、不動産屋で聞いた時に驚いたから、二番煎じってやつになるけど……それでもおけ?」

「そ、それは少し複雑ですね……」


腕を組んで悩む愛羅に少女は困った顔で言葉を返した。

もしやこれは愛羅が悪いのではなく自分の出方が悪かったのかもしれない。

もっと徐々に存在を知らせるべきだったと少女はそっと反省した。


「で、どうしてここに住んでるわけ? とりま、相談ならのったあげるよ?」


ふいに愛羅の提案に、少女はまさかそんなことを聞かれるとは露とも思っておらず驚く。

話すかどうしようか逡巡してから、少女は躊躇いがちに話し始める。


「当たり前ですが、私はこの世に未練があります」

「未練?」


愛羅が首を傾げると、少女はこくりと頷いた。


「――はい。子供の時から夢見ていた高校生活で、少女漫画のように恋人を作ってみたい。しかし、高校生活が始まる前に私は不慮の事故で亡くなりました。だから、それが私の未練になったのでしょう。未だに胸の中にそれが燻り続けている――」

「じゃあ今フリーだから私が恋人になってあげるべ」


シンと静まりかえる室内。

外からは主婦たちの会話が漏れ聞こえてくる。

どうやら木造の壁は薄いようだ。

愛羅の発言に呆気にとられていた少女が、震える口で小さく「か……」と零す。

愛羅は手を当て耳を傾ける。


「か?」

「軽すぎますー!!」


少女は両拳を握って天井に向かって叫んだ。

高い声が、愛羅の耳をキンと貫いた。

耳を押さえている愛羅に、少女はあわあわしながらしゃべり始める。


「こ、恋人というのはっ! そういう軽い感じではなく、え〜っと、出会いから……そう! 運命的な出会いから始まり、徐々に関係が深まっていって、すれ違いを繰り返して、恋人になっていくものなのですよっ!」


偏った知識を披露する黒髪の少女。

共感を得てもらおうと必死なようだが、愛羅は唸る。


「うーん……そういうの面倒じゃん? とりま、お互いフリーなら試しに付き合うっしょ?」

「つ、付き合いませんよっ! お、お互いのことも何も分からないままですし……」


少女は頬を染めながら、人差し指同士を引っ付けては離してを繰り返してごにょごにょと言葉を濁す。

愛羅は自信満々に胸を張って言い放つ。


「付き合っていくうちに分かればいいじゃん。駄目だったら別れたらいいし」

「そんな軽いお付き合いは認めませんっ!」


間髪入れずににブンブン顔を横に振る少女。

三つ編みも勢いよく揺れている。

身体が透けているのに重い、と愛羅は思ったが幽霊だからこそ重いのかと考えを改めた。


しかし、少女は赤くなった頬を両手で覆いながら「で、でも、生まれて初めて告白されちゃった……!」と口元を緩ませている。

どうやら悪い気はしていないようだ。

しかし、しばらくすると彼女は何かにハッと気づいたように畳に倒れては体を丸めた。


「じ、実は、て、適当なこと言って、私を成仏させる気ですね!? その手には乗りませんよ!? こんな軽い感じで告白なんて、あり得ませんもん!」

「私的にはそんなに軽くないんだけどなぁ……ちなみに浮気したら半殺しにすっべ」

「きゅ、急に重い……」


不穏な発言に黒髪の少女は身を縮めた。

愛羅の瞳が笑っていない。

どうやら本気と書いてマジのようだ。

怯える少女に、愛羅は声を掛ける。


「で、告白したんだから返事、聞かせてもらえる?」


愛羅の言葉に黒髪の少女は慌てて起き上がり、洋服の皺を伸ばして正座して向き合った。

表情を固くしながら、口を開く。


「え、えっと……や、やっぱり知り合って間もない人と、急にお、お付き合いするなんて出来ませんから……お、お友達からでお願いしますっ!」

「はー。そこまで言うなら仕方ないかー」

「そ、それに私を成仏させるためなんじゃないかって、まだ疑ってますからねっ! そ、それを見極めるためにも大事なことなんですっ!」

「はは。疑り深くて草ー。とりま、今日からよろしく頼むわ」


そんなこんなでギャルと幽霊少女との奇妙な同棲生活が始まり、幽霊少女は徐々にギャルに絆されていくのであった。




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