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ものがたり  作者: やまい
36/156

③ 虹とヒト

 

「いもぉぉぉぉーっ!」


 その激しい衝撃で微塵になった門扉の破片が地鳴りの波に乗ってこちらへも吹き飛んでくる。横倒しになった馬とリドミコを庇うように広げたマントの甲斐あって傷はほとんどなかったが、下草がクッションになったとはいえ打ち身や切り傷は各所に見られた。


「はぁ。くそ、あんにゃろー見たとこ血も流してないみたいだぞっ!

 ダイーダ、リドと馬さんをあとで村に連れてきてくれっ!

 この村にゃ恩はあっても恨みはないからなっ! リド、ちょっと行ってくるわ。」


 よいせ、と馬をまたいでアヒオは開け放たれた門を抜けて村へ駆け出していく。


「・・・お?・・・ふ、ありがとよ。」


 しっかりと突き刺さった木片が胸当てにあるのを見止めると、少しだけ笑みがこぼれる。


 暗足部時代から身につけている装衛具に救われたのはこれで何度目だろう。


「けけ、覚悟しとけバケモノ野郎っ!」


 そうして滑り込んだナナバの村。


 そこでは妙な音が土煙を上げる巨躯の陰から響き取り巻くローセイ人たちをどよめかせていた。

 アヒオも飛び退けるだけの距離を保ちながらその動向に目を凝らしている。


 すると。


「はーはっはっは。あっはっはっは。」


 晴れ切らぬ砂埃の中、なんとなく聞き覚えのある声がごほごほ言いながら届いてくる。


「いやー、けほ。見てよこれ。すごいでしょーニポちゃん。ボクもロロンちゃんもなんと無傷なんだよー。はーははー。

 ・・・でもねーニポちゃん、この〔ろぼ〕の最前面にボクらがいるのは忘れないでねー。」


 長めのマントにくるまっていたいつかの錘絃弾きがいつかの鉄巨人を三つくっつけた大物に乗っかったまま話しかけていた。隣にいるシム人の少女もごほごほ言いながら鉄巨人に何か言っている。


「うるさいねえっ! こっちだって調整が大変だったんだよっ! ったく。」


 がこん、とその背中から女が現れて錘絃弾きを叱りつける。

 舞い上がっていた煙の合間にその姿を見て取ったアヒオは、


「あっ!」


 思わず走り寄ってしまう。


「おまえさん、あん時のっ!」


 そしてえいっ、とニポを指差して呼びかけるとどうやらそれに気付いたようで先の錘絃引きは「やあ」などと笑みをひとつプレゼントしてくれる。たまらないシャイニング・スマイルだったが場にそぐうかどうかは甚だ疑問だ。


「おふっ、けほ。あん? あー、あんた・・・えっと・・・・?」


 わかったかな、と思ったのだがやっぱり憶えていなかったニポ。

 わかったフリをしたら思い出せると信じていたらしいが現実はそんなに甘くない。


「あ、このやろう忘れやがってっ! よくよく考えたら四度目だぞっ!」


 ちょっと忘れられていたことに怒っちゃうアヒオ。

 趣旨がズレていることにその場の誰も気付いていない模様。


「げふっ、けほ。・・・はふー。

 ねぇニポ、結局あの赤ぴこは何だったんだろうね、って! あっ! えっ? アヒオさんっ!」


 そこで背中から出てきた青年がこちらと目が合うと、もうとんでもない笑顔になって飛び下りてきた。


「にゃむん?・・・キペかっ? あっはっはっは、なんだよびっくりさせやがってっ!


 ・・・あのよキペ。おまえさん、きっとおれより複雑な人生の歩き方してるみたいだな。」


 変な玉っころを取り返そうとしたけど連れ去られた揚句にその張本人の女と共に現れ、どう考えても旧暗足部の装衛具としか思えないような装備をして出てくれば仕方のない感想だった。


「へ? あ、あー。そう、かもしれませんね。ははは。」


 やさしく笑ってはみるものの村の門を破壊したうえアヒオたちを追い詰めた後ではその効果も薄れてしまう。


「けけ、相変わらずの日和見さんだな。・・・おまえさん、ほんと何があったらこうなるんだよ。・・・ふふ、ふふふ、なっはっはっはっは。」


 もう拍子抜けしてしまって、ほっとしたのもあって笑えてしまう。

 キペに繋がる情報を得るためにここへ来て、それで出会えたのはよかったのだが、その朴訥とした性格の青年に降りかかった運命の気まぐれにもうなんだか笑うしかなくなってしまうのだ。


「っ!」


 そこへ大した傷もなかったリドミコがてけてけっとキペの元へ走り寄っていく。

 目が利かなくとも、なにか感じるものがあったのだろう。


 ぱっと見が黒づくめの暗足部員だったが利かない分だけ余計なものは削がれるのかもしれない。


「あっ! リドミコっ! うわー久しぶりだねぇー。ふふ、元気だった? うふふ、そっかそっかー、よかったぁ無事でっ!・・・あれ、風読みさまは?」


 くるくると見渡してみるがそれらしい人影はない。

 一方アヒオたちが敵対者ではないと踏んだニポたちもダイハンエイから降りてキペの後ろに集まって見回してみる。


「個体数は4だったんだけどねえ。1個はたぶんあの速さだから馬だろうけど・・・

 あっ! あんたっ、このヘビ男っ! あんたのせいでヤシャに回す分のバファ鉄、ヒマに使っちゃったんだからっ! どーしてくれんのさっ! いいかい、バファ鉄の加工には高温の炉が――――」


 天国と地獄。

 それがキペ+リドミコとニポ+アヒオの差だ。


「あ、誰か馬を引いて・・・え? なんでダイーダさん?」


 見遣ればアヒオが見込んだとおり体力のポテンシャルがズバ抜けていたダイーダがシャコ馬をえっちらおっちら引いて歩いている。どちらも重傷にならなかったのは幸いだった。


「あらら、あのチヨー人のかたもキペさんの知り合いなんですね?・・・で、あの、キペさん、こちらのハチウのお兄さまは何というお名前なのかしら?」


 意外と気の多いシクロロン。男好きなのではなく恋がしたい年頃なのだ。


「ぬぁ? あ、いやそれよりキペ、この分だといろいろ聞かせてもらわにゃならんことがありそうだぞ。そっちもこっちも事情がありそうだしな。」


 ニポに引っ掴まれながらリドミコを抱くキペに助けを求めるも、馬を救った英雄のようなダイーダに目を奪われていて話をあんまり聞いてなかったようだ。


「え? あ、うん。僕もさっきそう思ったんです・・・って! ニポっ! 何してんのっ!」


 とそこでぶひーっ、となっているニポをようやくアヒオから引き離してあげる。

 エレゼはそれを眺めてうんうん、と朗らかに笑みをこぼすだけだった。


「おー、ようやく釈放だな。はは、んで? そっちのシム人娘さんは?

 ・・・いやちょっと待て、キペ・・・まさかとは思うんだが・・・」


 まさか、とは思うものの『ファウナ』暗足部の装衛具を纏っているキペを前にするとそうも言っていられなくなる。


「え? あ、うんとね、シクロロンっていうんだ。アヒオさんにはちょっと言えないけどね、いろいろ大変なんだよ、この子も。悪い子じゃないからやさしくしてくださいね。

 あ、そうそう、こちらはアヒオさんっていうヒトなんだ。すごく頼りになるんだよ、シクロロン。」


 大きな組織の旗頭を隣にしてちょっといい気になるキペ。

 ふふん、どーだ、のように胸を張るも、アヒオには、それが少し辛かった。


「あの、初めまして。・・・アヒオさん、っていうんですね、素敵。ハチウのヒトは眼が恐いと思っていたのですけど、とても穏やかな瞳をしているんですね。素敵。」


 かつて旧暗足部を「暗殺能力のある集団」と位置づけ抹殺を命じたとされるのが現『ファウナ』の総長だった。

 その人物像については『ファウナ』の旗印[五つ目]を持つシム人女である、などいくらかの情報は得ていたものの、本人を前にしてみればあれから何円もの月日が過ぎているというのに今なおそんな指揮を執ったとは思えない若さとあどけなさだ。


 シビノの仇として刃を突き立てる充分な理由を持つとはいえ、ここまで若いと取り巻きが指南したことは明白だった。

 アヒオとて責を負うに値するはずのない少女の命を奪ったところで敬愛するシビノに報告できるわけもない。


「・・・そうか。おまえさんもやわらかな目を持ってるな。もったいない・・・ことだ。

 はは、しかしあれだな、ちょっと名前が長すぎるかもしれん。シクロロロロンってのは――――」

「私っ!」


 えぐ、えぐ、となるシクロロン。


「あ・・・いや、え?」


 あれ?なんでだ?となるアヒオ。


「・・・ひっく、ひっく・・・・わ、私っ!」


 ふんぐ、ふんぐ、となるシクロロン。


「ほげ、ちょ、いや・・・え?」


 おれ?おれか?となるアヒオ。


 そして


「・・・そんなに名前長くないもんっ!」


 うわーん、と走り去ってしまうシクロロン。


 もう、限界だったのだ。

 本当はニポのあたりでもうかなり限界ぎりぎりだったのだ。


「へ? お、ちょ、・・・・・・お、なんだよキペ、その目は。」


 それは言い過ぎだよー、とキペ。

 あーあ、やっちゃった、とニポ。

 女の子泣かせちゃった、とエレゼ。

 いくらなんでもそれは、とダイーダ。

 早く連れ戻して謝れー、とローセイ人の観衆。


「だって、ちょ、おい。え? だって、そらねーだろ、ちょい・・・」


 生まれて初めて邂逅するタイプの非難にかつてのエースは微塵も見られない。


「いやいやいや、なんの騒ぎかと思えばまたあなたがたでしたか。となるとあの森の一本道もあなたがたの仕業でしょうかね。」


 村の入り口へとひた走ったシクロロンがうつむきながら解古学研究隊の学者に背を押されて戻ってくる。

 小柄なずんぐりむっくりに麦編み帽子がその男の特徴だったが、ここへ訪れた時と今に隔たりはなかった。


「あぁ、ヤアカさん。あの時はどうも。ほら、リドミコもすっかり元気になりましたよ。」


 ひょい、とリドミコを持ち上げて解古学者ヤアカに無事を伝えようとするも、そのあまりに邪悪な装衛具に少々訝られてしまうキペ。


 だが問題はそのすぐ脇で勃発している。


「あー、ええと。・・・あのよ、お嬢さん? シクロ()ロン、だったか――――」

「シクロロンですっ!」


 ぴしゃりと言われて柄にもなくアヒオはびくっとしてしまう。

 総長とはいえ女だてらにと甘く見ていたところはあったが、何より体験したことのない状況設定にあたふたしてしまうのが悲しかった。


「あ、あぁ。わかった。シクロロン、な。え・・・っと?」


 え、これどうすりゃいいの?とアヒオはそろりと後ろを盗み見る。

 村全体が三白眼でお迎えしている。


「ええと? あの、さっきはすまな――――」

「言ってっ! ちゃんと、・・・・・・ちゃんと言ってっ! おまえだけが大事なんだよって、ちゃんと目を見て言ってっ!」


 ほんのり涙目になりながら訴えるシクロロン。一度やってみたかったらしい。


「は、はい? なんだその大事とかなんとかって、それよりなんだ、ちゃんとって・・・痛てっ!」


 だらしないアヒオについに小石が放られる。

「ちゃんとやれー」とか「客をナメんなー」とか好き勝手言われる。


 待っているのだ。

 場にいる皆はラブロマンスの完結編を今や遅しと待ち侘びているのだ。


「な・・・なんで・・・はぁ。ええと、おま、えが? 大事だよ?

 あっ! ちょ、待ってくれっ!

 ちが、リドぉっ!

 待ってくれえぇーっ!

 ・・・おれを、おれを置いていかないでくれぇっ!

 リドぉっ、おれを独りに、しないで・・・くれ・・・」


 浮気した男に愛想をつかした女、の体ですたこら去ってゆくリドミコ。

 もう追いすがることもできないアヒオは地面に力なく跪いている。

 そして見捨てられた腹いせに死んでやる、とか言っちゃう類のダメ男になる。


 ただシクロロンの方はといえばもう気が済んだようでてくてくとキペたちの輪ににこやかに入っていった。


「いやぁしかしこれはメデタイことなのかなぃ、アタシとしてはオタクを探す手助けをするって条件でムシマの兄サンに遺跡探しの手伝いを頼むつもりだったんだに。

 でもこれじゃ発掘も運搬もままならないに。オタクらヒマなら仕事しないかなや? ん? オタクもしかすると解古学の学者かに?」


 はーもうほんとオラおめさがいねぐなっちったらはぁお先真っ暗だっぺよー、と四つんばいになったハチウの男が何かで濡れた大地と対話を始める。


 一行はシャコ馬を休ませるため近くの干草積み場へ向かう。


「あ、そうなんですけど。えっと、あれ? たぶんこの中で全員を知ってるのって僕だけになるのかな? あららら。

 あーん、えっとですね、こちらは遺跡の発掘調査に来ている学者さんのヤアカさんです。うわー、紹介が大変だな。

 で、えっと、こちらの欲深いチヨーの行商人はダイーダさん。それからえっと、こっちの錘絃弾きがエレゼさんでこっちの女の子がシクロロン。

 それと、あ、ちょとニポ大丈・・・あ、お腹すいたのか。

 えーっとそれから、ん? 

 ダイーダさん、「遺跡を探してる」って何の遺跡のこと? あ、ヤアカさんでもいいですけど。僕らも探してるんですよ!」


 はーもうオラこれがら何さしたらよがっぺなーなんつってよぉ、もうなんもやっちぐにっつのー、といじけた男の落胆は果てしなく続く。


「そうですなあ、ま、「遺跡」と括って調査しているわけではないのです。

 旧大聖廟のような神代の文明遺産を捜索しているのですが、このあたりでも類似する民間伝承がありましてね、近年見つかったばかりのこのウサオショオン族の村にも興味を持ったものですから志願したのですよ。

 もっとも、ここでむかし暮らしていた生活の跡は発見できたのですが、それ以上の収穫はまだないのです。」


 これ見でくんち、こだに、こだに心がおっきょれてんのに神さんは聞き届けてはくんねぇのけ、とそろそろ恨み節に入ってくる。弱々しく地面を殴りつけるアヒオはもはや影と同じ色をしていた。


「ぐへっ! てことはアレかなぃ、風の神殿のことも捜索してるってことことかに?

 それは困ったなや。風の神殿の財宝はアタシたちのモンなんだにっ!」


 そんな体半分が天空へ向かい始めたアヒオの前に、可愛らしいちいさな足がちょこんとのぞく。


「やっぱりっ! 僕らはその風の神殿を求めてここへ来たんです。「守り人の杜」とも呼ばれてるそうなんですが・・・

 そうだっ! あの、サムラキさんってどこにいるんだろう?」


 なんづこったっぺした!はーリドかぁ?ははぁこらいげね、なんだっぺ、いやオラほんの刹那、天使にでも遭遇したんであんめかと思っちまったぐらいにしてよぉー、と残りの体半分が土に還りそうだったアヒオが声を震わせる。


「なんだいそりゃ? 要領得ないよチペ。学者ですらまだ見つけてないってのになんであんたには心当たりがあるんだい。

 ただね、チペ。財宝があるってのは至極大事なことだからちゃんとあたいに報告しておいとくれよ。まったく。」


 あぁ、したらばこら間違いね。こら間違いねく村ぁ豊作だ!今年の実りは、大豊作だぁっ!とリドミコを太陽に掲げて豊穣を謳う。

 それを飽きもせずずーっと見ていた村の者たちもついに一緒になって天に手を翳しては思い思いの道具を打ち鳴らしてひとつのリズムを奏で始める。


「サムラキさん、ってここから少し離れた所に住んでいるローセイの人が前に言ってたんだ。

 きのこはほしだ、もりびとのしるべだ、って。


 きのこっていうのはリドミコのことを言ってるみたいだし、ほら、木の子ってことで。

 それに「もりびと」っていうのもきっと森のヒトのことじゃなくて守り人のことなんじゃないかって思ったんだ。

 それらがカチっとまとまったのは、えっとこれ言っていいのかな。リドミコの背中にね、△の中点から線が三つ飛び出たような《オールド・ハート》っていう傷跡みたいな斑があるんだけど、それって僕らが星の記号に使ってるのに似てるでしょ? 

 なんかそれが繋がってさ、もしかしたらって思ったんだ。だからたぶんサムラキさんは何かを知ってると思う。」


 ぴくん、とニポの目が引き攣る。


「キペくん、でしたかな。それは・・・案外、的を射ているかもしれないですよ。

 ワタシも彼にはあの時会いましたし、村の者たちも彼のことは知ってはいました。なんでも、代々村から離れた所に住み続けている古来種の家系らしいのですが、そのためでしょうか、知能があまり高いとはいえなかったこともあり親しくする者もなかったので詳しくは分かっていなかったのです。

 とはいえ彼も土着のローセイ人、何か遺跡の欠片でも見つけていないかと訊ねてみたのですけど、あなたたちが――おそらくはあのユクジモ少女が村を出てからですね、これといったことを話そうとはしてくれませんでしたよ。

 あなたの話にはまだ懐疑的ながらも、あの少女がいた時ほどサムラキくんが行動を取ったことはありません。信じられるかは別として、ワタシはあなたの見立てた推論を信じたいと思います。隊を割って充てることはできませんがワタシ一人なら自由にできるでしょう。協力させてもらえますかな。」


 向こうではもう完全に村を挙げてのリドミコ祭りが開催されている。

 実は陽気な部族だったようだ。


「僕はもちろん構いません。いいよねニポ、シクロロン。

 でも、力を借りるなら僕ではなくて――――」

「おれたちもいいぞ。危険な目には遭わせられないがな、恩はある。リドもそこは理解してくれるだろう。」


 うん、とアヒオの肩の上で頷くリドミコ。


 ただ、一行はなんとなくアヒオに距離感を覚えていた。


「よし、それじゃあみんなで頑張ろう。まずはサムラキさんを探さないとね。

 ねぇリドミコ、あの家がどこにあったか憶えてる?」


 うーん、とやってあっち、と指差す。

 それに倣ってアヒオも勢いよくその方角を指差した。

 それが家庭的な男にでも映ったのか、さらにまた胸をキュンとさせてシクロロンもそれをマネる。

 じゃあボクもワタシも、とエレゼやヤアカまでやるとバラバラの人種のバラバラな部族のヒトが一斉に村の北の森を指す。


 統府も教会も『ファウナ』も『フロラ』も為しえなかった、指差す未来が一つになる。


 そこにいる誰かが願ったものでもなく、そこにいる誰かが強いたものでもない、それぞれの意志が隣り合う色に馴染んで解けた、それは虹だった。


 突き放すこともなければ交じり合って己の色を見失うこともないままに描かれる、それは空の奇跡と同じだった。


「ふふふ。ほら、ニポも。」


 やってられっか、と照れるニポの手を取り突き出すキペには今、そんな景色を見ておく必要があった。


「ふん。こいつら全員あとでウチの党員にしてやる。」


 げふふ、と笑うダイーダもいつのまにか「みんな」に入れられている。宝が見つけられないよりは、ということでその一団に加わることにしたようだ。


「よーし。それじゃあまずはサムラキさんの家に、しゅっぱあーつっ!」


 全ての色の揃う日へ、晴れ渡る白日の日へ、青年は時に閉ざされた扉を開けて進み出す。


 故があって伏せられた幕の先を、故を知らないが故に開け放つ。

 時によって選ばれた道の意味を知ることになるのは、しかしそう遠い未来の話ではないだろう。 






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