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旅立ち

 その後俺は1人で街に戻った。他の冒険者達はもう街に戻ったようなので俺とガンスローの2人だけではグリズリーベアーを運ぶ事ができそうにない。なのでガンスローが見張り役をし俺がギルドへの報告とグリズリーベアーの運搬要員を呼ぶために一足先に街に戻って来たのだ。


「ったく人使いが荒い。こっちだって魔力を使い過ぎて疲れてるってのに」


 それでも体に鞭打って動かしやっとの思いで街に戻って来た。入口付近に見張りなどがいることを期待していたが期待を裏切られたので諦めてギルドまで自分の足で向かう。


「だから今のうちに逃げようぜ。ここにいてもあの化け物が来ないように祈るだけだろ。なら少しでも離れたほうがいい」

「逃げるにしても何処に行くんだ? 年寄もいるのに全員で一緒には無理があるだろ」

「この街を捨てるなんてできるか! ワシはここに骨を埋める覚悟じゃ!」

「みんな落ち着きましょう。ガンスローちゃんもそうだけどゼロちゃんもやすやすとやられる子じゃないのはみんなも知ってるでしょ?」


 ギルドに集まった街の連中が今後どうするかで揉めているようだ。ゴリアテも連中をなだめようとしているがうまくいっていない。


「ガンスローさんならともかくゼロなんかがどうにかできる相手じゃない! 今頃尻尾巻いて逃げ帰っているに違いない!」


 ん? このタイミングで出て行ったら逃げて来たように見られるのでは? もう少し様子を見よう。


「まったく、実力もない無能が勝手な行動をするから周りが迷惑するんだ。まあ、これでアイツが死んだところで特に変わらなイブラアァ!」

「ゼロは強いし無能なんかじゃないの! 死んだりなんかぜっっっったいしないの!」


 ダグはあいかわらず俺を貶すがミレイがそれに憤り肩にかけていたカバンをダグの頭めがけてブン回した。こころなしか俺もスカッとした。


「なにすんだこのガキ!」

「ミレイちゃんダメよ。こんなことに使ったらカバンさんが傷んじゃうでしょ」

「ゴリアテさん怒るところはそこじゃないですよ」

「やるなら外にある手頃の石を投げなさい」

「余計ヒドイ!」


 ミレイとゴリアテがダグにひどい扱いをしているが止める気にはなれないな。

 いいぞもっとやれ! と思うがここで時間をかけていたらガンスローに遅いと怒鳴られそうだ。気が進まないが出て行くか。


「人がモンスターと戦っていたのに随分のんびりとしてんな」

「ゼロ!」

「あら、思ってたより早いお帰りね。傷も致命傷じゃあなさそうだし。ガンスローちゃんは?」

「ガンスローは倒したグリズリーベアーの見張りをしてくれてる。悪いが運ぶのに人手がいるんだ何人か手伝ってくれないか?」


 俺が戻って来た事でギルド内に緊張が走るがミレイとゴリアテは当たり前とばかりに接してくれる。


「う、嘘を言うな! オマエなんかがあの化け物に勝てる訳がない! 大方逃げ帰ったのがバツが悪くてそんな嘘をついてるんだろ! 俺には分かる! そんな直ぐにバレる嘘……」

「嘘じゃねーよ」


 ダグの話を聞きながらカウンター前に移動した俺はガンスローから預かった袋からグリズリーベアーの腕を1本取り出しカウンターに置いた。

 これは魔道具と言われる特殊な道具でこの袋は見た目より多くの物が入るようになっている。原理は俺もよくわかっていない。

 本来なら倒したグリズリーベアーはこの袋に入れれるのだが変異体は普通のグリズリーベアーよりも大きくこの袋にも入らなかったのだ。


「これがその証拠だが他に反論する奴はいるか? …………いないなら手伝ってくれ。このままじゃ待たされたガンスローに全員が説教をくらう羽目になるぞ」


 運搬の準備をして何人か引き連れてグリズリーベアーを倒した場所まで行くとガンスローが腕を組んで状態で大股で座っていた。あのポーズの時は大体不満がある時なんだよな。


「遅い! 行って帰るだけで時間がかかり過ぎだ!」

「無茶言うなよ。大きい台車なんて滅多に使わないから引っ張り出すのに苦労したんだぞ」


 グリズリーベアーを2つに切断とかしたら袋が2つあれば事足りるだろうがそうしたら価値が下がり安く買い叩かれてしまう。

 モンスターの骨や皮は武器、防具の素材になるし肉は食料になる。だからいかに傷を付けずに倒せるかが冒険者の腕の見せ所というやつだ。

 それに稀少なモンスターはより高額になったりする。

 俺達は持って来た台車にグリズリーベアーを乗せて縄でぐるぐる巻きにして固定し帰路についた。帰りは交代で台車を引きながらなので来る時よりも時間がかかったがモンスターと遭遇せずに全員無事で帰ることができた。


「へぇ~、これがグリズリーベアーの変異体なのね」

「とっても大きいの!」


 ゴリアテやミレイ、街のみんなが倒したグリズリーベアーの周りに集まって来た。普通のグリズリーベアーなら見慣れているからこんなことにはならない。


「嘘だ……。あの魔力なしが倒せるはすがない。そうだ! ガンスローさんが倒した手柄を横取りしたんだろ! そうだ! そうに違いない!」


 ダグの野郎意地でも俺が倒したことを認めたくないようだ。だがダクの様子を見て街のみんな怪訝な顔になっていることを本人は気付いてないみたいだ。


「いいかげんにしろダク! 武器はワシのを使ったにしてもコイツを仕留めたのはゼロ本人だ。そこはワシが保証する」

「こんな……魔力なしなんかが……」

「それとゼロは魔力が使えるようになっとるぞ。ギルドもそれは把握しとるはずだ」


 ガンスローはそう言いながらシステナを見る。


「は、はい! ゼロさんに魔力があることはギルドで確認しました。それもかなり巨大な魔力でした」

「魔力なしに魔力が……」

「いい機会だ。前にやった総当り戦をまたやってみるか。前と今どのくらい差があるか見てみるのも一興だな」


 冒険者全員がガンスローの目線が合わないようにそっぽを向いた。

 ガンスローが言っている総当り戦は1人で街の冒険者全員を相手に1対1で戦い切る冒険者になった者の腕試しのイベントだ。もちろん魔力の使用ありなので当然全員に負けたのは言わなくてもわかるよな。

 でも今は魔力が使えるようになり身体強化もできる。これなら良い結果が残せそうだ。


「ゼロさんこのグリズリーベアーの素材や肉はどうするんですか? 素材はギルドで買い取りもできますよ」


 珍しい変異体のグリズリーベアーの素材だ。高額でうれそうだが。


「そうだな。この素材で俺の武器と防具を作りたい。それ以外は街の連中に任せる。肉も同様に欲しい奴は持って行け」

「は? え? それは……い、いいんですか?」

「今回は他のギルドへ要請後からの俺の独断専行だったしな。その謝礼やらなんやらってことで」


 この話はグリズリーベアーを倒した後にガンスローと相談して決めたことだ。それには理由がありグリズリーベアーが変異体に変化した理由に俺が関与している可能性があるからだ。

 ガンスロー(いわ)く、俺が倒したグリズリーベアー(大きさ的に子供)が食われていた周辺が滅茶苦茶になっていたのでそこが変化した場所だとして、グリズリーベアーの変化の条件には共食いが関係しているようだ。もちろん俺が倒したグリズリーベアーを食べただけで変化するくらいならもっと変異体がいるはずだ。滅多に変異体にならないのは複数の個体を食べるとか子供と大人を食べるなど他にも条件があるのかもしれない。それでも俺が変化のきっかけをつくってしまったのは事実なので報酬は街に還元しようということで落ち着いた。

 変化のきっかけもそうだが俺がやっとの思いで倒したグリズリーベアーが子供だったのが地味にショックなんだが……。

 そんな訳でまともな装備のない俺は新しい装備を。それ以外で残った素材は街のみんなに任せることにした。





「だから違う! お前はムダに魔力を込めすぎだ! 魔力の放出量には個人差があるが自身の放出量より魔力を込めてもムダに魔力を消費し、体にも負荷がかかる!もっと自分の魔力を理解しろ!」

「うるせェ! 魔力が多いから調節が難しいんだよ!

 そもそも魔力放出自体なかなかできてねーのにそんなのを気にする暇がないんだよ!」

「ならできるまでひたすらやり続けろ! (さいわ)い魔力切れの心配もないからな」

「ならガンスローには木の役をやって貰おうか」


 グリズリーベアーの素材を使った装備ができるまでの数日ガンスローから魔力の使い方を徹底的に教わっていた。

 今やっている魔力放出は込めた魔力を一気に体外へ放ち攻撃する技だ。一般的に剣を振る時に魔力放出をして飛ぶ斬撃をしたり前衛が遠距離攻撃をするために使われる。だが木に向かって魔力を放出しようにもなかなか上手くいかない。


「ゼロー。ガンバレー!」

「ゼロちゃんこれができたら今日の晩ご飯は大盛りにしてあげる」

「おかずも1品追加してくれ」


 離れた場所で声援を送るミレイとゴリアテに軽口を叩きつつ集中して(てのひら)を木にあて魔力を溜める。ポーションを作った時のようにゆっくり流す感じではなく溜めて一気に解き放つようにイメージで。


「はああああ!!」

「そんなに力んでも意味がないぞ。むしろ叫ぶ事で集中の阻害をしてないか?」

「うるせェ! 気分だ!」


 外野が黙ったので再度集中する。はっきり言って解き放つなんてよくわからん。攻撃手段なんだからぶつけるくらいでいいんだよ。


「はっ!」


 木に向かって魔力を出すとドゴッと鈍い音がして風穴が空いていた。今までは木に窪みができる程度だったから今回が一番の高威力だ。


「やったけどなんか手が痛え……」

「それは魔力の込めすぎだバカタレ。もうお前は回数を重ねて適量を覚えろ」

「もうそのつもりだよ」


 俺は他の奴より魔力が多いぶん普通の基準が宛にできない。だから自身で適量を見つけなければいけなかった。


「威力としてはまあまあね。あとはどう使いこなせるかゼロちゃん次第よ」

「ゼロ才能あるの? 前に他の人殺そうとしたの」

「そうね。ガンスローちゃんが教えた事もあるけどゼロちゃんはかなり飲み込みが早かったわね」


 ミレイが言っているのは模擬戦での事だ。模擬戦の結果だが俺の全戦全勝だった。初戦で強化に使った魔力が多過ぎて死人が出そうになったもんだから後続の奴等が棄権しようとしだして大変だったな。まあ全員と戦ってボコスカにしてやった。特にダクやら今までの鬱憤を晴らす為に1部の奴等は徹底的にやったぜ。


「ワシが教える事はこのくらいだ。後は反復練習でどんな時でも使えるようにしておけ。それで予定に狂いはないな」

「ああ。今日の朝方装備が届いたから明日で出立するよ」


 これはミレイの逸れた仲間を探す為に俺も付いて行く(もの)だ。

 ミレイだけで行かせたら十中八九死ぬ。そしてその眷属の俺も死んでしまう。そんなのは御免被る。ならば俺が護衛として同行しなければいけない。自分の身は自分で護らなければならない。

 自分を護るために他人を護るのはどうかと思うがしょうがないともう諦めた。

 早朝のまだ朝日が出て間もない時間に旅立つと決めていた。変異体のグリズリーベアーの素材で造った新しい装備品、革で造ったジャケットにズボンそれに骨を削ってできたダガー2本を左右に1本ずつ身に着け寝惚け眼のミレイの手を引き街の出入口まで来た。


「なんだ? 見送りなんて頼んでないぞ」

「ほれ、餞別だ。これがあった方が便利だぞ」


 ガンスローが放って寄越したのは魔導袋だった。しかも街で使う共有の物よりグレードが高くより多くの物が入る袋だ。


「いいのか? これガンスローの私物だろ?」

「かまわん。最近はそこまで大物を狩る機会がなくなったからな」

「なら有り難く貰っとく。だがもっと早くくれたら荷造りの手間もなかったんだがな」

「贈り物は旅立ちの時と相場が決まっとるだろうが。それにワシだけではないぞ」

「は?」


 ガンスローが意味深に俺の後ろに視線を送るので振り向くと街の他の奴等もいた。


「まったく、別れの挨拶くらいちゃんとやりな。餞別も用意したのに無駄になるところだったよ」


 薬師のババアが放って寄越した紙の束にはビッシリと手書きの文字で埋め尽くされていた。よく見るとポーションやらの薬の調合のレシピだった。


「ゼロさんホントに行っちゃうんですか?」

「やめなさいシステナ。ゼロさんだっていろいろ考えて決めた事なんだ」

「ですがギルド長、ゼロさんがいなくなったら誰が薬草採取のクエストをするんですか? ゼロさんが頻繁にやってくれていたから回ってたんですよ」


 別に俺がいなくてもあんな簡単なクエスト誰でもできるだろう。報酬が少ないのが難点だが仕方がない。


「ゼロさん以外の人はクエストを頼もうとすると代わりにやれ『一緒に飲もう』だの『今夜はどうだい?』だの下心見え見えで困るんです」


 システナの言葉にあらぬ方向を向く者バツの悪そうな顔をするものが多数いた。お前等そんなことをしていたのか。そりゃシステナの不満も溜まるな。だからといって俺が残る訳にもいかない。


「ならばワシが受け持とう。コイツより頻度は下がると思うがそこは勘弁してくれ」

「そんな、やってくれるだけでありがたいですよ」


 ガンスローの申し出にシステナとギルド長も頭を下げる。

 ガンスローなら街の冒険者達をよく知っているだろうからちゃんとした人選をしてクエストを受けさせる。これなら問題だろう。


「それじゃあそろそろ行くわ」

「ゼロちゃん、ミレイちゃんをしっかり守ってあげるのよ」

「バイバイなの、ゴリアテちゃん。ミレイ、ゴリアテちゃんと一緒にいてとても楽しかったの」


 ミレイは目に涙を溜めながらゴリアテと最後のハグをして俺は無難に片手を上げて別れをすませて歩きだした。

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