小さな秘密
5限は歴史学だ。非常勤の先生が、歴史学の方法論について解説する。履修者は6人。2年次配当科目なのだが、私だけ1年生で履修している。担当教員は私のことが気になるようで、講義終了後に会話することもある。今日の内容は史料批判について。内的批判と外的批判を学んだ。講義が終わった。「いつも思うけど、君はずいぶん熱心だね」そう声をかけられた。「本当は歴史学を専攻して、その分野の研究者になりたかったので。だからC大学に進みたかったんですけど、親が受験を許してくれなかったんです。」。先生は「この大学は全然歴史学と関係ないけど、歴史学は諦めたの?」と私に尋ねた。「はい、もうすっぱり諦めました。この大学を卒業して小学校の先生にでもなろうかと。」。「でも俺には諦めたようには思えないな。表情を観てたら分かるよ。まあ歴史なんて学んで大学院に行っても、テギュアは実力だけで掴むもんじゃないし、俺みたいに非常勤で食いつなぐ生活を覚悟しないといけないね。金がない中で研究を続けるのは精神的にかなりきついよ。学芸員も社会の教員も倍率が高いし、歴史に関わる仕事をするのは難しいよ。学部卒で歴史と関係ない分野に就職するなら歴史学科に進むのもありだけど、親としては一生使える資格で生活して欲しいだろうし、そんな冒険させたくないだろうな。」。私は焦った。誰にもばれていないと思っていたからだ。でも明らかに私の言動は不自然だった。学生とは必要最低限のことしか話さず、必修の子ども福祉基礎には出席していない。他の学生は子ども系の入門科目を取っているが、私はその時間を一般教養科目の履修に充てている。その数日後、