メイド
「魔王様……お酒を……ひくっ」
メイドのソリアは俺にお酒を勧めてくる。しかし、ソリアは俺より先にお酒を飲み、酔っているようだ。しゃっくりをしている。
俺のメイドはかなり役立たずのようだ。
「お酒は飲まん」
だが俺は、お酒を飲まない。お酒は体が熱くなっておかしくなるので気に入らない。
勇者の頃も、1回も飲んだことなかった。
こういう祭りみたいなものは、俺が勇者だった頃もあったが、こんな自由なものではない。
人によって身分が決められ、飲むお酒も制限されていたのだ。
ルイロスがこのような祭りをしていたと思うと、少し羨ましく思う。だが、今はこの座にいるのが俺だが。
「なぜ飲まないので……ひくっ……すか?」
もっとしっかり喋ってほしい。聞きにくいぞ。
「お酒は嫌いなんだ」
「なんと! 魔王様もこのお酒を飲めば、好きになり……ひくっ……ますよ!」
「俺に構うな、向こうへいけ」
「はい……魔王様」
俺はメイドのソリアを追っ払い、1人、祭りを見て楽しむ。
しかし遠くから視線を感じ、俺は視線の主に魔眼を向けた。
すると魔眼を向けられた魔族は、俺の魔眼に気づき、悪びれることなく、出てきた。そしてこちらに歩いてくる。どうやら隠れるつもりはないらしい。
「なんだ」
「申し訳ございません」
なぜか謝ってくる。それだけ言って祭りに戻っていった。
俺に用があると読んでいたが、ただ見ていただけかもしれない。俺はそう思うことにし、また祭りの様子を窺う。
様子を見るといっても、観察が第一だ。
この祭りの多くの魔族が集まっている今、どんな奴がいるのか観察するのが効率的にもいいだろう。
すると、メイドのソリアが戻ってきた。
「魔王様〜、こ、このお酒なら〜」
片手にお酒を持ちながらお酒を俺の前に出してくる。
「クビにするぞ」
俺はそう告げると、我に帰ったのか、酔いが覚めたようだ。
「申し訳ございません。直ちに他の魔族たちにも注意しま……ひくっ……す」
口調はいつもに戻っているが、しゃっくりは止まらなかったようだ。
そうして踵を返し、祭りに戻っていく。
俺はその後ろ姿を見ていたが、俺に勧めてきたお酒を一気にもしているのを見てしまった。
俺はそれを無視して、魔族の観察をすることにした。