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乙女な悪役令嬢には溺愛ルートしかない ~やらかすまえの、性格以外は完璧なスペックの悪役令嬢に転生しました~  作者: 緋色の雨
一章

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エピソード 3ー2

 王城にある大広間。赤い絨毯が敷かれた、けれどそれ以外にはなにもないその部屋に聖女候補が集められていた。みなは急な召集に驚いてはいるようだけど、怯えたりする様子はない。恐らく、瘴気溜まりの発生についてはまだ聞かされていないのだろう。


「ソフィア様、おはようございます」


 私を見つけたセシリアが駆け寄ってきた。私は真の聖女がこの場にいることを頼もしく思いながら挨拶を返した。そこに、アナスタシアやエリザベスも集まって、互いに挨拶を交わす。


「王城に呼び出されるなんてなにかあったんでしょうか?」


 セシリアが不意にそんな言葉を口にした。だが、やはりアナスタシアやエリザベスも知らないようだ。答えを知る私が言葉を濁していると、騎士と司祭を引き連れたアラン陛下が現れた。私達は一斉にカーテシーをして陛下の言葉を待った。


「皆の者、まずは急な召集にもかかわらず、こうして集まってくれたことに感謝する。集まってもらった理由だが――単刀直入に言おう。森に瘴気溜まりが発見された」


 アラン陛下の言葉に大広間がざわめき、その声が深紅の絨毯に吸収されて静かに消えた。


「知っての通り、瘴気溜まりは魔物を生み続けると言われている。それゆえ、我々はなんとしてもその瘴気溜まりを浄化する必要がある。そこで――ケイル司祭」


 陛下がそう言うと、司祭の格好をした男が一歩まえに出た。


「聖女候補のみなさんに次の試練です。みなさんの中の誰かが持つであろう聖女の力で、森に発生した瘴気溜まりを浄化してください」


 誰かが息を呑んだ。

 少し周囲を見回せば、アナスタシアがスカートの布を握りしめているのが目に入った。でも、そうやって恐怖に抗っているのはまだマシで、ほかの聖女候補からは「あり得ない」とか、「そんなの無理ですわ」なんて感じで怖じ気づいている。

 そんな中、私は発言の許可を求めて手を上げた。


「ソフィア様、なにか質問ですか?」

「はい。瘴気溜まりを浄化するには、現場に行く必要があると思います。その点については、どのようにお考えなのでしょう?」


 原作には、聖女の力を託された治癒魔術師が騎士団とともに遠征し、瘴気溜まりを浄化するというシーンがある。だが、力を託す方法までは描写されていない。

 そもそも、その方法が登場するのは物語の後半だ。


 つまり、いまはその方法を使えない。それに聖女が誰か確定していない以上、聖女候補の全員を危険な森に連れていかなければならない。

 その方法について質問すれば、司祭が「いま現在、騎士団が森の魔物を討伐中です」と答えてくれた。私はそれしかないだろうなと納得するけれど、令嬢の一人が「そんな危険な真似は出来ませんわ」と口にした。


「瘴気溜まりは魔物を産み続けるのでしょう? であれば、いくら周辺の魔物を討伐しても、安全を確保できないはずです」

「そ、そうですわよね。それに、この人数を守り切れるのですか?」

「そもそも、魔物のいる森に出向くなんて聞いていませんわ」


 ネガティブな発言がそこかしこから上がる。

 聖女候補の多くは寄付で聖女候補の地位を買った者達だ。これは私の予想だけれど、聖女候補に選ばれた実績だけを手に入れ、途中でフェードアウトするつもりだったのだろう。


 それをいきなり、瘴気溜まりが発見されたから現地へおもむけと言われて怯えるのは分かる。だけど、味方の士気を考えると非常によくない流れだ。そう思った直後、「私は協力します!」という声が上がった。視線を向ければ、わずかに揺れるモーヴシルバーの髪が見えた。


 セシリアが震えながら、それでもしっかりとまえを見据えている。司祭や陛下、聖女候補達の視線が集まる中、セシリアはギュッと拳を握りながら口を開く。


「私……私は、自分が聖女だとは思っていません。でも、この国が、私の住む国がピンチならがんばりたい。だから、私は試練を受けます!」


 彼女の青い瞳が強い意志の光を放っていた。さすがヒロインにして聖女だ。すごく頼もしいと、私は感動すら覚えていた。だけど、そこに冷や水が浴びせられる。


「――平民の聖女候補だからって必死ね」


 誰かの呟きが響いた。それがその場にいる令嬢達の心を揺さぶる。


「……そうよ。危険な森に行くなんて令嬢の仕事じゃないわ」

「森に入るなんて無理よ」

「ドレスが汚れてしまうじゃない」


 多くの令嬢が好き勝手に言い始めた。

 せっかく上がりかけた味方の士気が落ちていく。


「――静まれ!」


 アラン陛下の凜とした声が大広間に響き渡り、令嬢達が一斉に口を閉じる。


「危険な森へ入り、魔物達と相対するのはたしかに令嬢の仕事ではない。だが、聖女の仕事ではある。聖女候補を名乗った以上、試練を受けてもらう」


 名乗った以上は――という言い回しで理解した。いま反発しているのは、寄付金で聖女候補の地位を買った者達だ。だからアラン陛下は、森に入るのが怖いのなら、聖女候補を辞退しろと言っているのだ。文句を言っていた令嬢の何人かが苦渋に満ちた顔をする。危険な目に遭うのは嫌でも、我が身可愛さで聖女候補から逃げたという汚名を被りたくないのだろう。


 結局のところ、陛下は味方の士気を維持するため、聖女候補の参加を強制するつもりだろう。私は手を上げ、陛下に「提案がございます」と告げた。


「ふむ。聞かせてもらおう」

「まず前提としてお伺いします。優秀な騎士団とはいえ、森の中で三十名にも及ぶ聖女候補を護るのは難しいのではありませんか?」

「……そうだな、たしかに厳しいだろう」

「ならば、まずは十名ほどの聖女候補を選出するのはいかがでしょう?」


 私はセシリアが聖女であることを知っている。だがそれを知らぬアラン陛下でも、寄付金で聖女候補の地位を買ったものが多くいる以上、十人程度に絞ることは出来るはずだ。

 それに、万が一第一陣に聖女がいなくとも、第二陣として派遣すれば問題はない。そんな私の思惑を読み取ったのか、アラン陛下はニヤッと笑った。


「……悪くない。ソフィア、そなたの提案を受け入れよう」


 こうして、アラン陛下が選出した若干名と希望者を含む合計十名の聖女候補が第一陣に選ばれた。その中にはもちろん、私やセシリアの名前も含まれていた。

 私は私の幸せのために、聖女であるヒロインを助けてみせる。

 

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