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乙女な悪役令嬢には溺愛ルートしかない ~やらかすまえの、性格以外は完璧なスペックの悪役令嬢に転生しました~  作者: 緋色の雨
一章

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エピソード 3ー6

 朝陽が降り注ぐ城門のまえ。

 若草の匂いが香るその場所に、私を含む十名の聖女候補と騎士団が集合していた。騎士は同じ鎧を身に着けているが、聖女候補は各々の服を身に着けている。

 私達が出立の準備をしていると、そこにアラン陛下が現れた。


「皆の者、光と希望の神ルミナリア様よりお告げのあった聖女はいまだ見つかっていない。このままでは、大陸を魔物に奪われることになるだろう。だが、私は聖女候補の中に、真の聖女がいると信じている」


 静かな、けれど重い言葉だ。聖女候補でしかない私達に世界の命運を賭ける。私は聖女がセシリアであることを知っているけれど、知らない者にとっては大きな賭けになるだろう。

 それでも、アラン陛下は決断を下した。


「瘴気溜まりの森に足を踏み入れることに不安を抱く者もいるだろう。だが、そなた達には我が国の騎士団とシリルが同行する。なにも恐れることはない」


 王太子が同行するとの言葉にざわめきが起きた。王太子が参加するなら危険は少ないはずだと、聖女候補達の心にわずかな余裕が生まれる。

 それはきっと、アラン陛下の思惑通りなのだろう。そうして聖女候補の心を掴み、最後に「どうか、そなた達にこの国を救って欲しい」と演説を終えた。



 私達の乗り込んだ馬車の一団が街の外に向かって走り出す。私は馬車の中を見回した。同席しているのはセシリアとアナスタシア、それにエリザベスの三人だ。その中の一人、セシリアの顔がこわばっていることに気付いた。


「セシリア、森に着くまでに一日は掛かるわ。いまから緊張するのは止めておきなさい」

「は、はい。でも、私、魔物を見たことがなくて……」

「あら、それを言うなら、私だって見たことないよ」


 私がそう答えると、セシリアは意外そうな顔をした。


「そう、なのですか?」

「街に住む人間なら大抵はそうじゃないかしら?」


 小さな町や村には魔物が攻めてくることもあるが、街に攻めてくるようなことはない。兵士や騎士でなければ、魔物と遭遇せずに一生を終える方が多い。


「そうですわね。馬車での移動中に、護衛から魔物を討伐したという報告を受けることはありましたが、私も魔物は見たことがありませんわ」

「そう言えば、私も見たことはありませんわね」


 アナスタシアとエリザベスが私の言葉に同調する。


「そう、なんですね。私だけじゃないと知って、少しだけほっとしました。でも、魔物ってどんな感じなんでしょう? 見たら、すごく怖かったりするんでしょうか?」


「いいえ、魔物は獣型が大半のはずよ」


 セシリアの問い掛けに、アナスタシアが答えた。それからどんな魔物がいるのか説明を始める。この二人は相変わらず仲がいい。最初、アナスタシアがセシリアに突っかかっていたなんて言っても、いまは誰も信じないだろう。


 ちなみに、このゲームには、ゴブリンやオークみたいな、ファンタジー小説に出てくるような定番の魔物はほとんど存在しない。

 恐らく、乙女ゲームの見栄えを意識してのことだろう。それがこの世界に反映されているのなら、恐ろしい見た目の魔物と遭遇することはほぼないだろう。


 ただ、見た目が怖くないから危険はない、ということではない。むしろ、バッドエンドで大陸を蹂躙するほどに強力な魔物が揃っている。

 決して油断は出来ないと考えながらアナスタシアの話を聞いていた。すると話題が変わって、瘴気溜まりをどうやって浄化するのか? という話になった。


「そうですね。聖女なら自然と浄化の方法が分かるという話ですが、私には分かりませんわ。ソフィア様はなにかご存じですか?」


 エリザベスの言葉を切っ掛けに、三人の視線が私へと向けられる。原作を知る私はその答えを知っている。伝えておくべきだろうと、私は口を開いた。


「瘴気溜まりはその名の通り、瘴気が集まった場所よ。そして瘴気というのは魔属性の魔力なの。だから、聖属性の魔力をぶつけることで簡単に消し去ることが出来るそうよ」

「……え? そうなのですか?」


 エリザベスが目を瞬いた。


「ええ。だから聖女じゃなくても、聖属性の魔術――たとえば治癒魔術を使用することで、瘴気溜まりを浄化することは可能よ」

「そうなのですか!?」


 今度は三人が大きく目を見張った。


「ええ。とはいえ、聖女以外が瘴気溜まりを消すには、十人くらいが全力で聖属性の魔術を使い続ける必要があるらしいわ。だからその方法で浄化するのは難しいでしょうね」


 これが、瘴気溜まりを払えるのは聖女だけと言われるゆえん。それを説明すると、三人は「知りませんでした……」とすごく驚いていた。

 だけど次の瞬間には顔を見合わせて、それから私へと視線を向けた。


「と言うか、そんなことを知っているソフィア様って、やっぱり聖女様、ですよね?」


 衝撃の発言。さっきどうして三人の視線が集まったのかを理解して息を呑む。だけどその息を大きく吐き出して、冷静に「違うわよ」と否定した。


「さっきのはうちの書庫にある資料に書いてあったのよ。たぶんだけど、ほかの家の書庫なんかにも、資料が残っているんじゃないかしら?」

「そうなんですか?」


 セシリアがアナスタシアやエリザベスに向かって問い掛ける。だけど、二人は困惑した顔で「うちも調べましたが、そのような資料はありませんでしたわ」と口にした。


 これはまずい流れだ。なにか理由、理由を捻り出せ私!

 そんなふうに必死に頭を働かせていると、エリザベスが「もしかしたら、王家やルミナリア教団が情報を制限しているのかもしれませんね」と口にした。


「……そんな有益な情報をどうして隠すんですか?」


 セシリアが首を傾げる。


「聖女発見のためです。聖女以外にも瘴気溜まりを浄化できるというのは朗報ですが、それ故に聖女の発見に支障をきたす恐れがありますから」


 エリザベスの意見を聞いて、私はあり得る話だと思った。

 実際、私がその気になれば、騎士団と治癒魔術師を集めて、瘴気溜まりを浄化。私が真の聖女だと名乗り、人々を騙すことも出来るだろう。

 もっとも、将来的に瘴気溜まりが各地に現れたときに対処できず、人類が滅びるだけだからやろうとは思わないけど、半端な知識を持つ野心が強い人間ならやりかねない。と、そんなことを考えていると、馬車の外から襲撃を知らせる声が聞こえてきた。

 

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緋色の雨のX
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の治癒魔術は本来より強力だから浄化できちゃったりしてね
[一言] まぁ、どうしてそんなこと知ってるの?を知り過ぎてて特別感有り過ぎなんですよね。
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