幕間:出立後大人達の晩酌
ゼロとミレイが街を出たその夜。ガンスローはゴリアテの店で酒を飲んでいた。
「ゼロちゃんがいなくなって寂しくなっちゃうわね」
「ふん。悩みのタネがなくなって清々するわい。プハッゴリアテ殿もう一杯」
清々すると言うわりには酒を煽るガンスローにやれやれと言いたげに溜息を漏らすゴリアテ。
「アイツには才能がある。血筋か生まれた環境のせいか分からんが直感で戦闘の最適解???を出しとる。グリズリーベアーの変異体と戦う時もヤツの硬い皮膚を斬り裂くには生半可な攻撃ではダメだった。だから渾身の一撃でヤツを撃ち倒す他なかったがゼロはほんの数回攻撃を当てただけでそこに行き着いた」
普通なら皮膚が薄い箇所を狙ったりするところをゼロはそうせずに今ある全てを込めた一撃に賭けた。結果一撃必殺の凶爪に当たるリスクを減らし無駄な体力と魔力を使わずにグリズリーベアーに挑めた。
ガンスローがその考えに行き着いたときには既に満身創痍だった。
「それなのに、それだけの才能を持っておるにもかかわらず魔力が無かった。魔力があるなしでは天と地程の差があるのは周知の事実。それなのにアイツときたら冒険者が1番稼ぎやすいんだなどとほざきよる!」
「その話は何度も聞いたわ。ゼロちゃんにとってはそこが1番大事だったのよ」
「それでも他にやりようはあっただろうに……。ワシの忠告も聞きやしない」
ガンスローがテーブルを殴りながら愚痴を言うがゴリアテにとっては耳にタコだ。
ゼロの考え方もわかるゴリアテには2人の思いは並行線だろうと思っていた。
「アレはガンスローちゃんが悪いわよ。頭ごなしに冒険者を辞めろなんて。ゼロちゃんの性格からして絶対に反発するのは目に見えていたじゃない」
なんの説明もなしに冒険者を辞めろとだけ言われても納得などできるはずもなくゼロはよりムキになって冒険者稼業にせいをだした。
そのおかげであまり人気のない採取などの雑用クエストが捌けてギルドが喜んでいたのはあまり知られていない。
「理由はどうあれゼロちゃんにも魔力が発現してよかったけれどミレイちゃんもいろいろ問題を抱えてそうなのよね」
「だからゼロには強くなってミレイの嬢ちゃんを守らないといかん。自身の身もかかっているのでそこはきちんとしているだろう」
そのためにこの数日徹底的に鍛えてやったのだと言わんばかりに嬉しそうガンスローは語る。
「それにしてもあの魔道具を渡しちゃってよかったの? 形見って言って大切にしてたのに」
「かまわんさ。いい加減ワシも過去に捕らわれてばかりもおれんからな」
ゼロに渡した魔導袋はガンスローにとって息子の形見みたいな物だった。と言っても生前持っていた物ではなく記念に渡すはずだった物が渡せなくなりそのままガンスローが持っていたのだ。
「それにしてもゴリアテ殿がプレゼントなど相当あの子を気に入ったのだな」
「ごめんなさいね、量があったにしても魔道具に入れさせてもらって。ミレイちゃんには幸せになってもらいたいのよ。あんな事聞かされちゃーね大人として出来ることはしてあげたくなっちゃったの」
「あんな事?」
「それはヒミツ。……でもあまりいい話でもないから聞かない方がいいわ」
後半は声のトーン低くして話すがこれがゴリアテの地声のようだ。それだけゴリアテにとっても気分のいい話ではなかったということだ。
「ふむ、やはりあの子も訳ありか。やれやれこの街にはそういう輩がよく来るな」
「私もガンスローちゃんも似たようなものだもんね。そりゃあ2人に肩入れもしちゃうわよ」
ゼロとミレイの境遇に自分を重ねたかそれとも情けをかけたのかわからないが2人を気に掛けていたのは本当だ。
「ゼロちゃんもちゃんとミレイちゃんを守ってくれるといいんだけど……。ほら、ゼロちゃんってたまによくわからない行動をとるじゃない?」
「あれの行動理由は自分の命か金のためだ。それがどうしてそんな行動になったのかはワシにもわからん。だがミレイ嬢の命が自分の命に直結しているから無下にはできんじゃろ」
ミレイが死ねばミレイの眷属であるゼロも死んでしまう。だからゼロは自分の命のためにもミレイを助けざるおえない。
それを狙ってゼロを眷属にしたのならミレイは相当切羽詰まっていたか意地が悪いかのどちらかだろうが、ミレイの性格からしてそこまで考えて眷属にしたとは思えない。
結局、行き当たりばったりで眷属にしたのだろうと2人は結論づけた。
「ゼロは旅の経験もあるし魔力の使い方もワシが教えた。大抵の事ならなんとかなるじゃろ」
「…………そういえばゼロちゃん、私の店で泊まるようになってご飯は私の料理か食べないかのどちらかだったの。ご飯まともに作れるのかしら?」
「…………ははは。さすがに自分が食べる飯ぐらい作れるだろう」
「ミレイちゃんは?」
ゴリアテの一言でガンスローの笑いが止まった。自分で食べる分には自己責任でいいだろうがそこに他人が加われば話は別だ。
ミレイ自身が料理ができればよいがそんな事できるはずもないと2人は確信できていた。
「……………………」
「……………………」
2人の間に長い沈黙が流れる。ミレイの泣き声が聞こえたような気がしたのはきっと気の所為ではないと思い彼女に強く生きろと願いながら酒を飲む2人であった。