お通し
「ふえええぇぇぇ〜~~~ん。不味いの。不味すぎるの〜~」
「文句があるなら自分でしろ」
街を出て3日目持っていた保存食がなくなりその場での食料調達をするはめになった。偶然居合わせたウサギ型の魔物のホーンラビットを倒して食べれるように解体して料理をし食べたらこの感想である。
「寧ろ一切の手伝いもしていないオマエが文句を言うな。それに飯を食い尽くしたのはオマエだろ。なんで俺がこんな手間を掛けないといけないんだ?」
「あれっぽっちじゃ全然足りないの! ゼロが決めた量が少なすぎるの!」
「それで俺の干し肉も食ったってか! 足りなかったのならキノコやら草を食えばよかったろうが!」
食料がなくなってガンスローから貰った魔導袋に食べ物がないか探したが女用のおそらくミレイ用の服しか入ってなかった。ガンスローが用意したには可愛らしすぎるのでおそらくゴリアテが用意したに違いない。
「キノコはわかるけど草なんて食べれないの! それにキノコのは毒があるものあるから勝手に採って食べたらダメって言われたの」
「そういうのは食べて覚えろ。痛い経験をしたらなかなか忘れないからな。それに草でも食べられる草もある。街の薬師のババアも料理に使ってたし。まあ、俺にはどれが食える草なのかわからないけどな」
「ならダメなの!」
薬草ならポーションにも使われているし食えなくはないはずなどと適当な理由で食わせたらいけただろうか? 後で文句を言われるだろうが。
だが食える草がわかっていればこういう状況のとき役に立つな。ババアから貰った紙の束の中に書かれてないだろうか? まだじっくり読んでないから今度ちゃんと読んでおこう。
「ゼロのこれは料理とは言えないの。そもそもお肉を焼いただけでお塩やコショウも使わずに味付けをしないのはどうかと思うの」
「食えるから問題ないだろ」
言いながら焼いた肉を食うが普通に食える。なんでそんなに文句があるんだ? コショウなんて俺が持ってる訳ないだろ。
「オクタヴィアがいたときはおいしいご飯がたべれたの。ゴリアテちゃんのご飯が恋しいの……」
「飯1つでここまで百面相ができるもの才能か?」
ミレイは怒ったり思い出に浸ったり悲しんだりコロコロと表情を変える。しかも文句を言いながら手にした肉は放さず少しずつ食べているんだから図太い神経をしている。
「まあ、あと少しで次の街に着くだろうからそこでいろいろ買い足すか」
その前にギルドで依頼を受けとかないと財布の中身が心もとない。原因は主にミレイのせいだ。コイツの食料で出資がかさむ。俺だって食い足りないが我慢して食費を削ってるのにコイツは腹一杯まで食べやがる。
「街に着いたらご飯が食べたいの!」
「ふざけんな。まずはその手に持ってる物を食ってから言いやがれ」
コイツの食費を考えただけでも頭が痛くなるがそれを我慢して残りの肉を平らげ火の始末をして街に向かって歩き出す。
「ムグ……ムグ……、まってなの〜」
肉を食いながらミレイも急いでやってきた。
道なりに進み数時間、野生動物対策の柵で囲まれた街が見えてきた。広さ的にも俺達のいた街と同じくらいだろう。
「身分のわかる物は?」
「…………」
街の出入り口にいた門番の男が聞いてきたので俺は無言でギルド書を出した。
「よし、入っていいぞ。そっちはお子さんかい? あまり似てないようだが?」
「旅の連れだ。訳あって逸れた仲間を探してる」
嘘は言わないで本当の事も黙っているならこの辺りが妥当だろう。ミレイは何故か俺の陰に隠れるようにして俯いている。
「そうか。人攫いの類でないなら別にいい」
「…………」
攫った子供がこんなキレイな服を着てる訳ないだろ等といろいろ言いたい気もするが許可もでたのでさっさと街に入ることにする。
「いつまで引っ付いてるんだ?」
聞いてもミレイは黙ったまま引っ付いている。このままじゃ歩きにくくてしかたがない。
「あーもー、しょうがねぇ!」
俺はミレイを引っ剥がしそのまま小脇に抱え街へと入る。門番の男に変な目で見られているが知ったことか。
街に入るとまずは飯が食える所を探す。よくわからないがコイツなら飯でも食わせとけばもとに戻るだろうなどと考えながら進む。
しばらくすると他より大きな建物が見えてきた。あれがこの街のギルドのようだ。作りは俺達の街にあったギルドと同じなのですぐにわかった。でも今は飯屋を探してるので素通りするつもりだったがギルドの横に丁度飯屋があった。何が食えるかわからない店だがとりあえず入ってみるか。
店内には数個のテーブルとカウンターがあり客も数人いたので不評な店ではないようだ。俺はカウンターに移動してミレイを座らせてから自分も座った。
「オヤジなんか軽くつまめる物をくれ」
カウンターに着くなり適当な注文をする。メニューも見当たらないので目の前にいる見た目がいかついオヤジに言う。
「はいよ」
注文してすぐ出たのは骨付き肉だった。しかも作り置きを出されたような早さにも関わらず出来立てのように熱々だった。
「いや重いわ。軽くっつったのになんで腹にたまるような物出すだよ」
「いただきますなの!」
ミレイはさっきまでの態度が嘘のように肉にかぶりついた。ここに来るまでにホーンラビットの肉を食っていたのにここでも肉を食えるとは豪胆だな。
「はあ」
「ゼロどうしたの?」
「なんでもねぇよ」
俺のため息が気になったのかミレイが見て来るが放って置く。
さて、これからどうするか。ギルドの位置もわかったし今できることは宿探しくらいか。
「オヤジ」
「はいよ」
「どこか良い宿……っ早いな!」
俺が言い終わる前に店のオヤジがカウンターに鍵を置いた。どうやらこの店の2階が宿になっているようだ。ゴリアテの店も同じだったし不思議ではないが俺が内容を言うよりも早く鍵出しやがった。このオヤジ何者だ? 周りを見て見るが一見普通の店で客も肉を食っている。
「ん?」
もう1回周りを見て気付いた。今いる全員が同じ料理を食べている。もしかしてここ料理は1種類しかないのか?
「オヤジ」
「はいよ」
カウンターには宿代も記載されたメニュー表が出された。
メニューがあるなら最初に出して欲しかった。
メニュー表に目を通してみるとあるのは肉料理ばかりで最後の方に酒等があるくらいだった。値段はどれも良心的だがさすがに3食肉オンリーは無理だ。他の店も探しておくか。
「ちなみにこの料理は……」
どれだ? と言う前にオヤジがメニューの最後のページを指差した。
『最初に出てくる肉料理はお通しです』
「お通し? 料金が書かれてないぞ?」
オヤジは首を横に振った。
まさか! タダなのか!
「どういう事だ? 普通こんな料理を出されたら金を払うのが当然だろ? なにが目的なんだ?」
「そこはおやっさんの心意気よ」
俺が訳がわからずにいると周りにいた客の1人が声をかけてきた。その男はこの店の常連なのかオヤジの事をいろいろ聞かせてくれた。
どうにもオヤジの過去は壮絶なものだったらしく誰もが飯が食える場所を作りたいと思いこの店を開いたらしい。
「すごいの! それでこんな素敵なお店ができたの!」
「そうだ。おやっさんは自分で材料を調達するから利益度外視でやってくれてるんだ」
「そうそう、それで俺達も飯を食いっぱくれる心配もないって事だ」
「その代わりおやっさんが困った時は街の俺等総出で助けるって訳だ」
すごい熱弁をされているが当の本人は何も言わずに店の奥に行っちまったぞ。俺もそろそろギルドへ行って仕事を探したいのだがなかなか熱弁が止まらない。その原因は。
「みんな助け合いなの。すごいの。ほかにどんなお話があるの?」
ミレイがこうやって話を聞きたがるから周りも気分良く語り始める。これいつまで続くんだ?
「はあ……ん?」
すでに食い終わったはずの皿にはいつの間にか新しい肉が置かれていた。