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乙女な悪役令嬢には溺愛ルートしかない ~やらかすまえの、性格以外は完璧なスペックの悪役令嬢に転生しました~  作者: 緋色の雨
一章

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エピソード 2ー12

 私に向けられた歓声が冷めやらぬ会場の中、セシリアとアナスタシアを含む三人の聖女候補が荘厳な舞台へと上がった。そこへ、治療対象の負傷者が運ばれてくる。


 痛々しい姿――だけど、セシリアはもちろん、アナスタシアも目は背けない。残りの一人もきゅっと拳を握りしめて恐怖を押し殺し、怪我人のもとへと歩み寄った。


 午後の日差しが間接光となって降り注ぐステージの上、三人は全員が患者の包帯を外し始めた。セシリアとアナスタシアは私が教えたから当然だけど、いままでの聖女候補は誰もしていなかった。おそらく、残りの一人は即興で私のマネをしているのだろう。


 だけど、生々しい傷口をまえに、歯を食いしばって治療をする姿はとても尊いと思う。聖女はセシリアだけど、ほかの候補達もその立場にふさわしい志の持ち主だ。


 それでも、治療の効果はやはりセシリアとアナスタシアが群を抜いていた。みるみる傷が治る光景を前に、観客席から新たなどよめきが上がる。


 だが、今回のどよめきはそれで終わりではなかった。セシリアから治療を受け、台の上から降り立った騎士が「古傷が……治った? 古傷が治っているぞ!」と叫んだからだ。


 その言葉に、多くの観客はそれほど大きな反応は示さなかった。一般的な治癒魔術では、欠損や古傷などを治すことが出来ない――という事実を知らないのだろう。

 だが、貴族関係者や冒険者など、事情を知る者から驚きの声が上がることで、その驚きは伝染し、やがて波のように会場に広がった。


 正直、出来すぎだと思う。

 でも、セシリアはヒロインにして本物の聖女だ。であるならば、神に愛されていたとしても不思議じゃない。彼女が脚光を浴びるのは自然の摂理なのかもしれない。

 私はセシリアを称えるために惜しみない拍手を送った。



 こうして全員の試練が終了し、聖女候補や騎士達は舞台袖に引っ込んだ。代わりに司祭が舞台へと上がり、各聖女候補の成績を集計中であることが伝えられる。

 そしてほどなく、聖女候補の成績が発表される。


「それでは発表します。第一回、聖女の試練。治癒魔術の能力が高かった者、第三位はソフィア。続けて第二位はアナスタシア。そして栄えある第一位は――セシリアです」


 司祭の発表に様々な声が上がった。

 平民のセシリアが一位だったことを喜ぶ声もあれば、逆に平民のくせにと蔑むような声も聞こえる。いずれにせよ、原作のストーリーよりもよい状況なことは間違いない。

 私はこの結果に満足していた。


「名前を呼ばれた三名は舞台にお越しください」


 私達は舞台に上がり、それから司祭のまえで片膝を突いた。司祭が全員の聖女候補の健闘を称え、最後に私達三人に祝福をする。司祭の言葉に拍手が巻き起こった。

 それが終わるのを待って、司祭は再び拡声の魔導具で声を響かせる。


「それでは、聖女の試練においてもっとも優秀な成績を収めたセシリアに、アラン陛下よりお言葉を賜りたいと思います」


 司祭がそう言うと、アラン陛下がステージに現れた。彼は拡声の魔導具を受け取ると、セシリアへと視線を向ける。


「セシリア、そなたは今回の試練において、もっとも優秀な成績を収めた。まだ聖女と確定した訳ではないが、これからも強い意志で試練に挑んで欲しい」


 アラン陛下からのお言葉が贈られ、再びセシリアに惜しみない拍手が送られた。これは、乙女ゲームですらなかった展開だ。ゲームよりも現実の方が上手く事が運んでいる。


 そんなことを考えていると、セシリアが発言の許可を求めた。私はもちろん、司祭も何事かと驚くが、陛下がそれを許可して、係の者がセシリアに拡声の魔導具を手渡した。


 待って、なにを言うつもり? すごく嫌な予感がする――と、そんな私の内心を知ってか知らずか、セシリアは私をチラリと見た後にアラン陛下を見上げた。


「まずは、このような栄誉を賜ったことに深く感謝いたします。しかしながら、陛下にお伝えせねばならないことがございます。本来、もっとも称賛を浴びるべき方はほかにいる、と」


 セ、セシリア――!? なにを言い出すの!? 聖女は貴女。貴女が聖女にならなければ世界は滅ぶのよ? なのに、そこでどうして私を見るのよ!?

 会場がざわめくが、陛下が静まれと手を上げた。それを受け、会場は静寂に包まれる。


「セシリアよ。一度の試練で聖女を確定することはできない。だが、それでも、試練の結果には意味がある。その結果に異を唱えるのはどのような了見によるものだ?」

「それは……私の治癒魔術が、ある方から学んだものだからです。それまでの私の治癒魔術は、ほかの皆さんのものと大差がありませんでした」

「……ふむ。つまり、そのある方とやらのおかげで、そなたはいまのような治癒魔術を使えるようになったと言うことか?」


 セシリアは力強く頷いた。

 あぁ……この子は本当にいい子だ。ライバルの功績を素直に称えられる。私の功績を奪おうなんて夢にも思わない。その性格はまさにヒロインだと思う。

 でも、聖女はセシリアだ。貴女が聖女にならなきゃ世界が滅ぶのよと叫びたい。そうして苦悩していると、アラン陛下が私に視線を向けた。


 あぁ……そうか。アラン陛下は最初からこの話をご存じなんだ。だとすれば、この流れを変えることは不可能なのだろう。そう感じた私はギュッと拳を握りしめる。


「それで、そなたに治癒魔術を教えたのは誰なのだ?」

「ソフィア様でございます」


 私に多くの視線が突き刺さった。

 よくない流れだけど、こういう展開も予想はしていた。だからこの状況から巻き返し、真に聖女にふさわしいのはセシリアだと証明してみせると、私は強く拳を握りしめた。

 

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― 新着の感想 ―
 私達は舞台に上がり、それから司祭のまえで片膝を突いた。 宗教的な価値観(建前)から神に対して又は儀式における神の代弁者としての教皇以外に跪く様な儀礼しないイメージが、が、が、が……
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