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一蓮托生

 いろいろ考えたが最終的に眷属になったことなど全部説明することにした。話さなかったとしてもどこかでバレるかもしれないしそれならさっさと話して信用してもらった方がいいはずだ。


「というわけでこれ以上面倒な事になる前に逃げる事にしただけだ」

「事情はわかったが眷属云々(うんぬん)以前に魔族とはいえ子供を置き去りにして行くのもどうかと思うぞ」

「ゼロちゃんたまに人としてどうかと思う行動をするから心配よ」


 他人事だからそんな事を言えるが当事者からすればそんな面倒事には関わりたくないと思うのは普通のはずだ。


「ゴリアテ殿あとは任せた。ワシは用事ができたのでこれで失礼する」

「私でいいの?」

「かまわん。ゼロよ無知で身を滅ぼす事もある。ゆめゆめ忘れん事だ」


 そう言いガンスローは宿屋を出て行った。

 なんだよその捨て台詞。それに用事ってなんだよ。見た目は変わってないが魔族の眷属になったから近付きたくないとかそうゆう理由で適当な事言ってるだけじゃないのか。

 この2人なら信用できると思っていたけど安易に決める事じゃなかった。


「言っておくけどガンスローちゃんはゼロちゃんをどうでもいいなんて思ってないわよ。あの人はただ不器用なだけ」


 俺の感情の機微を察したのかゴリアテがそんな事を言う。


「まるでガンスローが俺のことを心配している風に聞こえるがそれはないな。冒険者になったばかりの頃はいろいろ世話になったが今では顔を合わせるたびに冒険者を辞めろだのなんだの言ってくる始末だ。魔力のない俺には冒険者しか碌に稼げねーのによ」

「でもその問題は解決したわね」


 問題が解決したってどういう事だ? よくわからないがゴリアテは嬉しそうに見てくる。


「あら、気付いてないの? 吸血鬼の眷属になったのなら強い肉体と人以上の魔力を手に入れてるはずよ」

「は?」


 俺が首を傾げているとゴリアテがとんでもないことを言いだした。

 ミレイから強い力が出せるとは言っていたが魔力の事は何も言っていなかった。でも当然か。強い魔力を持っている魔族の眷属になったのなら魔力が使えるのも不思議ではない。


「でも注意してね。ゼロちゃんの主人、ミレイちゃんが死んだらゼロちゃんも一緒に死んじゃうからね」

「は?」

「眷属を作る吸血鬼はかなり稀だけどそういった事例もあるの。だからもし取り残されたミレイちゃんがモンスターにでも殺されていたら今頃ゼロちゃんも……」


 おい、そんなの聞いてないぞ。

 ゴリアテの話を聞いてミレイを見る。


「なの」


 ミレイ用にゴリアテお手製の果汁水入りのコップを両手で持って飲んでいたミレイが小さく頷く。


「ちなみに俺が死んだらコイツも」

「そんな訳ないでしょ。主人と眷属が対等な訳ないわよ」

「だよな」


 うん、知ってた。つまり俺にとってミレイとは一蓮托生。俺が死なないためにコイツを守らないといけないということ。この弱虫吸血鬼を。


「それと純血の吸血鬼は特別な能力があるって聞くけど純血の眷属にも何かしらの能力に目醒めるそうよ。でも……」


 言葉を途中で切ってゴリアテはミレイを見る。

 吸血鬼の純血の特徴は金髪である。つまり吸血鬼で金髪以外の髪の色だと混血だとすぐにわかる。だから白髪であるミレイは混血。俺にそんな力に目醒める事はないという事だ。


「…………なの」

「ん?」

「ミレイは! じゅんけつなの!」


 ミレイは俯きながら叫んだ。

 いきなりの事で少々ビックリしたがよく見るとミレイの手に水滴が落ちてるのに気付く。

 俯いてて表情はわからないがさっきの絞り出すような叫びで碌でもないことは察せる。


「ミレイちゃん。女の子だからってやすやすと涙を見せちゃダメよ。ほら涙を拭いて」


 ミレイの近くまで来たゴリアテは俯いてるミレイの顔を上げて涙を拭いてやる。元から世話好きなゴリアテだが子供にはなおさらだ。自分の見た目で子供が怖がるから遠目で見守ってるのは周囲の事実だ。


「なにがあったのかミレイちゃんがどんな日々を過ごしていたのか私にはわからないけど、ミレイちゃんがそう言うなら私は否定しないわ。もちろんゼロちゃんも。目つきは怖いけど優しい子なの」

「…………」

「それに女の涙は武器にもなるんだからここぞって時に使うのが上策よ」


 本気だか冗談だかよくわからない事を言いながらウインクをするゴリアテ。


「ふふ、おねえさんおもしろいの。……おにいさん?」


 今更な事を言うな。俺はもうゴリアテの性別は考えないようにしている。むしろ性別ゴリアテでいいくらいだ。


「あら失礼ね。身体は男でも心は乙女よ」

「ならおねえさんなの」


 言い切りやがった。同じ事を言われたが俺は割りきれなかったがミレイは違ったようだ。

 泣き虫のくせにこうゆう所は図太いのか。



 ◇



 その頃ゼロ達と別れたガンスローは森の中にいた。ゼロが言っていたグリズリーベアーを倒した場所を探していたのだ。


「ん? これは……」


 ガンスローが目に入ったのは周囲の木々が何十本もへし折られている場所だった。まるで怒りをぶつけられたように散乱としている。

 そしてその中心にある死骸の前にガンスローは呟いた。


「むう、予想以上に厄介な事になっとるな」


 その死骸は喰い荒らされボロボロになっていた。



 ◇



 俺はミレイを連れて今再びギルドへ来ていた。ゴリアテの言う事が本当なら吸血鬼の眷属になった俺には魔力があるようになった。その量がどのくらいか知るためにはギルドで調べたようが早いからだ。


「あ、ゼロさん今度はどうっ!」

「どうっ?」


 ギルドに入るなりシステナはどう表現すればいいのかわからないリアクションをした。

 彼女がこんな反応をするのは初めて見た。


「ぜぜゼロさんそのののお子様はどこのどちら様ままま」

「とりあえず落ち着いて普通に喋ってくれ」

「はっ、失礼しました」


 ガタガタ震えていたシステナは1回咳払いをして何事もなかったように取り繕う。


「ところでそのお子様はどちら様ですか? 親戚の方ですか? それとも…………ゼロさんのお子さんですか?」


 システナから殺気を感じるのは気の所為だろうか。特にお子さん辺りからすごい威圧がしたぞ。ギルドに子供を連れて来てはいけないなんて聞かないし単に子供嫌いなのかもしれない。

 ミレイはミレイでシステナが恐いのか俺に抱きついてくる始末だ。


「俺に子供なんているか。そもそも相手すらいないのに。コイツは…………あー、なんだ」


 素直に答える事情でもないしいい言い訳がすぐに思い付く訳でもなく適当に誤魔化しておくか。


「まさかゼロさん」

「っ!」


 この短い間で魔族の眷属の事がバレたのか? さすがギルドの受付嬢その洞察力は並ではないか。


「ゼロさんが少女趣味だったとは知りませんでした。どうりで私の誘いにも応じてくれない訳だわ。そもそも私が守備範囲外だったのね」


 システナは口元を手で覆い涙を流しながら倒れ込んだ。

 待て、どうしてそうなる。

 迷子かもしれないだろ、この街の住人が顔見知りだけど。親戚の娘かもしれないだろ、親戚なんていないけど。

 そう考えたら見知らぬ子供を連れて来たら不信に思うか。俺だってガンスローが小さい子供を連れて来たら何かしらの思うはず。

 いやそれよりも今はシステナの誤解を解かないと俺の人生が破滅に一直線な気がする。


「そんな訳あるかコイツは、そうだな護衛対象だ」

「護衛?」

「そうだ。コイツになにかあったら俺の首が飛ぶ」


 手で自分の首を切るように動かしながら説明する。全部は説明できないが嘘は言ってない。


「でもゼロさんが護衛って大丈夫なんですか? 他の冒険者の方のほうが」


 正論だわ。モンスターと戦えないような奴が護衛なんか出来るわけがない。

 でもそれは以前の俺だったらの話だ。ゴリアテの話が本当なら俺でも護衛は出来るはず。


「それを調べに来たんだよ。悪いが水晶の準備をしてくれ」


 ギルドには魔力量を見れる水晶がある。透明な水晶が黒くなるほど魔力量が多いと言われ前回の俺は一切の曇りのない透明のままだった。


「お待たせしました」


 しばらくしてシステナが水晶と敷布を持ってきた。

 敷布にはよくわからない文字や図形が書かれている。図形の中心に水晶を置いて準備完了だ。

 俺は水晶に手のひらをかざすと中心からだんだんと黒くなっていき水晶は透明な所がない真っ黒となった。


「すごい。ここまで黒くなるのは初めて見ました。え? ゼロさん今まで魔力なんて全然なかったですよね? なのにどうやってこんな量の魔力があるんですか?」


 ゴリアテが言っていたのは本当だったらしい。しかもかなりの魔力量だ。システナの疑問ももっともだな。


「アレだ。崖から落ちて死にかけた際に秘められた力が覚醒みたいな?」

「じーー」


 自分でも苦しい言い訳だと思ってる。でも吸血鬼の眷属になったなんて言える訳がない。だからそんな目で見るな。


「はあ、冒険者で情報の秘匿をする人もいますから無理矢理聞き出すなんて事はしませんが怪しげな薬やら儀式なんてしてないですよね?」

「してねーよ。そういうのはやたら金がかかったりするからな」

「タダなら」

「する」


 俺の即決に頭を悩ませるシステナに変な目で見るミレイ。

 タダで強くなれるならするに決まってるだろうが。だがそういうのに限って碌でもないリスクがあるのが常だ。やはり手は出さないでおこう。

 魔力があることが確認できたのでギルドを出る。システナからは依頼を頼まれたが今日は断った。魔力があるなら試してみたい事があったからだ。


「むーなの」

「なにふくれっ面してんだ?」


 ギルドに入ってからミレイの機嫌が悪い。なにか嫌な事でもあったのか?

 ミレイの事はほっといてこれからやる事を考える。


「となればまた薬草を採りに行かないとな」

「あ、ゼロこれなの」


 ミレイが見覚えのある革袋を取り出す。それは俺が薬草を入れていた革袋だった。


「これどこで?」

「ゼロを追いかけてる途中で拾ったの」


 逃げるのに必死で落ちた事に気付かなかったのか。

 はっ! 今これをギルドに渡したら違約金が返ってくるんじゃないか?

 ……いや、やめよう。もう終わった事だ。どうせこれから使うから手間が省けたと思うことにする。

 帰ってポーションを作ろう。

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