思い出は写真の中へ
「ユウマさんはいチーズ!」
そう言われてユリアの方を見ると、スマホのカメラをこっちに向けていた。
パシャっと写真を撮られる。どうしたのだろうか。
「いえ。推しと接近できるならせっかくですから写真の一つくらい撮らないとと思いまして」
「良いけどせめてその説明は撮る前にしてほしかったなぁ」
「自然な表情がほしいんですよ。自然さが」
「そういうもんか」
「ええ。そういうもんです」
「とはいえ自然って言われると難しいなぁ」
「写真といえばなんですけど、今日の放課後付き合ってもらえますか?」
「良いけど何する感じだ?」
「いくつかの場所が特定できなくて困ってるんですよ。聖地巡礼の」
そういえばこいつはきぶり勢じゃなく聖地巡礼に来た観光客なのを忘れていた。
「いいよ。じゃあ放課後そのまま行くか」
「ありがとうございますぅ~! ユウマさん優しい! 好きぃ!」
「だーわかったやめろくっつくな!」
「ユ・ウ・マ・さ・ん~!」
「だから離れてって! みんな見ないでぇ~!」
そして放課後、俺とユリアはさっそく聖地巡礼のたびに出かけた。とはいっても近所で、しかも俺の知ってるところばかりなのだが。
「で、今まではどんなところ撮ったんだ?」
「え~と、ネタバレにならない範囲でいうと、お二人の思い出の場所とかですね。あとはお二人のお家とか」
「美咲の家なんか撮るなよ。俺の家ならまだいいけどさぁ」
流石に事情も知らない相手にそういうことしてはいけないだろう、と思っていると
「違いますよ! お家にちゃんと誘ってもらったうえで許可撮って撮影しました! 未来うんぬんは流石に言いませんでしたけど」
「まぁそれなら良いのか? それで、どこを探してるんだ?」
「えっと、まずはお二人の作った秘密基地とお二人の初キスの場所と小学生の頃の家出騒動のときミサキさんを見つけた場所と……」
「改めて言われると恥ずかしいぞこれ!? それと初キス!? それネタバレじゃないのか?」
「いえいえ。幼稚園の時のほっぺキスのことですネタバレじゃあないです」
「俺達そんなことしてたのか!? 覚えてないぞ!?」
「ほっぺキスの場所はユウマさんの昔住んでたマンションですから外観だけ撮らせてもらいますね?」
「淡々と進行するんじゃねぇ! 今更ながら断ればよかった……」
「良いんですか? 断ったらミサキさんに力借りることになりますよ? ほっぺキスのことミサキさんのほうで言うことになりますよ?」
「こいつ……今俺を脅したのか……? 推しを脅すって厄介ファンの極地じゃないのか……?」
「さあさあ時間も少ないので行きましょ! 行きましょ!」
「こら引っ張るなって!」
「さあさあ。行きますよぉ~!」
「わかったから離せぇ~!」
「で? 秘密基地跡地だったか? それならすぐそこの林だぞ」
「えっここ校舎の裏手じゃないですか」
「地元でそういうの作れる場所なんてここくらいしかなかったからなぁ。それに別にそんな秘密! って感じないぞ? あそこあそこ。すぐそこ」
「ここですかぁ! 挿絵がないし詳細な描写がないって感じでわからなかったんですよぉ。へぇ~。ここで籠城したんですねお二人で」
「籠城って……まあ帰りたくない! って言って罠仕掛けたからそうなのかな?」
「お二人の仲の良かった頃のエピソードですよね!」
「うわっ誰かが同じところに基地作ってるな。まあいい感じの場所ってそういうもんか」
「今度は美咲さん連れてきましょう! そして思い出話に花を咲かせるイベントを……」
「聞こえてるぞ。じゃあネタバレじゃないんだな。残念だったな。もうその未来は消えたってことだ」
「うえ~ん! そんなぁ」
「次行くぞ」
「次は、は、初キスか。えっと前住んでたところは……こっちだな。ちょっと歩くぞ」
「ええ! 今日は歩きやすい靴で来たので大丈夫です!」
「それじゃあこっちに……って言ってもすぐそこなんだけどな」
そうして次の思い出の地、初キスをしたらしい場所へと向かった。
「ていうか覚えてないんだよなぁそのイベント。美咲も覚えてないだろ? 多分だけど」
「そ……それはどうでしょうか?」
「どういうことだお前なにか知ってるのか!?」
「い、いえ! 流石に推し相手と言えど乙女のプライバシーを守るくらいはしますよ!?」
「初キスの場所が見たいんですってバラした相手に言うことか!?」
「はいはい。とりあえずここの写真撮りますから下がっててくださ~い」
「はいはい。わかったよ」
ただ今の言いっぷりは少し気になる。美咲が覚えているかいないかをぼかすのはもうそういうことなんじゃ? いやでもまさかそんな……
「ユウマさん? もう撮り終わりましたから次の場所お願いします!」
「うっわっびっくりした! もう良いのか?」
「はい! 次の場所へレッツゴーです!」
「はい。ここが美咲が家出したとき見つけた場所だな。このミラーのある場所は覚えてる」
「ユウマさん家のすぐ隣の道路なんですね?」
「ああ。家出したもののどうすれば良いのかわからず、俺の家に来ようとして道1本間違えてぐるぐる回ってたのがあのときの美咲だ」
「微笑ましいエピソードですよねぇ」
「ていうかそんなところよく出てきたな」
「はいっ! お二人が夜遅くまで学校に残っちゃったときのエピソードです! 文化祭の準備で!」
「それも聞こえてるぞ。じゃあここもネタバレじゃないから聖地でもなんでもないなもう」
「さっきから辛辣すぎません!?」
うっせぇ。こっちは昔の恥ずかしい過去を嫌でも思い出させられてるんだ。少しくらい嫌味も出るだろう。
「それで、あとはどこだ?」
「次で最後です! お二人だけの思い出の場所で……」
そう言われてすぐに思いついた。じゃあ最初に言ってくれればよかったのに。
「それはあの山の上だな。行くぞ」
そうして俺達は学校裏手の林に戻ってきた。ここは少し山のようになっていて、その頂上が目的の場所だ。
頂上にたどり着く。もうすぐ日暮れで、いい眺めだろう。
「それ、ついたぞ。ここだ」
「うわぁ~あっちに通ってた小学校が見えるんですね? あっちには幼稚園! あそこは前住んでたところですよね?」
「ああ。思い出の場所がよく見えるだろ。美咲と俺の家が一緒に見える場所ってことでな。お前も気にいると思ったよ」
「はいっ! ありがとうございますユウマさん!」
そうしてこっちを向いたときのユリアの笑顔がすごくきれいに思えて、なんだか照れくさくなってしまう。素直に、か。少しくらい素直に接しても良いのかもしれない。
「まったく。お前カワイイんだからもうちょっと行動を気にしたほうが良いんじゃないか?」
……あれ? ユリアの顔が真っ赤になってる。口をパクパクして固まってしまった。
「か、かわいい……? わ、私のことを……。っと! ハッ!」
そう掛け声を出しながらスマホをこっちに向けてシャッターを切る。
「えへへ。いい顔いただきました!」
「全くお前は……」
そういうところが好きだよ、とは。さすがに照れくさくて言えなかったが。




