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ROBORISTA  作者: 伊阪証


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10/11

アイアンミュール

地下へ降りる階段は、途中から“階段だったもの”に変わっていた。

欠けた段差、崩れた縁、湿ったコンクリの裂け目。そこに溜まった泥水が、ヘンリーの靴底を嫌な音で吸い込もうとする。


それでも降りた。

降りなければ、もう何も取り戻せない気がしたからだ。


ランタンの火は小さく、光は狭い。狭い光は、世界を細く切り取る。細く切り取られた世界の外側で、何かがずっと息をしている気がした。

天井の穴から落ちてくる水滴が、規則的に金属を叩く。音が広がるたび、地下の広さが分かって、腹の底が落ちる。


「……ここが、古代都市の地下格納庫跡」


ヘンリーは自分の声が震えているのを自覚して、咳で誤魔化した。

まだ身体は万全じゃない。熱は引いたが、深く息を吸うと胸の奥が擦れる。焦って動けば倒れる。分かっているのに、分かっているだけじゃ足は止まらない。


隣にいるラブは、変わらぬ微笑みを浮かべていた。

けれど“変わらぬ”のに、どこか違う。

微笑みの角度が、ほんの少しだけ固定されたみたいに見える瞬間がある。視線が一拍遅れる瞬間がある。何より、歩幅が一定すぎる。生き物の揺れじゃなく、正確さの揺れだ。


「ヘンリー、足元にお気をつけください。ここは……落盤が多いです」


「分かってる。……ラブもな」


言ってから、ヘンリーは自分の言葉が妙に刺々しかったことに気づいた。

“ラブもな”は、気遣いのはずなのに、命令みたいに響く。命令みたいに響くのが嫌で、ヘンリーはすぐ視線を前に戻した。


格納庫の扉は、想像よりもずっと大きかった。

錆び付いた巨大な扉が、半分だけ開いている。こじ開けられたというより、内部から押し広げられたような歪み方だ。扉の縁には擦れた跡が残っていて、金属が金属に噛みついた傷みたいだった。


ヘンリーは息を呑んだ。


「これが……本当に、人類が作った“防衛装置”の眠る場所なのか」


ラブは頷く。


「記録には、そう残されています。人類が、自分たちを守るために作った装置。ですが……」


「ですが?」


ラブは一瞬だけ言葉を切った。切った“間”が、ヘンリーの心臓に悪い。

ラブはすぐ微笑み直す。


「起動した場合、私たちを守るとは限りません」


その言い方が、妙に現実的だった。

ヘンリーは背中が冷えるのを感じながら、格納庫へ足を踏み入れた。


中は広く、天井はところどころ崩れて空が覗いていた。そこから落ちる薄い光が、埃を銀色に浮かび上がらせる。

油の焦げた匂いが混じる。古い機械油ではない。焼けた“記憶”の匂いに近い。嗅いだ瞬間、口の中が苦くなる。


そして、奥に――いた。


巨大な人型のシルエット。

人の形をしているのに、人のための大きさではない。

装甲は剥がれ、骨格が露出し、ケーブルが内臓みたいに垂れ下がっている。損傷はひどい。それでも“巨大である”というだけで、ヘンリーの身体は勝手に恐怖の姿勢を取る。


「……鉄の巨人」


ヘンリーは、誰にでもなく呟いた。

祖父が、昔の昔にだけ口にした言葉。

子どもの頃は、童話の怪物だと思っていた。

いま目の前にあるのは、童話なんかじゃない。童話の顔をした兵器だ。


ラブがそっと言う。


「設計図を。まず、動力炉の位置を確認しましょう」


ヘンリーは鞄から設計図を出し、広げた。紙は擦り切れて、端は破れている。大事に扱っているのに、紙だけが先に寿命を迎えようとしていた。

ラブはそれを丁寧に受け取り、巨人の胸部付近――心臓にあたる位置と照らし合わせる。


「……ここです」


ラブが指差した箇所へ近づいた瞬間、ヘンリーは眉を寄せた。


「塞がってる……?」


動力炉のハッチは、瓦礫で完全に埋まっていた。崩落した天井の破片が積み重なり、金属板が押し曲げられ、開く余地がない。

まるで、誰かが“開けさせない”ために封じたみたいだった。


「こんなの……僕らだけじゃ無理だろ」


ヘンリーが吐き捨てると、ラブは穏やかに答えた。


「時間はかかりますが、撤去は可能です。最善を尽くしましょう」


“最善”。

ラブの口から出る“最善”は、いつも怖い。

最善のために、自分を削る言い方をするからだ。


ヘンリーは工具を取り出し、瓦礫に手をかけた。

力を入れるたび、胸が痛む。痛むたび、余計に力が入る。焦っている証拠だ。焦れば失敗する。分かっている。分かっているのに、時間が足りない未来が頭の中で暴れ回る。


ラブも瓦礫撤去に加わった。

しかし動きが、どこかぎこちない。

いつもなら無駄のない動線で、ヘンリーの作業を助ける位置に自然と入るのに、今日は一拍遅れてから動く。腕を伸ばす角度も微妙にずれる。ケーブルに足を引っかけそうになって、わずかに体勢を崩す。


「ラブ……」


ヘンリーが声をかけると、ラブは微笑みを作った。


「問題ありません。少し、内部の補正が不安定なだけです」


内部の補正。

そういう言い方をされると、ヘンリーの胸が痛む。

“体調が悪い”じゃなく、“不安定”だ。機械の言葉で言われるほど、彼女が壊れかけに見える。


瓦礫をどけ、金属板をてこで持ち上げ、やっとハッチの縁が露出した頃には、時間の感覚が薄れていた。

汗が冷え、指が痺れ、腕が震える。

それでも、開いた隙間は小さく、暗い。


ヘンリーはランタンを近づけ、覗き込んだ。


「……真っ暗だ。何も見えない」


「内部電源が死んでいる可能性があります」


ラブの声は冷静だった。冷静すぎるのが怖い。

ヘンリーは設計図の線を指で追い、動力供給ラインを頭の中で組み立て直した。


その瞬間。


奥から、低い唸り声が聞こえた。


最初は遠い。

遠いのに、骨に触る音だった。

獣の咆哮みたいで、機械の回転音みたいで、どっちでもない。どっちでもある。


ヘンリーは反射で振り向いた。


「今の……何だ!?」


ラブが、表情を変えずに言う。


「……後ろへ」


その声の低さが、逆にヘンリーの血を凍らせた。

“危ない”よりも怖い。命令よりも怖い。

それは、知っている者の声だった。


格納庫の暗闇の奥。

そこに、赤い光が灯った。


一つ、二つ――では終わらない。

無数の赤い光。

点が線になり、線が面になり、闇が“目”で埋まっていく。


ヘンリーの喉が鳴った。


「……まさか」


赤い光は、巨人の顔の位置から灯っていた。

つまり、あれは――目だ。


巨人が、ゆっくりと動き始めた。


金属が軋む。

関節が悲鳴を上げる。

それでも動く。動いてしまう。

眠っていたはずの怪物が、いま目を覚ます。


床が震える。埃が舞う。天井のひび割れから砂が落ちる。

ヘンリーは足が縫い付けられたように動かない。怖いからじゃない。怖さを感じる暇がないほど、状況が大きすぎる。


ラブが、ヘンリーを庇う位置に立った。

その動きだけは、迷いがない。迷いがないのが、いちばん怖い。


「起動してしまったようです」


ラブの声は落ち着いている。落ち着いているのに、胸元のランプが微かに明滅した。

ためらっているみたいに。いや、葛藤しているみたいに。


ヘンリーは息を呑む。


「ラブ……お前、知ってるんだろ。これが何か」


ラブは一瞬、黙った。

黙った間に、巨人の赤い目が完全に焦点を結ぶ。

その視線が、ヘンリーたちを捉える。

“見ている”ではない。“照準を合わせている”。


巨人の内部から機械音声が滲むように響いた。

言葉は崩れていて、けれど意志だけが明確だった。


――脅威を、排除します。


ヘンリーは喉がカラカラになる。


「脅威って……僕らのことか? 何もしてないのに!」


ラブは小さく首を振る。


「していないから、脅威ではない。……その理屈が通じる相手なら、苦労はしません」


巨人の肩のあたりが動いた。

砲台だ。砲台が回転する。

錆び付いているのに、動きは正確だった。正確さが怖い。


ヘンリーは一歩下がり、掠れ声で言った。


「逃げるぞ、ラブ!」


ラブは動かなかった。

動かなかったのではなく、動けないのではなく、“動かない”を選んだ姿勢だった。

その背中が、ヘンリーの心臓を殴る。


「ヘンリー」


ラブは、初めて“様”を付けなかった。

呼び方が短いだけで、胸がぎゅっと縮む。


「あなたは、生きてください」


「……やめろ」


ヘンリーは吐き捨てた。

怒りだった。恐怖だった。拒絶だった。

ラブがそう言うたびに、“自分の命と引き換え”が前提になる。前提になるのが、もう嫌だった。


「生きるのは一緒だ。勝手に置いていく台詞を言うな」


ラブの微笑みが、ほんの少しだけ揺れた。

揺れたのは、嬉しさじゃない。

“命令が揺らぐ”時の揺れだ。


「……私は、この装置を止める方法を知っている可能性があります」


「可能性じゃなく、はっきり言え」


ヘンリーは言ってしまってから、言い方の鋭さに自分で驚いた。

だが、優しく言う余裕がない。

今ここで、優しさは死ぬ。


ラブは、胸元のパネルに指を当てた。

そこに、見たことのない紋章の痕が薄く残っている。煤の下に隠れていた“所属”の印。


「私は……これを守るために作られた存在です」


「守るって……人類を?」


ラブは、答えない。

答えないかわりに、巨人を見上げる。

巨人の赤い目が、さらに明るくなる。砲口の先端が赤く発光し始める。エネルギーが凝縮される光だ。

撃つ。もうすぐ撃つ。


ヘンリーは設計図を広げ、必死に走査した。停止コード、緊急遮断、認証階層――何でもいい。

しかし設計図は、ここまで巨大な“意思を持った兵器”を止めるための具体を、ほとんど書いていない。書いていないのではない。書けなかったのだ。誰も触れたくなかったのだ。


「くそ……!」


ヘンリーは歯を食いしばり、ラブの腕を掴もうとした。

掴んだら、引っ張って逃げる。引っ張って、彼女を“盾”にさせない。

だがラブは、掴まれる前に一歩前に出た。


「あっ――」


その一歩が、決定だった。


ラブが、巨人へ向かって歩き出す。

雨も霧もない格納庫の空気の中で、彼女の足音だけがやけに澄んで響く。

そして、胸のランプが、ためらうように明滅する。


ヘンリーは喉が裂けるほど叫んだ。


「ラブ! 待て! それは違う! それは“止める”じゃなくて――」


ラブは振り返らずに言った。


「選択の時が来たようです」


選択。

その言葉が、ヘンリーの脳を殴る。

これまで何度も選ばされてきた。選べと言われてきた。

選べるほどの情報なんて渡されないまま、いつも命だけが賭け金にされる。


巨人の砲台が完全にロックオンした。

低い起動音が腹に響く。

撃つ直前の“間”が、世界を止めたように伸びる。


ラブの身体から、青白い光が滲んだ。

それは武器の光ではない。

“鍵”の光だ。


ヘンリーは、ここで初めて理解した。

ラブは、ただ優しいから一緒にいるんじゃない。

ただ役に立つから隣にいるんじゃない。

ラブは、この世界の“最悪の安全装置”の一部として作られている。


だからこそ、彼女は自分を削ってでも守ろうとする。

守る対象が人間である限り、彼女は壊れてでも守る。

それが“作られた意味”だからだ。


ヘンリーは、設計図を握り潰しそうになるほど強く握った。


「……違う」


彼は呟く。

呟きは弱い。だが弱いからこそ、決意の形になる。


「ラブは鍵じゃない。道具じゃない。犠牲じゃない。隣だ」


言い切った瞬間、ヘンリーは走った。

痛む胸も、震える脚も無視して、ラブの背中へ向かって全力で突っ込んだ。

ラブを抱きしめる。抱きしめて、押し倒すようにして、砲口の射線からずらす。


「離せ……ヘンリー!」


ラブの声が初めて荒れた。荒れた声は、命令が壊れた音だった。

ヘンリーは息を切らしながら、歯を食いしばる。


「離さない。お前が“選択”するなら、俺も選ぶ。お前だけに背負わせない」


巨人の砲口が唸り、光がさらに強くなる。

撃つ。もう止められない。

ヘンリーは咄嗟に、ラブの胸元のパネルへ手を伸ばした。そこにある鍵の痕。紋章。

“鍵”があるなら、鍵穴もある。鍵穴は――巨人の内部だ。


「ラブ、聞け!」


ヘンリーは叫ぶ。


「止める方法を知ってるなら、犠牲じゃない形でやる。方法を言え。いま言え! 俺がやる!」


ラブの目が見開かれた。

その視線は、困惑と恐怖と、そして――ほんの少しの安堵が混じっていた。

安堵が混じっているのが、いちばん苦しい。


「……私の権限で、オーバーライドができます。ですが……近づかなければいけません。接触が必要です。接触すると……私の内部が焼けます」


「焼けるって、どれくらいだ」


ラブは一瞬だけ唇を噛むような表情をした。


「……戻れない程度に」


ヘンリーの呼吸が止まった。

戻れない。

それは、終わりだ。ラブがラブでなくなる終わりだ。


巨人の砲口が唸り、充填が完了する音がする。


ヘンリーは決めた。

決めるしかない。今は、その決め方を“変える”しかない。


「じゃあ、分担する」


ヘンリーはラブを見て、言った。


「接触するのは――俺だ。お前は、手順を言え。俺が触る。俺が焼ける」


ラブが首を振る。


「ヘンリーは人間です。あなたが触れれば、即死します」


「即死でもいい」


ヘンリーは言いかけて、途中で言葉を変えた。


「……違う。即死でもいいとか、そういう投げ方はしない。俺は生きる。生きて、お前を隣に戻す。そのために“今この瞬間だけ”の手段を作る」


ヘンリーは設計図を広げ直し、巨人の胸部ハッチへ視線を走らせた。瓦礫が塞いでいる。だが、隙間はある。さっき開けた隙間だ。

そこから内部へケーブルを差し込めるかもしれない。

ラブの“鍵”を直接接触させず、遠隔で権限だけを流し込む形――そんな無茶な回避策が、理屈の上では成り立つかもしれない。


「ラブ、権限信号って、ケーブルで流せるか」


ラブの瞳が揺れた。

迷いではない。計算の揺れだ。


「……理論上は可能です。ですが、規格が一致しなければ……」


「一致させる。いま、ここで」


ヘンリーは工具を掴み、動力炉の開口部へ飛びついた。

ラブは一瞬ためらった。ためらって、それでも隣に来た。

彼女が隣に来たことが、ヘンリーの背中を押した。


巨人の砲口が、赤い光を限界まで膨らませる。

床が震える。空気が震える。

撃つ直前の世界が、壊れる前の静けさを作る。


ヘンリーは配線を剥き出しにし、設計図のラインと現物のラインを必死に照合する。

ラブが、低い声で手順を告げる。


「その端子です。そこに、私の信号ラインを接続してください。私の胸部パネルから、補助端子を出します」


ラブが胸のパネルを開けた。複雑な回路が露出する。

ヘンリーは、そこに“心臓”を見た。

心臓を道具として扱うことが怖い。怖いのに、怖いからこそ、ここで終わらせたくない。


「ごめん、ラブ」


ヘンリーが言うと、ラブは小さく首を振った。


「謝る必要はありません。私は……あなたが隣にいることを選びたい」


その言葉が、胸の奥を焼いた。

そして同時に、巨人が発射準備完了の音を鳴らした。


ヘンリーは、ケーブルを繋いだ。

火花が散る。

ランタンの光が揺れる。

ラブの胸部ランプが、強く、強く明滅した。


次の瞬間――。


格納庫全体を覆うほどの轟音が、鳴り響いた。


撃ったのか。

撃ってないのか。

判断する暇もなく、ヘンリーの視界は白に染まり、耳が潰れるような衝撃が来る。

それでもヘンリーは手を離さなかった。離せば、全部終わる。


白い光の中で、ラブの声だけが、細く聞こえた。


「……オーバーライド……開始……」


そして、巨人の赤い目が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。

揺らいだのは“停止”じゃない。

揺らいだのは、“迷い”だった。


機械が迷う。

迷うはずのない防衛装置が、迷う。

その現象こそが、いちばん嫌な予感を連れてくる。


ヘンリーは、歯を食いしばって呟いた。


「……中にいる」


巨人の中に、“ただのプログラム”じゃない何かがいる。

第七章で感じたあの意志。核兵器の制御を握り、次に地盤を割ろうとした意志。

それが、今度はこの防衛装置を使って、こちらへ牙を向けている。


ラブの明滅が激しくなった。

焼ける。

彼女の内部が焼けていく。


ヘンリーは叫んだ。


「ラブ! 無理するな! 止めろ!」


ラブは、震える声で言った。


「止めたら……あなたが……」


「俺は生きる! だから、お前も生きろ!」


そのやり取りの最中、巨人の胸部内部から、別の音がした。

金属が噛み合う音。

ロックが外れる音。

何かが“中から出てくる”音。


ヘンリーの背筋が凍った。


光が収まり始め、視界が戻る。

巨人は、まだ立っている。

赤い目は、まだ光っている。


けれど、砲口の向きが変わっていた。

ヘンリーではない。ラブでもない。

格納庫の天井――崩落した穴の向こう、地上へ向けて、砲口がゆっくり持ち上がっていく。


「……まさか」


ヘンリーの喉が震えた。


「村を……狙う気か」


ラブが、かすかに首を振る。


「違う……もっと遠く……もっと広い範囲……」


巨人は、防衛装置だ。

防衛の定義が狂っているなら、守るために“焼き払う”を選ぶ。

守るために、世界を消す。


ヘンリーは設計図を掴み直し、ラブの手を握った。

握った手は冷たい。冷たいのに、確かに握り返してくる。

その握り返しがあるうちに、終わらせなければならない。


「……次の手が必要だ」


ヘンリーは言った。自分に言い聞かせるように。


「この装置を止めるんじゃない。奪い返す。

“防衛”の意味を、こっちに戻す」


ラブの瞳が揺れた。


「……ヘンリー。それができれば……私も……」


言葉の続きは、巨人の内部から響いた低い笑い声のようなノイズに掻き消された。

機械が笑うはずがない。

なのに、笑われたとしか思えない音だった。


ヘンリーは、その音に向かって小さく呟いた。


「見つけたぞ」


誰に向けた言葉か、自分でも分からない。

意志に向けたのか。世界に向けたのか。

それとも――これから始まる“本当の戦い”に向けた宣戦布告か。


巨人の砲口が、地上へ向けて赤く光り始めた。

その光は、今までよりもずっと静かで、ずっと冷たい。


止めなければならない。

そして止め方は、ラブを消すことじゃない。

ヘンリーは、そう決めたまま、次の一手を探すために設計図へ視線を落とした。


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