魔力の使い方
ポーションを作るには魔力がいる。そのため自分で薬草を採ることはできてもポーションを作って売ることはできなかった。
だがそのことを知らなかった当日の俺は道具を揃えてから薬師の婆さんに作り方を教わりに行った。今に思えば順番が逆だった。婆さんのポーションを作る作業は見ていたから使う道具は知っていた。だから先走って道具を一式揃えてしまったのだ。
今度は失敗しないように今は戒めとして部屋の片隅に置いてある。
「それを今更使う日が来るとは思わなかったがな」
ずっと放置していたからホコリまみれだったで道具を洗うところから始まった。
道具をキレイにした後まずは薬草をすり鉢に入れすり潰す。それをガラスの容器に移し水を入れて掻き混ぜる。魔力を持たなかった俺にはここまでしかできなかったが今は魔力があるらしい。いまいち実感がわかないがとりあえず魔力を込めながら掻き混ぜればポーションが完成する。
「むん」
………………魔力を込めるってどうすればいいんだ?
「なあ、魔力の込め方ってわかるか?」
「その言葉はミレイも聴き逃がせないの! ミレイは魔族なの! できて当然なの!」
何気なしに側にいたミレイに聞いてみるとプンスカ怒り出した。流石は子供といえど魔族だ。その扱いは人より長けていると聞く。
「こう、ミョミョミョミョミョ〜〜って感じなの」
わからん。ミレイは手を前に出して変な効果音を言う。うん、わからん。
今度はゴリアテに聞こうと思いミレイをほっといて部屋を出る。
「ゼロがミレイを無視したーーーー!」
ギャン泣きしながら階段を降りてくるミレイ。
「魔力の込め方? なら魔力を全身に巡らせなさい。体にあるエネルギーを指先まで行き渡るように」
ミレイの頭を撫でて涙を拭きながらゴリアテは答える。
真剣に聞けばゴリアテは無駄なことは言わないきっと必要なことだと思い黙って指示に従う。
「ぐっ、ぬう」
「変に力まない。大事なのはイメージよ。まずは魔力を感じなさい。ゼロちゃんは元々魔力がなかったんだから今ある違和感を感じるのよ」
目を瞑って集中する。体の違和感。魔力。エネルギー。感じる?
体の中心に暖かいでも何故か冷たい感覚があった。これが魔力なのか? この暖かさを体に広げるようにイメージする。
「ゼロ、広げるより巡らせるの。血が全身を巡るのと同じなの」
ミレイの助言の通りに魔力を流し循環し体全身に巡らせる。
「次はその魔力を手に集めて。全部じゃなくて3割程で十分よ」
全身に流している魔力を手の所だけ遅く流すと手が他の箇所より暖かくなる。でもこれ結構疲れるな。
「あとは手に集めた魔力を外に放出するだけ。その感覚は人それぞれだからゼロちゃん頑張れ」
「最後は丸投げかよ!」
くそ! 放出つったて何をどうすりゃいいんだ? あーもう段々熱くなってきた! あ、熱いなら熱を外に出すイメージをすればいいのか?
手に集まった熱を外に逃がすようにする。
「すごいの。できてるの」
「さすがゼロちゃんね。でもこれはまずいかも。ゼロちゃんすぐに魔力の放出をやめなさい!」
ゴリアテの声で熱を逃がすのをやめる。珍しくゴリアテの切羽詰まった声を聞いた気がするな。
「あ……?」
熱を逃がすのをやめると同時に膝から崩れ落ちた。
どうしたんだ?立ってられない。それに息も上がっている。
「ちょっと無茶しすぎちゃったかしら? ゼロちゃん普通なら衰弱するくらい魔力を放出してたものね。さすが吸血鬼の眷属ってところね」
コイツ、サラッととんでもねえこと言いやがった。まだ加減がわからないから適当にしていたが結構ヤバイ量だったのか。
「それに魔力放出までできるようになるなんてびっくり。普通は魔力循環だけでも何週間もかかるのにね」
「魔力放出をするのにも1ヶ月以上は練習しないとできないの」
ゴリアテの奴簡単に言うから誰でもできると思っていたがそうでもないらしい。
少しずつ息を整えてから立ち上がる。まだちょっとふらつくが問題ないだろう。
「いろいろ言いたいが助かった。ポーション作りの続きしてくるわ」
「ゼロちゃんあと2つ程言っておくけど魔力を集めることでその部位を強化できるわ。基本的なことだからスムーズにできるようになりなさい。それとその強化は武器にもできるの。だたし体内で循環するのと違って魔力を送るばかりだから魔力の消費が少なくないしモノによっては魔力を送り過ぎて壊れちゃうこともあるから気をつけなさい」
振り返らずに手だけ振って応えながら部屋に戻る。
魔力の込め方もわかったのでポーション作りを再開する。時間が経ったことですり潰した薬草が沈殿していたので再度掻き混ぜながら容器を持ってる手で魔力を込める。
さっきより魔力を少なめにして込めていると残っていた薬草の繊維などがなくなり濃い緑の液体になった。
「色が濃い?」
おかしい。俺の知ってるポーションは普通の緑だ。なんでこんな色になったんだ?
「わからないなら専門家に聞くか」
素人の俺がいくら悩んでも答えなんてわかる訳がない。ならさっさとわかる奴に聞いて問題を解決させたほうがいい。久々に顔を出しに行くか。
行く場所は街にある薬屋だ。俺がギルドで受ける採取系の依頼の殆がその薬屋からの依頼だ。それとミレイは宿に置いて来た。ゴリアテも気に入ってるし会話に花を咲かせていた。
「おう、婆さんまだ生きてるか?」
店の扉を開けるなりそんな言葉を放つと奥から如何にも年季の感じる婆さんが出て来た。
「誰かと思ったら坊じゃないかい。久方振りだね」
ヒッヒッヒと笑うこの婆さんがこの店の店主。生涯現役と言わんばかりにずっと店で働いているがこの婆さんの年齢を知る者は1人もいない。
「薬草でも直接持って来た訳でもないんだろ。何のようだい?」
「話が早くて助かる。このポーションなんだが何のポーションかわかるか?」
ポーション用の容器入れ直した自家製ポーションを見せる。
ポーションは色でどのポーションか判別することができるので専門家ならこれがどんなポーションなのかわかるはずだ。
「これは……。このポーションどこで手に入れた」
ポーションを見た婆さんの目つきが変わりいつもよりドスの効いた声を出す。
これは思ったよりヤバイのができたのか? これが違法の類だったらシャレにならない。ここは正直に言うか。
「先日俺にも魔力が使えるようになったみたいでな試しに作ってみた。これなんのポーションなんだ?」
「……そうかい。ついに坊にも魔力が使えるようになったかい。坊は売られているポーションは知っているか?」
「飲んで体力や怪我に直接かけて治す緑色のポーション。より治りがいい青色の上級ポーション。違法だがポーションを薄ませてほどほどの効果の薄緑の劣化ポーションだな」
一般的にポーションが売られているが稀に上級ポーションも売られている所もある。値段はかなりぼったくりと言いたくなるほどだが。それでも命には変えられないから買う奴もいる。
劣化ポーションはポーションを水で薄ませて使われるがモンスターと戦うならそんな物あってないような物だ。普通ならそんな物は使わないし買わないがそれでも縋る奴はいる。怪我を治したいのにポーションを買うための金が無いなど少しでも治したいその場しのぎな奴が買う物だ。
「普通は前の2種だが市場に出回らないポーションもいくつかあるが後々学びな。それとこのポーションはポーションとしては失敗作だね」
そうか。婆さんが言うならこのポーションを売るのは止めておくか。この婆さんにもいろいろと世話になってるからな。それくらいの信頼はしている。
状況にもよるがこれがダクならすぐには信用できないな。
「言わなくてもやらないだろうけどそれを売るんじゃないよ。効力はあるから自分で使いな」
「なんでこの色になったのか……」
「自分で考えな。こういう試行錯誤は薬師になるための経験になる」
俺の言葉を遮って断られた。
俺は別に薬師になるつもりはないんだが。金になるから冒険者のついででやってみるか。
「普通のポーションができたならそれを売りな。個人で売るなら露店なりなんなりやりゃあいいが店に卸すならちゃんと人を見るんだよ。自分で作った物を理解するんだね」
後は勝手にやりなと言いたげに婆さんは奥へと消えて行った。店番くらいやれよと思ったが薬草の話題が来ても嫌なので帰るとするか。
「ん? あいつ等なにやってんだ?」
街の出入り口に朝と同じ光景をしていた。つまり冒険者が集まり編成を組んでいたのだ。
その中心はやはりガンスロー。愛用の斧を背負い大声で指示をしていた。
「全員、準備はできたか? 今回の獲物は今までのモンスターとわけが違う! 準備を念入りにしておけ!」
「ガンスローさんその変異体ってやつそんなにヤバイんですか? たかがグリズリーベアーにこんな人数いらないでしょ」
ダクがガンスローに質問しているが真面目にと言うより格下相手に戦力過多だと鼻で笑う感じだ。
グリズリーベアーを何体も倒した経験があるから言える事だ。実質この街の冒険者の全員が倒した経験がある。俺以外は。
朝の件で倒せたなんて思ってないぞ。あんな不意の一撃で倒せたくらいで毎回そんな事出来るわけがない。せめてそれが偶然でなく狙ってできるようになるまで倒せたとは思えない。
「変異体とはモンスターがある条件を満たした場合のみなれる個体だ。その強さは元の個体の数倍と言われておる。ワシも戦うのは初めてだからな。念には念を入れて皆に集まってもらった。……おいゼロ!」
げっ! 見つかった。まあ、見晴らしのいい場所で棒立ちで見てたら見付からない方がおかしい。
しょうがなくガンスローの方へ行く。
「なんだよ? 俺もやることがあって帰りたいんだが」
「はあ? オマエのやることってなんだよ? また草取りかなんかだろ?」
ガンスローと喋ってるとダクがまた割り込んで来る。
うるせぇな。テメェには用はねぇんだよ。
「ゼロ、お前もこの討伐に参加するか?」
いい加減鬱陶しいダクを殴ろうと思っていたらガンスローが意外な事を言い出した。
「ガンスローさん正気ですか? こんな奴を入れて何の役に立つんですか?」
「ダク黙れ。どうなんだ?」
ガンスローはダクを見ずに威圧の籠もった一言で黙らせる。目はずっと俺に向いていた。
「……止めておく。さっきも言ったようにやることがあるからな」
「そうか」
ガンスローはそれだけ言って他の奴等の方へ向き直る。もう用はないと言わんばかりの態度だ。
「おい」
俺の言葉にガンスローが振り返ると同時に自作ポーションを投げて渡す。咄嗟で取りそこねるかと思ったが杞憂だったようでガンスローは見事掴んだ。
「やる。自作ポーションだが薬屋の婆さんから失敗作認定されたがな。効果はあるらしいから予備として持っとけ」
「これをお前が。体調は大丈夫なのか?」
「どういう事だ?」
「なんともないならいい。有り難く貰っとくぞ」
そう言ってガンスロー達は変異体とやらを討伐しに街を出発した。