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魔力なし

 眷属ってなに言ってんだコイツ?


「ゼロを助けるとき私の眷属にしたの。じゃないと死んじゃうくらいケガが酷かったの」


 ミレイは俺の混乱をよそにあっけらかんと言った。魔族で眷属と言ったら1つの種族しか該当しない。


「オマエの種族ってまさか……」

「そう、私はきゅうけちゅ……吸血鬼なの。だからその眷属になったゼロはさっきのように強い力が出せるの。すごく強くなったの」


 コイツ噛んだこと流しやがった。


「そうか眷属か。どうもありがとう。……なんて言うと思ったか! どうするんだ! これから街に行くのに魔族になりましたなんて言える訳ねーだろ!」

「なんで怒鳴るの!? 人種より強くなったの! いいことなの! その証拠に目が……目が?」


 ミレイが俺の顔を厳密にいうと目を見ながら言葉に詰まった。


「おかしいの。さっき私を助けるときは目が赤くなってたの。でも今は元の汚い黄色に戻ってるの」

「汚いとか言うな! せめてくすんだと言え!」


 なんで目の色だけで罵倒されなきゃいけないんだ。


「まあ、目が赤くなってないのならオマエの眷属って話も疑問だな」

「でもさっきのゼロの速さは普通の人には出せないと思うの」


 む。それを言われると反論できない。自分でもあの速さは異常だと思っていたし魔族の力だとしたら納得もいく。いやでも…………。


「やめた。俺は帰るじゃあな」


 それだけ言って俺は振り返った後ダッシュで逃げた。眷属うんぬんは置いといてこういうのには関わらないに限る。


「え? ええええぇぇぇぇ〜〜〜〜!!」


 置いて行かれたミレイの声が森に響いた。





「はあ、はあ、はあ」


 ミレイを撒いて街の近くまで帰って来れたが自分の目の色が気になって仕方がない。もしミレイが言っていたように赤目になっていたら街の奴らに何言われるかわかったもんじゃない。


「でも元に戻ってたとも言っていたし今は気にしないようにするべきか。ん?」


 森から出てから道なりに進むと小さな街が見えてきた。特産品など目新しい物もなくどこにでもあるごくごく普通の街だ。街の出入り口で何人もの冒険者がいた。その中には見知った冒険者も複数人いる。


「おう。朝早く集まってなにしてんだ?」

「おまっ……ゼロ! 生きてたのか! ガンスローさん! ゼロが帰って来たぞ!」


 気になったのでその場にいた1人に声をかけると俺を見てびっくりしたように両肩を掴んできた。


「勝手に人を殺すな」

「帰って来たのか。クソガキ」


 大きな斧を担いでやって来た男の名はガンスロー。この街で1番の古株で今も現役の冒険者だ。


「帰って来て悪いか。クソジジイ」

「誰がクソジジイだ! ワシはまだ57歳だ!」

「なら俺もガキよばわりするんじゃねーよ。21で成人しとるわ」


 ガンスローには街に来たときから世話になってるし悪い奴じゃないのも知っている。だがこのガキ扱いだけは気に入らない。


「ふん。そんなことより薬草を持って帰るだけの仕事でどれだけ時間がかかってんだ。もう冒険者なんて辞めたらどうだ?」

「うるさい。何度言われても何を言われても俺は冒険者を辞める気はない」

「おいおい、ガンスローさんがわざわざ言ってやってんのに何だその態度は?」


 ちっ、面倒なのが来た。コイツはダク。態度がデカくガンスローに媚びを売る小心者。いちいち俺に突っ掛かってくる鬱陶しい奴だ。


「おい、なんか言えよ魔力なしのゼロ。今の時期子育てのグリズリーベアーに襲われて死ぬのがオチなんだからガンスローさんの言う通り冒険者を辞めた方が身の為だぞ」


 そのグリズリーベアーを先程偶然だが倒してしまったのだが言うだけ無駄だろう。証拠もなにもないしな。早くギルドへ行って薬草を届けよう。


「ダクお前は黙ってろ。そうだ、みんなも集まってくれたところ悪いが解散だ」

「じゃあ俺もギルドに行くわ」


 なんで集まっていたのかよくわからないが解散するならそれに便乗して俺も離れることにする。

 街にある冒険者ギルドは住民の雑用、隣街の依頼から他の国からの依頼まで幅広く依頼を出している。そのうち俺にできる依頼は雑用くらいで報酬は少ない。

 モンスター討伐などの依頼なら報酬が多い。当たり前だモンスター討伐は最悪命を落とすことにもなる。だから報酬も多めにされている。だが俺にはモンスターを倒せる力なんてない。

 さっき言われたように俺には魔力がない。魔力は肉体の強化や武器に纏わせて強力な攻撃ができる力だ。本来ほとんどの種族が大なり小なり持っているはずの魔力が俺には一切なかったのだ。それが理由で魔力なしのゼロやらいろいろ言われていた。

 なので俺が受けれる依頼は薬草採取などの雑用くらいだ。


「ゼロさん無事だったんですね。昨日は帰って来なかったから心配してたんですよ」


 ギルドに行くと受付嬢のシステナが声をかけてきた。この街の小さいギルドで働いている1人。魔力がなく雑用くらいしか依頼を受けていない俺すら率先して声をかける優しい女性だ。


「まあ、ちょっと足を滑らして崖から落っこちてな……」

「崖から落ちた! 怪我は? どこか痛めた所はありますか?」


 俺が崖から落ちたと言ったらシステナはカウンターから身を乗り出して慌てたように体調を聞いてきたが怪我はもうないと言ったら落ち着いてくれた。


「気をつけてくださいよ。ゼロさんがいなくなったらいろいろ困るんですから」

「お、おう」


 俺なんかいなくても困る事なんてないだろが勢いに圧倒されて頷くしかなかった。俺にもこんな親身になってくれるんだ人気があるのも当然か。


「それで薬草の採取の方はどうでした? 崖から落ちたとしても薬草がなかったら依頼失敗となり違約金を払うことになるのですが……」

「ああ、もちろん…………あれ? …………そんなまさか」


 ない。いつも腰に括ってる革袋に取った薬草を入れているがその革袋がない。ミレイに渡したのは別の保存食用の革袋だ。朝に目が覚めたときはあったはずなのに。


「どうかしましたか?」

「…………薬草……落とした」

「…………はい?」


 しばらく痛い沈黙が流れるがその沈黙を先に破ったのはシステナだった。


「あの、すみませんが薬草を納品できないのならその……」


 システナは俺の(ふところ)事情も知っているから言いづらいだろうが規則は規則だ。そこに私情を持ち込んだら信用の問題になる。


「わかってる。持ち帰れなかった俺が悪いからな。これで足りるか?」


 なけなしの金を出しカウンターに置く。

 どうも昨日から嫌な事が続くな。こんな気分の時は酒でも飲みたいがそんな金はない。……帰って寝るか。


「あ、あの!」

「ん?」

「もしよかったらなんですが今晩食事でもどうですか? その、今回の件でゼロさんお金がなくなっただろうから少しでも足しになればと愚考したというか。そう! 冒険者は体が資本! なのでちゃんとした食事をしないといけないわけです! ですから私と食事に行きましょう!」


 段々早口になり鬼気迫るものがある。いつもならありがたい申し出だが。


「すまん。昨日からいろいろあってそんな気分じゃないんだ。またそのうち誘ってくれ」

「そっ、そうですよね。怪我とかはなかったみたいなのでゆっくり休んでくださいね」


 もう1度謝ってギルドを出る。

 今日起きてからモンスターとの戦闘やら吸血鬼の眷属になってたやら手元の金がほとんどなくなったりで精神的に疲れた。帰って寝よう。

 ため息をつきいつも泊まってる宿屋に足を向ける。


 カランカラン


 扉に付いていた小さな鐘の音が宿屋のロビーに響いた。

 ここは街にある唯一の宿屋で部屋が綺麗で料金も安い。そのうえ料理(部屋代別)も絶品だ。なのに利用客が少ないのは理由がある。

 1つ目はそもそも宿を取る人がいないからだ。この街にいる冒険者は全員子供の頃から住んでいる奴ばかりだ。俺みたいに他所から来て長い間滞在する奴なんていないし、他所から来た冒険者ならここに泊まるしかないがこんな小さな街にわざわざ来る奴は稀だ。

 2つ目はこの宿屋唯一の欠点と言っても過言ではない。それは……。


「あら、おかえりなさいゼロちゃん♡」


 カウンターの奥から来たのは筋肉隆々の男。この怪物ことゴリアテと言う名の男がここの店主だ。

 従業員はおらずたった1人でこの宿屋を切り盛りする有能者。見た目からして腕っぷしもあり家事全般をそつなくこなす


 その口調が女言葉でなかったらどれほどよかったか。


「ちゃんはやめろって言ってるだろ」

「いいじゃない、かわいいでしょ♡」


 ウインクをするな。女言葉を使う強面(こわもて)の筋肉ダルマがかわいこぶっても怖いだけだ。

 背筋に冷たいモノを感じつつ2階にある自分の部屋に向かう。


「ご飯はどうするの?」

「やめとく。金もないし早く休みたい」


 階段を上がりながらゴリアテに返事をして部屋に入る。

 部屋には備え付けの机とベット、洋服入れがあるくらいで私物がない。しいて言えば収入を増やそうとして結局ダメだった備品のガラス容器が部屋の隅にホコリを被ってる程度だ。

 部屋に入ってすぐベットに倒れ込む。


「はああぁぁ〜〜〜〜。ダメだ。やる気が出ねー。でも金もないし働かないと宿代すらなくなる」


 今の懐具合を見ても金が増える訳もなく只々怠惰に時間を潰す。とりあえず今日は動く気にならないのでだらだら過ごすことにする。


「ゼロちゃーん!ガンスローちゃんが来たわよー!」


 ベットに横になってる状態で次第に目蓋が落ちてきた時ゴリアテの声が聞こえて顔を上げる。ガンスローをちゃん付けにできるのはゴリアテくらいなものだ。


「いったいなんだ?」


 体を起こし頭を数度横に振って眠気を吹き飛ばしてからロビーまで行くとガンスローとゴリアテ以外にもう1人いた。


「ゼーーーローーー!!」

「ぐはっ」


 俺を見たミレイが腹に向かって勢いよく頭突きをしてきた。


「なんでミレイを置いて行くのバカーー!」


 痛みに加えミレイの涙と鼻水で俺の服はベトベトになっていた。完璧に撒いたと思っていたがそこまで上手くはいかないか。


「オマエその子になにしたんだ? ずっと泣きながらオマエの名前を叫んでたんだぞ」

「ゼロちゃんまさかこんな小さい子に……」

「待て、変な想像をするな。ちゃんと説明する」


 勝手な想像で犯罪者扱いされるのは真っ平ごめんだ。さて、どこまで説明するべきか。

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