忘れ物
その日は、女子大生の楓さんが年上の彼と婚約したお祝いとして、先輩の由宇さん主導の飲み会をしました。
お店でほどほどに酔っ払った後、二次会として先輩の部屋で少し飲んで、主賓というかイケニエというのか、他の友人四人と笑って過ごしていました。
お酒の席だからと様々な話が飛び交い、自然と楓さんのなれそめなどに花が咲いてからかわれ、会話が弾んで時間は夜中……。
しばらく経つと由宇さんが、近所の目もあるしそろそろと締め括りました。
「今日は、お開きにしましょ」
先輩も嬉しかったのか、かなり酔っている様子で、ソファから立ち上がれません。
楓さんが由宇先輩をそのまま寝かせ、ブランケットを渡して立ち去ろうとすると。
「電気消してって~」
そんな甘えるような由宇さんの声を背に、部屋をあとにしました。
部屋を出てからしばらく、楓さんは由宇先輩の部屋に自分のスマホを忘れたことに気が付きました。
近所でもあるし、楓さんは他の皆に先に帰るように言い、忘れ物をとりに由宇先輩の部屋に戻りました。
窓から見ると、部屋の電気は消えたまま。
スマホがないのでインターフォンを鳴らすものの、無反応…… 寝ているのかなと思いつつドアノブに触れると。
カチャ……。
預かった鍵で施錠して帰ったのに、扉は開いていました。
外からの光と玄関の足元照明で中へ進みます。
「……楓です、さっき忘れたスマホを取りに来ました」
一応入るときに挨拶をしたが、返事はありません。
真っ暗な部屋で、さっきのソファの上、先輩はぐっすり眠っているようでした。
楓さんは電気を付けるのは悪い気がしたので、手探りで探し出すと一言掛けて戻ることにしました。
「見つかりましたのでこれで失礼します」
メールボックスの中のカギを再び使い施錠し、楓さんは自宅へ帰りました。
翌日の朝早く、学校に行く準備をしていた楓さんのスマホに電話がかかってきました。
表示は『警察署』、びっくりしつつ出ると、由宇先輩が亡くなった、アパートの中で殺されたという話でした。
出頭の指示に従い警察署へ行く途中、先輩のアパートの前を通るとそこはたくさんのヒトだかり。
進入禁止のロープが張られ、窓にはブルーシートが掛けられていました……。
楓さんは警察官に事情を聞かされます。
由宇先輩は、部屋に侵入してきた犯人によって惨殺された、と。
部屋は荒らされ、しかし物取りとしては不出来で、現金はそのままだったというのです。
執拗に彼女へと襲いかかっていたため、先輩が恨まれていた方向で調べているのだ、とも。
……彼女が寝ていたはずのソファはひどい有り様だったというのを聞いて、楓さんは震えていました。
警察官の説明に、もしもを想像したのです。
もし、スマホを取りに戻った時間がずれていたら。
もし、一人にせず自分も残っていたなら。
自分も被害にあってしまったかもしれないとも考えて、でもそれを防げたかもと思い泣いてしまいました。
震える楓さんに、警察官は続けます。
「あなたをお呼びしたのは事情聴取のため、そして重要参考人としてともう一つ、この文章、あなた宛のメッセージらしいのですが」
そう言って、写真を指差しました。
そこにあったのは由宇先輩の血で汚れた彼女自身のスマホの画面で、見慣れたSNSのレイアウト。
二人の連絡用のトーク欄のそのメッセージには。
『電気点けなくてよかった』
と書かれ、送信されずに残っていました。
「……!」
そう、楓さんがスマホを取りに戻った時。
由宇先輩は既に侵入者に捕らわれており、それは部屋の中、ソファの上で折り重なって息を殺していたという事です。
楓さんがスマホを探すため電気をつけていたら彼女も殺されていたのかも知れません。
「でも、なんで、点けなくて、良かったなんて……?」
それを送信する寸前に息絶えた?
犯人が撹乱するための操作?
警察官にも判断がつかなかったので、本人へと確認をしたかったのだそうです。
ですが、その後も犯人は見つからず…… 事件は迷宮入りしてしまいました。
楓さんは卒業後、婚約者と結婚式をあげて幸せに暮らしているそうですが、たまに幼馴染みでもあった由宇先輩のコトを思い出してしまうようです。
……あなたには犯人が解りましたか?
ご覧いただきましてありがとうございます。
下の☆での評価やブックマーク、いいねをしていただけると作者が喜びます☆




