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ポーション完成

 宿に帰るなりすぐにポーション作りを再開した。入れる水の量と薬草の割合を変えたり、薬草をもっと細かくすり潰したりいろいろ試したが濃い緑色のポーションだけが量産されていった。


「どうしたもんか。残りの薬草も心持たなくなってきた」


 手持ちの薬草がなくなったらまた採りに行かないとならなくなるし魔力も感覚的には半分近くは消費したと思う。魔力はまだなんとかなるだろうができれば薬草が無くなる前に完成させたいところだが。


「ゼーーローー」


 喧しい声と共に廊下を走る足音が聞こえてくる。

 俺が帰って来たときゴリアテとなにやらやっていた様だが声をかけずに部屋へ直行したからな。

 そしてもちろん作業に集中するために鍵をかけた。


 ガチャガチャガチャ


「あーけーてー! あーけーてーなのー!」


 ドンドンドンドンドンドンドン


 案の定ミレイはドアを叩きながら喚き散らしているがしばらくすれば大人しくなるだろうと思い気にせず作業を戻ろうとするが一向に大人しくならない。


「相手なら後でしてやるから今は静かにしろ」

「いーまー! 今がいーいーのー!」


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


 余計に喧しくなった。しかも段々泣くのを我慢するような声になっている。


「だー! 鬱陶しい! 今開けてやる!」


 部屋のドアは外に開くようにできているのでいきなり開けてぶつからないようにひと声かけてからドアを開ける。

 部屋の前にいたミレイはボロボロの服ではなく白を基調にして所々赤のカラーリングをした可愛らしい服を着ていた。


「ふふふ、どうなの?」


 ミレイはこれ見よがしに1回転して見せスカートがふわっと少し(ひるがえ)る。


「どうしたんだ? その服?」

「ゴリアテお姉さんから貰ったの」


 ぞわっ


 ゴリアテ……お姉さん……だ……と……。

 ミレイの発言に体に鳥肌が立つ。アレは男女の区別を超越(ちょうえつ)していると思いやってきたがアレを『お姉さん』と言う奴は今までいなかった。

 それを目の前で言われたらアレを女性と判断してしまう奴が万が一、億が一出てしまうかもと思ってしまった。


「頼む……アレを『お姉さん』と呼ぶのは辞めてくれ。せめて『ちゃん』くらいにしてくれ」


 それもグレーゾーンな気もするが前者よりはマシだ。


「それでどうなの?」

「なにがだ?」

「この服!」


 ミレイは両手を広げてまた1回転した。そんなにその服の感想が大事なのだろうか。


「アー、ハイハイ。カワイイナ」

「ほんとう! わーいなの。ゴリアテちゃーん」


 ミレイは俺の棒読みな言葉でも嬉しそうに1階へ降りて行った。なんだったんだ?

 よくわからないがポーション作りを再開するか。


「ゼロ」

「おわっ!」


 びっくりした1階へ行ったと思ったらまた戻って来たようだ。


「ゼロはいつまでポーションを作ってるの?」

「あー、ポーションが完成するまでだな」

「なんでなの? もう完成してるの」

「なに」


 ミレイの話ではどうも魔族領ではこの濃い緑色のポーションが普通らしい。普通の緑色のポーションを魔族領から出て初めて見たとの事だ。

 薬草の品種でポーションの色が違うのか? でもいつも採取する薬草で婆さんは緑、俺は濃い緑になった。なら何が違う?

 魔族と人の違い。特殊な力? 違う。ポーション作りに関係あるもの……。巨大な魔力!

 まさか込める魔力が多いのか。多少は少なくしたりもしたがそれでも多過ぎたらしい。


「なら今度は少量の魔力を時間をかけて込めてみるか。そこから自分の魔力がどのくらい減ったかで込めた魔力がおおよそわかる」


 すり潰した薬草を入れた水をかき混ぜながら魔力を込める。魔力の量を一定にして込め続けしばらくしたら魔力と反応して薬草が水に溶け出してきた。

 そのまま薬草の破片がなくなるまで混ぜ続けたら緑色のポーションが出来上がった。

 結果込めた魔力は今まで込めていた魔力の半分程でよかった。流石にここまで少なくするとは思わなかったがこれで売ることができるポーションが作れるようになった。


「ポーションを入れる容器も少なくなったし続きは明日にするか。後は採取用のナイフを買わないとな」


 グリズリーベアーに突き刺したまま回収を忘れていた。またあの場所まで行ってモンスターに遭遇するのも嫌なので新しいナイフを買うことにした。また出費が……。俺の今後の生活はこのポーションがどのくらいで売れるかにかかっている。


「はあ、疲れた」


 魔力を使い過ぎて気疲れでも起きたのか体がだるい。床に寝転んだらだんだんと瞼が重たくなってきてそのまま寝ることにした。


「…………なの…………てなの……ゼ…………おき……………………」


 ミレイの声? そうか俺を起こそうとしてるのか。体を揺すられるがもう少し寝ていたい。そういえば俺が眷属にされたときもこんな感じだったか。あのときは痛くもないパンチが鬱陶しくて起きたんだったけ? 面倒だがすぐに起きたほうがいいか。


「起きろやゴラァ!!」

「うわ!」


 いきなり大声の野太い声で跳ね起きた。

 横を見るとミレイとゴリアテがいた。さっきの声はゴリアテだったのか。


「なんだよ。こっちは魔力を使って疲れてるんだが」

「ゼロちゃん早く来て。ガンスローちゃんのピンチなの」

「なに?」


 すぐに立ち上がりゴリアテに付いて行く。ゴリアテはあんな真面目な顔で趣味の悪い冗談は言わない。あのガンスローがと思いながらも足を速める。

 ゴリアテに連れられギルドへ行くとダクがそこにいた。


「ガンスローがピンチってどういうことだ? 他のみんなは?」

「うるさい! あんなのに勝てる訳がない! 魔力ナシは黙ってろよ!」


 ダクはガタガタ震えながら頭を抱えている。パニックを起こしてるみたいだ。所々汚れているが大きな傷は見当たらない。


「何があったんだ?」


 ダクに聞いても無駄だと思いシステナに聞いてみる。彼女ならさっき来た俺よりも状況を把握しているかも知れない。


「私も尋ねてはいたのですが要所要所しか答えてくれなくて。どうもグリズリーベアーの変異体にやられてしまったようなの」

「あのガンスローが……死んだ?」


 ガンスローはこの街一番の実力の実力だ。そのガンスローが負けたならソイツに勝てる冒険者なんているはずもなく。その場に重い空気が流れる。


「ゼロは助けに行かないの? もしかしたらまだ間に合うかもなの」

「俺が行ったところでなんになる。それにもう全滅した後だろ。意味なんてない」


 もう起こったあとから行動しても良い結果にはならないということは今までの人生でわかったことだ。

 なら動くだけ無駄だ。それなら次に備えて準備したほうがいいに決まっている。


「それでゼロはいいの? 後悔しないの? ……ミレイは後悔してるの。あのとき何もできなかった、逃がしてもらうことしかできなかったのがすごくすっごく悔しいの」


 俯き震える手で俺の袖を握るミレイ。コイツにどんな過去があったのか俺にはわからない。だが後悔は俺にだってある。だから次は間違えないように……。違う。ミレイは今行動するかしないかを問ているんだ。

 ガンスローは何もできなかった俺に戦い方や採取の仕方いろんなことを教えてくれた謂わば師匠みたいなもんだ。そんな人の身が危ないなら助けに行きたい。だがガンスローでも無理だった変異体を碌に戦って来なかった俺が勝てるかどうかも疑問だ。でも今の俺なら、魔力を手に入れた俺ならもしかしたらという気持ちもある。


「ダクちゃんはみんなが死んでるのを確認したの?」

「そんな余裕ある訳ないだろ! ガンスローさんに逃げろって言われて無我夢中で逃げて来たんだ! はっ、そうだ! 早く他のギルドへ依頼を出さないと! システナちゃん、すぐに依頼を出してくれないか!?」


 今のダクの話からして(ほぼ)全滅状態でガンスローが変異体を食い止めてる間にダクを逃がし状況を伝えようとしたみたいだ。ならまだガンスローが生きている可能性もあるかもしれない。


「ゴリアテ後は任せる。お前もここにいろ」

「ど、どこに行くつもりだ!」


 ゴリアテとミレイにそれだけ言ってギルドを出ようとするとダクに呼び止められる。


「そんなのガンスローを助けに行くに決まってる。死なれたら今までの借りが返せなくなるからな」

「魔力なしのお前が行ったところでなんの役にもたたないだろ!」

「そうだな。俺がいてもいなくても戦力には関係ない。なら今行っても別にいいだろ」


 これ以上は時間の無駄と思いすぐにギルドを出る。

 ゴリアテに言われすぐにギルドへ行ったためなんの準備もできていないのでまずは自室へ戻る。あまり装備とは言えないようなものだが本命は作っておいたポーションだ。

 怪我人がほとんどだろうからなるべく沢山腰の袋に入れる。今は緑色の普通のポーションが少ないので濃い緑のポーションも入れておく。武器は手持ちにないので現地調達するしかない。

 自室を出て森へと向かう。体に魔力を巡らせて走るといつもより速く走れている。魔力があるとないとではかなり身体能力の差が出るな。模擬戦で街の奴らに勝てなかったのも納得できるなどと考えながら森へ入る。

 ダクから場所などは聞いてないため痕跡を探しながら奥へと進む。一応は冒険者がよく使うルートを進んでいるがガンスロー達がこのルートを使った確証はない。だいぶ奥へと進み他のモンスターと遭遇してもおかしくない場所まで来た頃に複数の木に鉤爪による傷痕が確認できた。傷痕はできて間もない状態だったのでこの傷痕を頼りにさらに奥へと進む。


「見つけた」


 そこには1人の冒険者が倒れていた。外傷はあるが命を落とす程ではない。


「おい、聞こえるか? 返事をしろ!」

「ぅ……ううっ」


 普通のポーションを傷にかけながら声をかけると反応があったので声をかけ続ける。


「しっかりしろ! 他の奴らは無事か?」

「……ゼロ? なんでお前が? そうか。これは夢だな」

「寝言は寝て言え。今は緊急事態だ」

「いででででででで」


 手早く聞き出すため頭を掴んで締め上げて現実に戻してやる。

「もう1度聞くが他の奴らはどうした? 無事なのか?」

「わからねぇ。俺は逃げてる途中で変異体のグリズリーベアーの突撃を受けて……」


 コイツ等が逃げようとするほど手強いのか。わかっていたが手ぶらで勝てるような相手ではないか。


「俺は先へ行くがこいつは借りてくぞ」

「無茶だ! あいつには刃物も魔法も効かなかったんだぞ!」


 コイツが使っていたであろう側にあった鉄の剣を拾う。ちょっと前に複数の木が焦げていたのは火の魔法のせいか。


「それでも行かなきゃみんな死んじまうだろ。その後街の護衛やらなんやら冒険者がいないと困るだろうが。お前も他のモンスターに襲われる前にさっさと戻れよ」


 この先に進んだであろう痕跡に向き直る。一直線に木々が薙ぎ倒され変異体がどれほど危険なのか火を見るよりも明らかだ。それでも助けると決めた。

 もしかしたらガンスロー達にトドメを刺さずに変異体が立ち去ったっという事もありある。だから俺は自分の死地に成り得る場所へと足を進めた。

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