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One chance  作者: りん
2/5

【1】②

 食事の後、稜司の部屋で過ごすことになった。。

 美紀は彼がシャワーを浴びている隙に、無雑作に放り出された荷物から恋人のスマートフォンを取り出す。

 後ろめたいことをしている自覚は当然あった。

 むしろ美紀は、こういった「卑怯なこと」には嫌悪感しか覚えなかったくらいなのに。


 パスワードは稜司自身の誕生日だと聞いている。

 正直、簡単に漏らすことも含め「誕生日って安直すぎない? 設定する意味あるの?」と呆れていただけだった。

 まさか己がこっそり使う機会が巡って来るなどと、想像すらしたこともない。

 震えそうになる指先で恐る恐る入力した数字が、エラーにならず安堵したのも束の間だった。

 罪悪感に襲われたまま開いたメッセージアプリの一番上には、可愛らしいキャラクターイラストのアイコンの横に初めて見る名前。


 ──『Ami』。あみ、かな? 誰だろ。


 自分の知らない誰かとID交換などして欲しくない、というほど狭量ではないつもりだ。

 現に稜司がどういう相手とメッセージをやり取りしているかなど、彼が自分から話す以外には知らないし特に興味もなかった。

 しかし「一番上にある」ということは、美紀よりあとにメッセージを送った、あるいは受け取ったということになる。

 躊躇したのは一瞬。

 『Ami』のトークルームをタップして開くと、そこには最も見たくなかった文字列が並んでいた。


《せんぱーい。今日はだめなんですかぁ?》


《ごめんね、亜美ちゃん。今日はちょっと、どうしても外せない用事があってさ。明日ならOK!》


《はーい。絶対だからね! 明日はサークル行くのやめて、直接会お~。》


 ──何? これは何なの!?


  手の中の端末が途端に汚いもの(・・・・)にすり替わったようで投げ捨てたくなったが、その前にとりあえず自分のスマートフォンでトーク画面を撮影する。

 小刻みに戦慄(わなな)く手に画像のぶれが気になり、三度シャッター音を聞いた。

 稜司が戻る前に、とトークルームを閉じて、スマートフォンを元通りリュックのポケットに戻す。

 ……サークル。後輩の一年生だろうか。

 いきなり活動に熱を入れるようになったのには「別の目的」があったというわけだ。


「美紀、お先〜」

 バスルームのドアを開けて彼が姿を表すのと同時に、美紀は立ち上がってバッグを掴んでいた。


「私、今日は帰る」

 それだけどうにか告げて、呆然としている稜司を気にする余裕もなく玄関に向かう。

 そのまま靴を履いてドアを開け、部屋をあとにした。

 何度も鳴る着信音に、美紀は黙ってスマートフォンの電源を落とす。今は何も聞きたくなかった。

 帰宅して思い切って確かめたスマートフォンには、稜司からのいくつものメッセージと不在着信の履歴が並んでいる。

 なにがなんだかわからない、といった様子の彼に対応する気力もなく、すべてを無視したまま入浴だけ済ませて美紀は早い床についた。


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