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3話 アークライト学園


 伝統のある校舎で公国の貴族の子息が学び、力をつける場所、()()()()()()()()

 

 心地よい陽の光が差し込む教室、その端に私は座り授業を受けていた。

 内容は星詠術についての専門的な講義だ。

 内容は全て理解できる、というか、既に理解しているものだ。


 だが、私は熱心に授業を聞くふりをした。

 今の私には、学びよりも学んでいると見せかけることが大切なのだ。

 目立ちすぎてもいけないし、怠けすぎても疑われる。

 ただ勤勉ではあるが優秀ではない生徒、その立場を維持しておくことが、隠れ蓑になる。


 ただの優秀ではない生徒ではなく、勤勉ではあるという所が肝だ。

 優秀ではない生徒に構う人間は少ないが、勤勉である生徒に構う人間は少なからず存在する。

 特に、私が今から接触しようとしている人物はそうだろう。 


 講義が終わり、私は星詠術の講義をしてくれていた教授の元へ向かった。


「教授、さっきの授業で分からないところが……!」

「フィンレイス殿下…………申し訳ございません、私はこれから用事がありまして…………」


 まぁ、そうだろうな。

 星詠術を教えてくれている教授は基本的には多忙である。

 この国を支える魔術である星詠術の使い手は日々その術を使いこの国の運勢を良い方向へと向かわせる事に尽力している。


 また、星詠術では莫大な労力はかかるものの、未来予知のようなものも出来、我が国はそれにより幾度もの災難を乗り越えてきた。

 未来予知はその莫大な労力から毎日のように行う事は出来ないが、それでも一月に一度は行っている。

 そう、その未来予知が行われるのが今日なのである。


 だからこそ普段より多忙な星詠術師が今日はさらに多忙なのだ。

 それでもこの教授は講義の為に学園まで足を運んでくれた訳だが、教授もすぐに未来予知の儀式を執り行う我が国の中央機関、星見の塔へと向かわなければいけないだろう。


「お、お願いします! どうしても、分からないところがあるんです!」

「う、うぅん……殿下の頼み事ですし、聞きたいのはやまやまなのですが、これは外せない用事で…………」


 教授は私、つまり王族の頼みを無下にしていいものかと悩んでいるようだ。

 …………計画通りだ。

 私はニヤリと笑みを浮かべる。


「それなら…………星見の塔までの道中で教えていただけませんか?」

「…………わ、かりましたよ」


 教授は諦めたようにそういうと、荷物を抱えて足早に歩き出した。

 私はその後ろを、少し困った顔を作りながらついてき、教授に質問を投げかける。


 ……もちろん、これは口実だ。

 本当に教授に質問したいわけではない。

 学園で学ぶ程度の事であればほぼ完璧に理解できている。

 だが、質問を抱える生徒を演じ、教授の側にいることが、私の狙いに繋がる。


 校舎を抜け、少し歩くと、遠くに淡く蒼色に輝く塔が見えた。

 空を突くようにそびえ立つそれが、我が国の象徴にして叡智の中心、星見の塔だ。

 今日、未来予知の儀式が行われる場所であり、その儀式に参加する星詠術師達が集まっているのが遠目から見えた。


「フィンレイス殿下、そろそろよろしいでしょうか、流石にフィンレイス殿下であろうともこの塔の中に入れるのは…………」

「はい、分かっています、私は儀式が終わるまでここで待っていますので」

「…………そうですか、分かりました」


 教授は優しい笑みを浮かべて星見の塔の中へと入っていった。

 私はその姿を見届けたあと、そっと木陰に隠れる。


 塔の扉が閉じ、静寂が辺りに満ちる。

 私は木陰に身を潜めたまま、心臓の鼓動を抑えるように呼吸を整えた。


 やがて時間が過ぎ、儀式が終わったのだろう。塔の扉が再び開き、次々と星詠術師たちが疲弊した様子で外に出てくる。

 皆、蒼白な顔をしており、未来を覗くという行為がいかに重労働であるかを物語っていた。


 ……まぁ、今回はそれだけではないとは思うが。


 星詠術師達の中に、先ほどの教授の姿もあった。

 彼は辺りを見回し、私を探している。


「殿下……? どこに行かれたのだろう……続きを……」


 小声で呟くのを聞きながら、私は木陰の奥で微かに笑んだ。

 ……悪いが、もう用済みだ。


 彼は私がこの場所に自然な様子で来るために利用させてもらった。

 私はどれだけ影響力が弱かろうと王族である。

 そんな私が国の重要機関に足を向けるということは少なくとも他の王子達からすれば少し気になってしまうだろう。

 特に狡猾なダリウスは十中八九私に監視を付けているだろうし、何か目立った動きをすればすぐにバレてしまうだろう。


 ちなみに、私は今居眠りをしている振りをしている。

 教授を待つ間、木陰で休憩をしていたが、気がついたら居眠りをしてしまっていた……どうだ、自然だろう?


 教授はしばらく私を探した後、諦めたように首を振り、塔から去っていく。

 私は彼の背中を目で追いながら、息を殺し続けた。


 そして、その時。


 人の群れが引いていく中、ひときわ目立つ影が現れた。

 筋肉のある人間が多い我が国の中でも異彩を放つ程の逞しい筋肉を持ち、本当に老人なのかと幾度となく疑われたであろう星読みの賢者。


 …………オルフェだ。

 

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